助詞句の構成

#SDL.名詞や kin 節を伴う助詞句

名詞や kin 節は必ず前に助詞を伴って助詞句となる。 このとき、 助詞によって名詞の格が表される。

câses a tel e yaf.
私は妹に会った。

1 には、 a tele yaf という 2 つの助詞句が用いられている。 助詞句 a tel に含まれる助詞 atel が主語として文中で用いられていることを明示していて、 e yaf に含まれる eyaf が目的語であることを示している。

助詞句は他の語句を修飾する。 助詞句が修飾する語句の種類については #SJG で詳しく述べる。

terac a ces e tirmal.
彼女はジュースを飲んでいる。
hafe e ferac.
手伝ってくれてありがとう。
qetat a nîl i tel vo kosxoq.
私の兄は図書館にいる。
pa kavat a loc e sokiq aqôc izi fit?
これの他に時計を持っていますか?
salat a cit e agulod emic ini kèc.
それはコーヒーより苦かった。

2 にある a cese tirmal は動詞修飾形が成す助詞句で、 ともに動詞 terac を修飾している。 3 にある e ferac は、 間投詞 hafe を修飾している。 4 にある i tel は非動詞修飾形が成す助詞句で、 名詞 nîl を修飾している。 56 にある izi fitini kèc も非動詞修飾形が成す助詞句であり、 それぞれ形容詞 aqôc と副詞 emic に係っている。

#SXB.形容詞を伴う助詞句

#SXC.総論

名詞は必ず助詞を伴うが、 助詞とともに用いられるのが必ず名詞であるというわけではない。 助詞の中には形容詞を伴うものがあったり、 一部の条件下でのみ通常は名詞を伴う助詞が形容詞を伴ったりすることがある。 このように使われた形容詞は 「叙述的用法 (predicative use)」 と呼ばれ、 それに対して名詞を直接修飾している形容詞は 「限定的用法 (attributive use)」 と呼ばれる。

全ての形容詞は限定的用法でも叙述的用法でも使われ、 どちらかの用法のみをもつ形容詞は存在しない。

salat a sakil afik e avôl ile lát ayos.
このリンゴは 3 個だ。

続くサブサブサクションで、 助詞が形容詞を伴う個別の場合について述べる。

#SDR.基本助接辞

動詞の中には、 名詞の代わりに形容詞を伴った基本助詞句が係ることを許すものがある。 その場合は助詞が形容詞に付随して用いられる。

salat a nayef aquk e abik.
あの花は青い。

1 では、 形容詞 abik が助詞 e を伴って使われている。 これは、 e 句が修飾する動詞が sal であり、 sal が特別に形容詞を伴った e 句が係るのを許しているためである。

#SXQ.節の代替によって生じる場合

形容詞句が特定の節の代わりに使われることがあり、 このときに助詞が形容詞を伴うことになる。 詳細は #SHU を参照せよ。

#SHF.間投詞を伴う助詞句

ra は例外的に、 助詞として用いられて常に擬音間投辞を伴う。 #SHG も参照されたい。

これは、 擬音間投辞のみから成る直接話法表現が名詞のように扱われて ra 句を構成し、 そこから直接話法のラクットが省略された結果だと解釈することもできる。

助詞の種類と修飾

#SJF.一般助接辞の動詞修飾形

一般助接辞の動詞修飾形が助詞として助詞句を成しているとき、 その助詞句は動詞か間投詞を修飾する。 基本助接辞が成す助詞句は、 被修飾語となる動詞か間投詞の格組に含まれている場合にのみ、 その動詞や間投詞を修飾できる。 基本助接辞以外が成す助詞句は、 あらゆる動詞を修飾できる。 なお、 動詞や間投詞の格組については #SJD#SLB を参照せよ。

#SJV.一般助接辞の非動詞修飾形

一般助接辞の非動詞修飾形が形成している助詞句は、 次のいずれかの場合でのみ現れる。

#SJP.例外助接辞の動詞修飾形

例外助接辞は基本的に非動詞修飾形で使われるため、 原則として例外助接辞の動詞修飾形は現れない。 しかし、 以下の状況においては動詞修飾形が使われることがある。

#SJB.例外助接辞の非動詞修飾形

例外助接辞が助詞として使われるときは原則として非動詞修飾形をとる。 このときに構成される助詞句は、 その例外助接辞に応じて動詞以外の特定の種類の語句を修飾する。 例えば、 ku が形成する iku 句は名詞を修飾し、 ti が形成する iti 句は連述詞を修飾する。

格組

#SLC.概要

動詞, 間投詞, 形容詞, 名詞の 4 種類の単語は、 それに修飾させることのできる基本助詞句の種類が単語ごとに制限されており、 定められた基本助詞句以外の基本助詞句がその単語に修飾することはない。 この修飾可能な基本助詞句のことは 「格組 (case structure)」 と呼ばれる。 例えば、 sôd の通常態動詞としての格組は a 格と e 格であるため、 sôd が通常態の動詞として使われているときに ca 句や zi 句が修飾することはない。

続くサブセクションで、 文法的品詞ごとの格組について詳しく述べる。

#SJD.動詞

動詞が通常態で使われているときの格組は、 li 以外の動詞修飾形から成り、 動詞によってあらゆるパターンになり得る。 一部の動詞は通常態のときに空の格組をもち、 基本助詞句に一切修飾されない。

動詞が補助態で使われているときの格組は、 その動詞が通常態で使われているときの格組に li 格を加えたものになる。

#SLB.間投詞

間投詞の格組は、 ali 以外の動詞修飾形から成り、 間投詞ごとに異なる。 多くの間投詞は空の格組をもち、 基本助詞句に一切修飾されずに常に単独で使われる。 空でない格組をもつ間投詞のほとんどは、 動詞型不定辞から派生したものである。 動詞型不定辞派生の間投辞については #SLQ を参照せよ。

#SJK.動詞型不定辞由来の形容詞

動詞型不定辞が形容詞として用いられたときの格組は、 その単語が通常態動詞として用いられたときの格組から次のようにして得られる。 まず、 通常態動詞の格組を構成する助詞を全て非動詞修飾形にする。 さらにそこから、 動詞との意味関係の分類が主格型であれば ia を除き、 対格型であれば ie を除く。 このようにして得られる助詞が、 その形容詞の格組となる。 なお、 形容詞と動詞の意味関係については #SRJ を参照せよ。

#SMN.名詞型不定辞由来の形容詞

名詞型不定辞が形容詞として用いられたときの格組は、 常に空である。 したがって、 名詞型不定辞由来の形容詞が基本助詞句で修飾されることはない。

#SML.動詞型不定辞由来の名詞

動詞型不定辞が名詞として用いられたときの格組は、 その単語が通常態動詞として用いられたときの格組を全て非動詞修飾形にしたものである。

#SMR.名詞型不定辞由来の名詞

名詞型不定辞が名詞として用いられたときの格組は、 iaili 以外の非動詞修飾形から成り、 単語によってあらゆるパターンになり得る。

基本格の用法

#SNO.主格

動詞の項のうち、 動作主になれるものは概ね主格で表される。 ただし、 これはあくまで動詞が表す動作を意識的に引き起こすことができるものが主格に対応するというだけで、 主格に置かれたからといってそれが意志をもって動作を行ったとは限らない。 特に、 動詞が補助態で使われている場合、 主格は補助者によって補助される対象を表すので、 主格に置かれたものが意識的に動作を行っているという意味合いはほとんどない。

talefes a tel e téd.
私は扉を叩いた。
sôdaq a tiris acik li ces e leric.
彼はその赤ちゃんにスープを飲ませている。

経験者も概ね主格で表される。

sâfat a tel e sakil.
私はリンゴが好きだ。
qerites a tel e qelar i ces.
私は彼の声を聞いた。
pîtes a tel.
私は怖がった。

多くの動詞は被動者を対格にとるが、 一部の動詞は主格にとることがある。 これは、 動作の影響を催すものが自然現象であり具体的な動作主が認知しづらい動詞に多い。 例えば、 deliv 「落ちる」 や zacfod 「沸騰する」 がこれに該当する。

delives a likok.
コップが落ちた。

#SNU.対格

被動者は概ね対格で表される。

voltiges a tel e levkit.
私はガラスを割った。

項としてコトをとる動詞では、 そのコトはほとんどの場合で対格に置かれる。

sitifes a ces e’n paveqat a’s e cifèkkis.
彼は財布をなくしたと囁いた。
foqones a tel e’n lanis a’l ca sokutqôc.
私は外国に行くのを諦めた。
dibe e’n medeles a tel e qixov i loc.
あなたのパソコンを壊してしまってすみません。

#SMS.与格

受取者や受益者は概ね与格で表される。

séqes a tel ca ces e xoq afik.
私は彼にこの本をあげた。
feraces a tel ca ces e’n qilinas a’s e takul.
私は彼が箱を運ぶのを手伝った。

移動を伴う動作を表す動詞では、 着点が与格で表される。

qorases a tel ca jêmanis.
私はドイツに旅行した。

動作が行われる場所は vo 句で表されることが多いが、 一部の動詞は与格にとることがある。 このような与格で表される場所は、 動作全体が行われる場所というよりは、 動作に関わっているものの場所を指すというニュアンスが強い。 例えば、 qet 「ある」, cafôv 「営業する」, két 「置く」, kotik 「見つける」 などがこれに該当する。

kétes a tel e sòlaq ca hif izi zeqil.
私は携帯電話を机の上に置いた。
kotikes a tel e faxcîf ca naflat.
私は叔母を公園に見つけた。

#SMZ.奪格

移動を伴う動作を表す動詞では、 起点が奪格で表される。

delives a tel zi hif izi kedic.
私から台から落ちた。

道具を表すのに奪格が使われることも多い。 道具は qi 句で表されるのが普通だが、 動詞の格組に道具を表す奪格が含まれている場合は、 奪格の方が好まれる。

naluses a tel zi talemcik e malek.
私はハンカチで飴を包んだ。
xatêlac zi xalaq e hif izi zeqil.
電灯で机の上が照らされている。

方向や順序を表す名詞は、 その基準となるものを奪格にとることがほとんどである。

qetat a voston acik ca cît izi sod i tel.
そのレストランは私の家の隣にある。

奪格はその用法が特に多様で、 動詞によって様々な意味で用いられるため、 普遍的な用法を定式化するのは難しい。

#SYN.能格

能格は補助態の動詞に係る場合にのみ現れ、 そのとき補助態の意味における補助者が能格で表される。 補助態については #SXP を参照せよ。

能格にはモノもコトも置かれる。 モノが置かれた場合は補助者を表し、 コトが置かれた場合は直接的な原因を表す。

kômez li tel a delem a fitul acik.
私はその少女に靴下を履かせた。
dodez a tel li’n vahixes a ces.
彼が亡くなったことで私は悲んだ。

特筆すべき助詞

#SAQ.i

i は、 汎用の名詞修飾を行う助詞であり、 i 句の補語とその被修飾語に密接な関係があることを意味する。 その具体的な用法は多岐に渡る。 以下に i の典型的な用法をいくつか列挙するが、 i の用例はここに挙げたものに留まるわけではないことに注意されたい。

まず i は、 所有を表すのによく用いられる。 この用法は、 kavkût が成す限定節の代わりと見なすこともできる。 例えば、 nîl i telnîl kavat e a tel と同じ意味である。

salat a nîl i tel e cosrasál.
私の兄は医者だ。

さらに i は、 その補語の一部分を表すことがある。 例えば、 kudoq i sokul は 「部屋の奥」 の意味で、 これは 「部屋」 で表される空間のうち 「奥」 に相当する一部分を指している。

kétat vo kudoq i sokul e tòked avaf.
部屋の奥には大きな棚が置かれていた。

また i は、 被修飾語に性質や特性を表す単語が置かれて、 被修飾語と i 句全体でその補語の性質を表すことがある。 例えば、 taklot i dev は 「ペンの長さ」 の意味であり、 velex i sòlad は 「携帯電話の色」 の意味である。

pa salot e pet a velex i sòlad acik?
その携帯電話の色は何ですか?

これら以外の i の用法もよく見られ、 そのときの被修飾語と補語の関係は多様だが、 概ねそのような i 句は補語を何らかの形で含む限定節の代わりとして解釈できる。 このとき、 その限定節の補語以外の部分は、 i 句の被修飾語や文脈によって十分補完できるようなものである。 #SXN も参照されたい。

salat a tel e cossác vomac sácos a e dessotàk.
私は数学を教える教師だ。
salat a tel e cossác i dessotàk.
私は数学の教師だ。

45 は実質的に同じことを述べているため、 5 にある i dessotàk4 にある vomac sácos a e dessotàk の代わりをしていると見なすことができる。 「数学を教える教師」 の代わりに 「数学の教師」 とだけ言ったとしても、 「数学」 と 「教師」 の関係性が 「教える」 であることは容易に想像できるため、 5 のような i 句による表現が可能になっていると考えられる。

#SAX.qe

何かを作ったり生み出したりすることを含意する動詞において、 基本助詞句 (多くの場合で e 句) で表されるものは、 その動詞の被動者のみである。 その動作の結果として生み出されたものは、 qe という専用の助詞で表される。

debêkes a ces e sodel.
私は地面を掘った。
debêkes a ces qe denos.
私は穴を掘った。

「地面を掘る」 もしくは 「穴を掘る」 という行為において、 「掘る」 という動作によって直接的に変化を被るものは地面である。 そのため、 「地面」 の意味の sodel は、 1 では e 句をとっている。 一方、 穴は 「掘る」 という動作によって生み出されるものであるから、 「穴」 を表す denos は、 2 のように qe 句をとり、 e 句で表されることはない。

二重助詞句

#SRY.概要

同じ助詞から成る複数の助詞句が 1 つの単語に係っている状況は、 しばしば 「二重助詞句 (double prepositional phrase)」 と呼ばれる。 二重助詞句は、 その助詞句の補語となっている名詞を ò で繋げて 1 つの助詞句にしたものと同じ意味になる。

qetet te tazît vo fêd a qelad i tel, a dutel.
昨日ここにいたのは私の弟で、 私ではない。
qetet te tazît vo fêd a qelad i tel ò dutel.
昨日ここにいたのは私の弟で、 私ではない。

このうち、 1 が二重助詞句を含む文で、 2 がその 2 つの助詞句に置かれている名詞を ò で繋げて 1 つの助詞句にしたものである。 この 2 つの文が表す内容は同じである。

二重助詞句は基本的に避けられるが、 特定の場合では二重助詞句が見られることがある。 続くサブセクションで、 そのような二重助詞句が現れるパターンについて述べる。

#SRH.話題化

本来ならば 1 つの助詞句で済むが、 その助詞句の意味の一部分だけが話題として節の始めの方に移動させられたために、 二重助詞句が現れることがある。

te saq, dunòqes catsatas a tel te zéc vo fecil ica sod.
今日は、 朝家の周りを散歩するのを忘れなかった。

1 には、 dunòqeste saqte zéc という 2 つの te 句が係っている。 これは、 本来なら te zéc i saq という 1 つの te 句で表現するところを、 saq だけを話題として文頭に置きたかったために、 2 つの te 句に分離させて表現したからだと考えられる。

#SRA.挿入表現による補足説明

すでに存在している助詞句と同じ助詞を用いた別の助詞句が、 もともとの助詞句の内容に対する補足説明として、 挿入表現にして追加されることがある。 補足説明となる 2 つ目の助詞句は、 それを受ける助詞句の直後に挿入されることが多いが、 文末に挿入されることもある。

fékes a tel e’n benagat a hinof i loc, a nêtih asen, e benôm.
あなたの姉、 ネーティアさんが風邪を引いたと聞いた。
ditat cipasis a’c ca ces e qidok ie qixov, ca qasot i tel.
彼にパソコンを修理するよう頼んでください、 私の息子に。

1 では、 a hinof i loc という a 句への補足として、 a nêtih asen という更なる a 句が直後に挿入されている。 2 では、 ca loc という ca 句への補足として、 ca qasot i tel という ca 句が文末に挿入されている。

#SRE.詩歌における強調

詩歌においては、 強調のために全く同じ助詞句が 2 回以上繰り返されることがある。

fi xerat acís afik, zêhisac a zál e kovèt, e kovèt, e kovèt.
この初めての音とともに、 私たちは絆を、 絆を、 絆を作り上げている。