語彙的品詞と文法的品詞の関係

以下の表に示すように、 語彙的品詞ごとに文中でとることができる文法的品詞は限られている。 ここに示された文法的品詞以外の使い方がされることはない。

語彙的品詞文法的品詞
動詞型不定辞動詞, 形容詞, 副詞, 名詞
名詞型不定辞名詞, 形容詞
連述詞型不定辞連述詞
特殊詞型不定辞特殊詞
助接辞助詞, 接続詞
連結辞連結詞
間投辞間投詞
機能辞機能詞

例を挙げると、 動詞型不定辞に分類される yerif は、 動詞, 形容詞, 副詞, 名詞の 4 種類のいずれかとして使われ得るが、 それ以外の文法的品詞として使われることはない。 また、 助接辞に分類される te は、 助詞もしくは接続詞として使われ、 それ以外の文法的品詞としては使われない。 さらに、 連述詞型助接辞に分類される bam は、 連述詞としてのみ使われる。

1 つの単語が複数の文法的品詞をとることがあると言っても、 単語によって各文法的品詞の使われる頻度は大きく偏っている。 例えば、 動詞型不定辞の yerif は、 形容詞として用いられる場合がほとんどで、 動詞として用いられることは少なく、 副詞としてはほとんど用いられない。 一方で、 同じく動詞型不定辞の kût は、 動詞として用いられることが多く、 形容詞として用いられることはほとんどない。

動詞型不定辞と名詞型不定辞は複数の文法的品詞として使われるが、 そのうち 1 つの文法的品詞としての意味が決まれば、 残りの文法的品詞としての意味を規則的に導くことができる。 続くセクションでこの規則について詳しく述べる。

動詞型不定辞: 形容詞と動詞との関係

#STJ.分類

動詞型不定辞は形容詞としても動詞としても使われるが、 形容詞として使われた場合と動詞として使われた場合の意味の間には明確な関係性がある。 この関係性により、 形容詞用法が用いられている表現を、 その意味を変えずに動詞用法によって書き換えることができる。

上記の書き換えをした際に動詞用法がとる相と被修飾語の名詞がとる格が何になるかに応じて、 形容詞用法と動詞用法の意味の関係性は以下のように 4 つに分類することができる。 各動詞型不定辞はこの 4 つのパターンのうちどれか 1 つに分類され、 2 つ以上のパターンをもつ動詞型不定辞は存在しない。

継続主格型 (continuous-nominative)
継続相 a
継続対格型 (continuous-accusative)
継続相 e
経過主格型 (progressive-nominative)
経過相 a
経過対格型 (progressive-accusative)
経過相 e

継続主格型の例として safey が、 継続対格型の例として nakus が挙げられる。 経過主格型には likxelnèlav などが該当するが、 数は少ない。 経過対格型をとるものはさらに少ない。

#SMD では、 形容詞用法と動詞用法の意味に対応についてより詳細に述べる。 また、 #SRL では、 形容詞が用いられた場合と動詞が用いられた場合との間に生じるニュアンスの違いについて述べる。

#SMD.意味関係と対応規則

動詞型不定辞の形容詞としての意味と動詞としての意味の関係性は、 〈salat a 被修飾語 e 形容詞用法〉 と 〈経過相 or 継続相の動詞用法 a or e + 被修飾語〉 が同じ内容を表すという形で説明できる。 このとき、 動詞用法が経過相と継続相のいずれになるか、 また助詞として ae のいずれが使われるかは、 その単語の意味関係の分類に依存する。

safey を例に挙げ、 この関係性について具体的に述べる。

salat a ces e asafey.
彼は優しい。
safeyat a ces.
彼は優しい。

12 は同じ内容を表している。 ここで、 safey の意味関係は継続主格型に分類されるため、 2 においては、 safey が継続相をとっており、 もともとの被修飾語である cesa 格をとっている。

単語によっては、 この言い換えの際に、 動詞用法が反復表現をとる必要がある場合がある。 そのような単語の例には dalaz が挙げられる。

salat a fay i tel e adalaz.
私の娘は元気だ。
vomac dalazos a fay i tel.
私の娘は元気にしている。

34 は同じ意味である。 4 において、 dalaz の動詞用法が、 単に dalazac ではなく反復表現の vomac dalazos となっている点に注意せよ。

形容詞が修飾語句をとっている場合も、 同様の書き換えが可能である。 この際、 形容詞に係る修飾語句は、 そのまま動詞に係る。

salat a takul afik e anakus izi ficot.
この箱は布で覆われている。
nakusat a takul afik zi ficot.
この箱は布で覆われている。

#SRL.ニュアンスの違い

#SRR.状態か性質か

動詞型不定辞の動詞用法は一時的な状態を表すことが多い。 すなわち、 言及している時点ではその状態であったが、 それより前や後でそうでない状態になることもあり得る。 一方で、 形容詞用法は主に恒常的な性質を表す。 すなわち、 言及しているものは基本的に常にその性質をもっており、 その性質を失うことはほとんどないかその性質を失うと違うものになってしまうかのどちらかである。

fêcat a yaf ca tel.
妹が私に近くにいる。

1 は、 妹が 「私の近くにいる」 という状態にあることを意味するが、 妹がその場所を離れてしまえば 「近くにいる」 という状態は成立しなくなる。 したがって、 妹の 「近くにいる」 という状態は一時的なものであるから、 fêc が動詞用法が用いられている。

salot a zîdloq acik e afêc ica sod i tel.
その駐車場は私の家の近くにある。

2 は、 駐車場が 「私の家の近くにある」 という性質をもつことを意味するが、 駐車場が簡単に家から遠ざかったりまた近づいたりすることはない。 したがって、 駐車場の 「家の近くにある」 というのは恒常的な性質であると考えられるので、 ここでは fêc が形容詞用法が用いられている。

文の内容によっては、 動詞用法と形容詞用法の違いが顕著に現れることがある。

safeyat a ces.
彼は優しい。
salat a ces e asafey.
彼は優しい。

3 では動詞用法が用いられているので、 「優しい」 というのは性質ではなく一時的な状態であるというニュアンスが強い。 したがって、 この文の 「彼」 は普段から優しいわけではないが、 何らかの理由で今は優しく振る舞っていると解釈されやすい。 一方、 4 は形容詞用法が用いられているので、 「優しい」 というのは性質であるというニュアンスになる。 すなわち、 この文の 「彼」 は普段から優しい性格であり、 今もいつも通り優しく振る舞っていることを表している。

なお、 動詞用法が一時的な状態を表すことが多いのは確かだが、 恒常的な性質を表すこともある。 一方、 形容詞用法が一時的な状態を表すはなく、 常に恒常的な性質を表す。

#SRN.変化のニュアンスの有無

動詞型不定辞の動詞用法には、 「その状態になるという行為が過去に行われた」 ということが含意されることが多い。 一方で、 形容詞用法にはそのような含意はない。

fêcat a yaf ca tel.
妹が私に近くにいる。

1 は、 妹が 「私の近くにいる」 という状態になるための 「近づく」 という行為が過去に行われたというニュアンスを読み取られる可能性が高い。

salot a zîdloq acik e afêc ica sod i tel.
その駐車場は私の家の近くにある。

2 では、 駐車場が 「私の家の近くにある」 という性質をもつことを表しているため、 例えば別の遠い場所から移動してきたなどのニュアンスはなく、 単に現在 「近くにある」 ということを表しているに過ぎない。

なお、 動詞用法が使われているからといって、 必ずその状態になるための行為が行われたとは限らない。 動詞用法が単にそのときの状態を表しているだけの場合もある。

動詞型不定辞: 副詞と形容詞や動詞との関係

#STR.分類

動詞型不定辞は副詞としても形容詞や動詞としても使われるが、 副詞として使われた場合と形容詞や動詞として使われた場合の意味の間には明確な関係性がある。 また、 この関係性により、 動詞型不定辞が形容詞として使われている節を、 その内容を変えずにその動詞型不定辞が副詞として使われる節に書き換えることができる。 これは逆も可能である。

動詞型不定辞が形容詞として使われる節と副詞として使われる節は相互に書き換えられるわけだが、 この書き換えのパターンは動詞型不定辞によって 4 種類に分類できる。 この 4 種類には以下のような名前が付けられている。

ある動詞型不定辞がどこに分類されるのかを考える際に重要になるのが、 次に述べる 2 点である。 1 つ目は、 形容詞として使われている節でそれが係っている名詞が、 副詞として使われるように言い換えた節においてどのように現れるかという点である。 2 つ目はこの逆で、 副詞として使われている節でそれが係っている動詞が、 形容詞として使われるように言い換えた節においてどのように現れるかという点である。

#SMK では、 この 2 点に注目しつつ、 それぞれの分類における意味関係と言い換えについて具体的に述べる。 また、 #SNS では、 副詞が用いられた場合と形容詞や動詞が用いられた場合との間に生じるニュアンスの違いについて述べる。

#SMK.意味関係と対応規則

#STN.被修飾語型

被修飾語型をとる動詞型不定辞では次のような対応が見られる。

形容詞として係る名詞
副詞として係る動詞が導く節全体
副詞として係る動詞
形容詞として係る節の動詞

ここで、 被修飾語型をとる単語の代表例として keves を挙げ、 この対応について具体的に述べる。

salat e akeves a kin bâges a ces.
彼が怒ったのは当然だ。
bâges okeves a ces.
彼は当然怒った。

1 において、 形容詞として用いられている keves が係っているのは、 a 句の補語である kin 節である。 この kin 節の内容は、 2 においては、 副詞として用いられている keves が係っている動詞を含む主節全体になっている。

この他に被修飾語型に分類される単語には、 「あり得る」 を意味する padit や 「簡単な」 を意味する rafef などがある。

#STY.文脈補完型

文脈補完型をとる動詞型不定辞では次のような対応が見られる。

形容詞として係る名詞
副詞として係る動詞に係っている助詞句 (多くの場合で基本助詞句) の補語
副詞として係る動詞
文脈で補完される

ここで、 文脈補完型をとる単語の代表例として bâl を挙げ、 この対応について具体的に述べる。

salet e abâl a fecaq acik.
その手紙は突然だった。
lôles obâl e fecaq acik.
その手紙は突然送られてきた。

1 において、 形容詞として用いられている bâl が係っているのは、 a 句の補語である fecaq acik である。 この fecaq acik は、 2 においては、 副詞として用いられている bâl が係っている lôles に同じく係っている e 句の補語になっている。

逆に 2 において、 副詞として用いられている bâl が係っているのは lôles である。 これは 1 には現れていない。 すなわち、 文脈補完型に分類される動詞型不定辞が形容詞として使われているときは、 この動詞の内容が文脈によって暗黙に想定されることになる。

この他に 文脈補完型に分類される単語には、 「激しく」 を意味する gicaz などがある。

#STA.kin 節型

kin 節型をとる動詞型不定辞が形容詞として使われることは稀なので、 ここでは副詞と動詞の間の意味関係の形で述べる。 形容詞と動詞の意味関係により、 「形容詞として使われたときに係る名詞」 とは 「動詞として使われたときに a 句か e 句の補語となる名詞」 であることを留意せよ。 形容詞と動詞の意味関係については #SRJ を参照せよ。

kin 節型をとる動詞型不定辞では次のような対応が見られる。

動詞に係る a 句か e 句の補語
副詞として係る動詞に係っている助詞句 (多くの場合で基本助詞句) の補語
副詞として係る動詞
動詞に係る kin 節をとる助詞句の中身

ここで、 kin 節型をとる単語の代表例として lîgif を挙げ、 この対応について具体的に述べる。 この単語の形容詞と動詞の意味関係は主格継続型なので、 「形容詞として使われたときに係る名詞」 とは 「動詞として使われたときに a 句の補語となる名詞」 であることを留意せよ。

lîgifat a ces e’n rifevas a’s e líker.
彼はピアノを演奏することを集中して行っている。
rifevac olîgif a ces e líker.
彼はピアノを集中して演奏している。

1 において、 動詞として用いられている lîgif に係る a 句の補語は ces である。 この ces は、 2 においては、 副詞として用いられている lîgif が係っている rifevac に同じく係っている a 句の補語になっている。

逆に 2 において、 副詞として用いられている lîgif が係っているのは rifevac である。 この rifevac は、 1 においては、 e 句の補語となっている kin 節の中に現れている。

この他に kin 節型に分類される単語には、 「真剣に」 を意味する cazec などがある。

#STE.fa 節型

fa 節型をとる動詞型不定辞が形容詞として使われることは稀なので、 ここでは副詞と動詞の間の意味関係の形で述べる。 形容詞と動詞の意味関係により、 「形容詞として使われたときに係る名詞」 とは 「動詞として使われたときに a 句か e 句の補語となる名詞」 であることを留意せよ。 形容詞と動詞の意味関係については #SRJ を参照せよ。

fa 節型をとる動詞型不定辞では次のような対応が見られる。

動詞に係る a 句か e 句の補語
副詞として係る動詞に係っている助詞句 (多くの場合で基本助詞句) の補語
副詞として係る動詞
動詞に係る fa 節や cife 節の中身

ここで、 fa 節型をとる単語の代表例として rahas を挙げ、 この対応について具体的に述べる。 この単語の形容詞と動詞の意味関係は主格継続型なので、 「形容詞として使われたときに係る名詞」 とは 「動詞として使われたときに a 句の補語となる名詞」 であることを留意せよ。

rahasat a ces, fa rifevac a’s e líker.
彼はピアノを演奏しながら楽しんでいる。
rifevac orahas a ces e líker.
彼は楽しげにピアノを演奏している。

1 において、 動詞として用いられている rahas に係る a 句の補語は ces である。 この ces は、 2 においては、 副詞として用いられている rahas が係っている rifevac に同じく係っている a 句の補語になっている。

逆に 2 において、 副詞として用いられている rahas が係っているのは rifevac である。 この rifevac は、 1 においては、 動詞に係る fa 節に含まれている。 すなわち、 副詞として使われている文を動詞として使われる文に書き換えると、 「主節の内容をしつつその単語が表す様子になっている」 のような表現になる。

この他に fa 節型に分類される単語には、 「元気に」 を意味する dalaz などがある。

#SNS.ニュアンスの違い

動詞型不定辞が副詞として使われたときと形容詞や動詞として使われたときとでニュアンスは多少異なるが、 品詞の違いがニュアンスの違いをもたらしているというよりは、 構文の違いがニュアンスの違いをもたらしていると考えるのが適切である。

動詞型不定辞が副詞として用いられるときは、 その副詞は動詞に係る修飾語に過ぎない。 そのため、 主に伝えたい内容は動詞が表す動作の方であり、 副詞はその動作の様子を単に説明しているというニュアンスがある。 一方で動詞型不定辞が動詞や形容詞として用いられるときは、 それが節の主な述語になる。 そのため、 その動詞や形容詞の意味の方が主に伝えたい内容であるというニュアンスになる。

lîdec ocazec a ces e faltad acik.
彼は真剣にその雑誌を読んでいた。
cazecec a ces e’n lîdas a’s e faltad acik.
彼はその雑誌を読むことを真剣にやっていた。

1 では、 cazec が副詞として用いられており、 動詞の lîdec に係っている。 そのため、 この文は 「彼が読んでいた」 ということが主な内容であると解釈され、 「真剣に」 というのはそれに対する追加の説明であると捉えられる。 一方 2 では、 cazec は動詞として用いられていて、 文を先導する述語となっている。 そのため、 この文では 「真剣にやっていた」 ということがその主な内容となる。

動詞型不定辞: 名詞と動詞との関係

#SXJ.意味関係と対応規則

#SMJ.総論

kin 節や接続詞節が置かれるべき箇所には、 動詞型不定辞の名詞用法を置かれることがある。 これは、 一定の規則のもとで節を言い換えたものだと解釈することができる。 続くセクションで、 それぞれの節における詳細を述べる。

動詞型不定辞の名詞用法に係る助詞句は、 代名詞的な単語のみから成るもののように、 それを省略しても文意が曖昧になりづらいと考えられる語句は省略されることがある。 動詞用法に係る助詞句については、 省略された場合に一定の意味で解釈されることと比較せよ。

動詞型不定辞の名詞用法には活用が存在しないので、 名詞として用いられたときは時制や相や態の情報が消失する。 これは文脈に応じて適切なものが想定される。

#SXL.kin

kin 節の代わりに動詞型不定辞の名詞用法が置かれている場合、 これは次のようにして kin 節を変形したものだと考えることができる。 まず、 kin 節に含まれる動詞を名詞用法に変えて kin を取り除く。 次に、 もともとの動詞を修飾していた副詞, 連述詞, 助詞, 接続詞を全て非動詞修飾形にする。 特殊詞の形は変えない。 以上の操作を行うと、 動詞型不定辞の名詞用法に各種の非動詞修飾形が係る名詞句が得られるが、 これがもとの kin 節と同じ意味をもつ。

sâfat a tel e kin catos omêl a’l vo naflat.
私は公園でゆっくり歩くのが好きだ。
sâfat a tel e cat iomêl ivo naflat.
私は公園でゆっくり歩くのが好きだ。

1 では kin 節が用いられ、 2 では名詞用法が用いられているが、 この 2 つの文の内容は同じである。 1 において動詞修飾形だった vo は、 2 では非動詞修飾形の ivo になっている。 さらに、 1 にある omêl も、 2 では非動詞修飾形の iomêl に変化している。 また、 言い換えられている箇所である 「公園でゆっくり歩く」 の主語が 「私」 であることは明白であるため、 2 では a’l に相当する助詞句が省略されている。

#SXR.接続詞節

接続詞節を構成する節の代わりに動詞型不定辞の名詞用法が置かれている場合、 これは次のようにして節を変形したものだと考えることができる。 まず、 節に含まれる動詞を名詞用法に変える。 次に、 もともとの動詞を修飾していた副詞, 連述詞, 助詞, 接続詞を全て非動詞修飾形にする。 特殊詞の形は変えない。 以上の操作を行うと、 接続詞節に続いて動詞型不定辞の名詞用法に各種の非動詞修飾形が係る名詞句が続くことになるが、 これがもとの表現と同じ意味をもつ。

助接辞の後に動詞型不定辞の名詞用法が続く場合、 その助接辞は文構造上では助詞として扱われることになる。 しかし、 この形は節の言い換えだと解釈されるため、 その助接辞は意味的には接続詞であるとして解釈される。

debet ebam a tel te déxak a’l vo sod.
私が家で眠ったとき私はとても疲れていた。
debet ebam a tel te déx ivo sod.
私が家で眠ったときとても疲れていた。

1 では te の後に節が続いていおり、 2 では名詞用法が続いているが、 この 2 つの文の内容は同じである。 1 において動詞修飾形だった vo は、 2 では非動詞修飾形の ivo になっている。 また、 言い換えられている箇所である 「私はとても疲れていた」 の主語が 「私」 であることは明白であるため、 2 では a’l に相当する助詞句が省略されている。

#SMX.ニュアンスの違い

動詞型不定辞が名詞として用いられたときと動詞として用いられたときとでは、 ニュアンスの違いはそれほどない。 したがって、 動詞型不定辞の名詞用法と動詞用法は、 意味合いの違いによって使い分けられているわけではなく、 構文的な問題で使い分けられていると考える方が適切である。 例えば、 それほど複雑でなく短い内容に対しては、 複文を作らない名詞用法を用いた表現の方が好まれやすい。

名詞型不定辞: 名詞と形容詞との関係

名詞型不定辞が形容詞として用いられると、 「名詞として用いられたときに表されるものを想起させるような」 といった意味になる。

名詞型不定辞の形容詞用法は専ら詩歌やキャッチフレーズで使われ、 通常の会話や散文で用いられることは少ない。

助接辞: 助詞と接続詞との関係

助接辞は助詞として用いられることと接続詞として用いられることがあるが、 助詞としての意味と接続詞としての意味の関係に明確な規則はない。 そのため、 助詞と接続詞のどちらか一方の意味からもう一方の意味を規則的に推測することはできない。

そもそも助詞と接続詞の両方の用例がある助接辞は少なく、 多くの場合どちらか一方の用法しか見られない。

比較可能性

#SRB.概要

動詞型不定辞は、 「比較可能 (gradable)」 と呼ばれるものと 「比較不能 (nongradable)」 と呼ばれるものの 2 種類に分類できる。 その動詞型不定辞が表す内容に程度の幅がある場合は比較可能となり、 程度の幅がなく二値的な場合は比較不能となる。 例えば、 may は形容詞として 「甘い」 の意味だが、 甘さの度合いには大小が考えられるため、 may は比較可能な動詞型不定辞である。 一方で、 lìk は形容詞として 「固有の」 の意味だが、 固有さの度合いというものは考えられず固有であるか固有でないかしか考えられないため、 lìk は比較不能な動詞型不定辞である。

全体の傾向として、 形容詞や副詞として使われることが多い動詞型不定辞は比較可能なことが多く、 動詞として使われることが多い動詞型不定辞は比較不能なことが多いが、 例外も多い。

続くサブセクションで、 比較可能な動詞型不定辞と比較不能な動詞型不定辞の扱いの違いについて述べる。

#SRI.比較可能な動詞型不定辞

比較可能な動詞型不定辞は、 状態のどの尺度に注目しているかのみを表し、 その尺度が実際にどの程度なのかは連述詞の修飾を受けて始めて示される。 ただし、 その動詞型不定辞が連述詞によって修飾されていない場合は、 「一般に想定される基準を超えている」 程度の意味の暗黙の連述詞で修飾されていると見なす。 例えば、 amay だけではその被修飾語の甘さについて言及しているにすぎず、 amay ebam 「とても甘い」 や amay etipil 「十分甘くない」 のように別の単語の修飾を受けることで、 どの程度の甘さなのかが初めて示される。 また、 修飾を受けずに単に amay だけで使われた場合は、 「甘さが一般に想定される基準を超えている」 という意味になり、 結果日本語で単に 「甘い」 と言ったときの意味と同じになる。

比較可能な動詞型不定辞が動詞として使われた場合にはさらなる注意を要する。 動詞として使われた比較可能な動詞型不定辞は、 単独で使った場合は 「その尺度が一般に想定される基準を超える程度の状態になる/する」 という意味になり、 連述詞の修飾を受けた場合は 「その尺度が被修飾語が表す程度の状態になる/する」 という意味になる。 特に、 比較対象が省略されて emic だけで修飾された場合、 比較対象として過去の状態が想定されることが多く、 そのときは 「その尺度が過去の程度より甚だしくなる」 すなわち 「その尺度の程度が大きくなる」 という意味になる。

#SRO.比較不能な動詞型不定辞

比較不能な動詞型不定辞は、 その単語がもつ意味をそのまま表す。 また、 連述詞による修飾を受けることがない。 例えば、 lìk は単独で 「固有の」 の意味で使われ、 alìk ebamalìk etipil のように連述詞で修飾された形では現れない。