名詞と修飾語との意味的な関係の分類を 「 (case)」 と呼び、 以下の 6 つが区別される。

格は、 体言の屈折によって常に義務的に表される。

格は名詞の意味的役割であるが、 1 つの格が表す具体的な役割は複数ある。 格がどの意味で用いられているかは、 文脈での判断に委ねられたり、 前置辞によって明確化されたりする。

格の用法

#TKC.主格

#TLS.主語

主格の本質は動面の主語を表すことであり、 したがって動面の主語は主格で表される。 動面の項のうち何が主語となるかはそれが由来する動詞語素ごとに様々だが、 次に述べるようにある程度の傾向は見られる。

何らかの動作を表す動面では、 その動作主が主語となる。 また、 知覚や感情を表す動面では、 その経験者が主語となる。

Цо̀ лохе̂ко озу̂цно и̂ххара це лоду̂ццес.
私の母は花を机の上に置いた。
Лочсу̂ҕҕасо баззу̂цо.
その教師は苦労している。

再帰用言に由来する動面では、 被動者も主語となり得る。

Амму̂ҕҕанез у̂рран це лоду̂ццезам.
コップが机の上から落ちた。

#TLI.節全体の形容

節全体を形容する名詞は主格で表される。 この用法では、 必ず кочча を伴う。

Кочча лези̂х лехи̂да, еҕасси̂нно ут секи̂ффу̀ӈ.
次の手段として、 私は彼と直接話した。

#TLZ.呼びかけ

呼びかけは主格で行われる。

‵Шеши̂лхо, бо̀ тосми̂мо ро и̂ддес.
シェシールホ、 私のところに来て。

#TLT.動作との関連がない場合

新情報の名詞を単独で述べるときなど、 動作との関連が特に存在しない場合は、 デフォルトの格として主格が用いられる。

Ве̂л, ми̂рее! Хе̂дди асу̂к ми̂рее.
ねえ、 猫! あそこに猫がいます。

#TKQ.対格

#TQG.直接目的語

対格の本質は動面の直接目的語を表すことである。 動面の項のうち何が直接目的語となるかはそれが由来する動詞語素ごとに様々だが、 次に述べるようにある程度の傾向は見られる。

動作の被動者は概ね対格で表される。

‵Феши̂хто бажи̂мо ми̂цца.
フェシーフトは肉を焼いている。
Есехлу̂фно фи̂сра ле и̂ццес.
彼はボールを私の方に放り投げた。

動作の結果として生じるものも概ね対格で表される。 そのため、 動詞語素によっては、 その動面の対格として、 動作が直接影響を及ぼすものと動作によって生じるもののを両方とる場合がある。 これは単に 2 種類の目的語が同じ対格で表されると解釈することもできるが、 直接影響を及ぼすものが真の対格目的語であり、 動作によって生じるものの方はその対格目的語に対応する補語であるとも解釈できる。

Ҕалу̂нно леву̂до.
彼は家を建てた。
Изҕаллу̂з дасу̂кла ловду̂ска левки̂шшари.
私は今日その書類を書かなければならない。

#TRJ.命令や願望

相手に命令や要望を伝える際に、 対格の名詞が単独で用いられることがある。 この用法は主に動名詞がとる。 #TQB を参照されたい。

Цадди̂лла!
ストップ!

意味が少し弱まり、 願望のニュアンスになることもある。 これは挨拶的な表現によく見られる。

Си̂ххаса и̂рфа!
おはようございます!

#TKX.与格

#TFX.移動の着点や方向

与格の本質的な意味は何らかの方向の終点であり、 このイメージが最も直接的に現れるのが、 ものの移動を含意する動詞とともに用いられた場合である。 このような動詞に対しては、 移動の着点や方向が与格で表される。 場所という意味合いが強い場合は、 しばしば де によって明確化される。 また、 де の代わりに цебеӈҕа などの場所を表す前置辞を伴って、 より細かな位置関係が示されることがある。

Изи̂х лофди̂нос си̂ххаси.
私は神社へ朝行く。
Авӈу̂цан ву̂наӈ беӈҕа лезди̂ҕлес.
虫がベッドの下へ這っていった。

#TFR.期間や期限の終点

時間を表す表現が与格で用いられた場合、 「~まで」 という期間の終点を表す。 この意味では до を伴うことが多い。

Ивецу̂тан вебу̂жамма до лонди̂чмос.
私は昨日まで風邪を引いていた。

また、 期限の終点も表す。 この意味では вод を伴うことが多い。

Бо̀ туци̂мо цес ҕи̂далла вод лоли̂ккасос лохи̂дос.
来月までに私にお金を返してください。

#TFJ.受益者

具体的な実体の移動でなくても、 利益などの抽象的なものの授受があると見なせる動詞では、 その受取者や受益者は概ね与格で表される。 чел を伴うこともある。

Чаҕҕу̂с цес лефи̂ннео̂рашша.
彼は私にフェンナ語を教えてくれている。

#TFL.目的や結果

さらに方向の意味合いが因果関係に抽象化されて、 行動の目的や結果も与格で表される。 この用法では、 それぞれ челгох によって明確化されることが多い。

Тожадди̂со ҕаду̂лла сефи̂фца чел цу̂ллос лоли̂хва.
その電車に乗るためには切符を買う必要があります。
Гох то̂сос сезҕи̂лан лену̂ффака.
そうなったのは彼女がそのパソコンの電源を落としたからだ。

#TND.差異

差異の量は与格で表される。 より詳しくは #TRO を、 比較表現での用法については #TRU を参照されたい。

Ваду̂о фу̂цца би̂зѝ би̂зе ту̂сревас и̂ццевзам.
彼は私より 3 つ多く帽子を持っている。

#TKJ.奪格

#TFM.移動の始点

奪格の本質的な意味は何らかの方向の始点であり、 このイメージが最も直接的に現れるのが、 ものの移動を含意する動詞とともに用いられた場合である。 このような動詞に対しては、 移動の始点が奪格で表される。 場所という意味合いが強い場合は、 しばしば де によって明確化される。 また、 де の代わりに лефехта などの場所を表す前置辞を伴って、 より細かな位置関係が示されることがある。

Имози̂х и̂ддезам лохедду̂ччафе лоди̂ссаре.
私は 18 時にここを出る。
Сами̂ман ле лецди̂ддасезам.
彼女は駅の方からやって来た。

#TFE.期間の起点

時間を表す表現が奪格で用いられた場合、 「~から」 という期間の起点を表す。 この意味では до を伴うことが多い。

Дару̂з до леси̂ххасезам.
朝から雨が降っている。

#TFY.理由や原因

方向の意味合いが因果関係に抽象化されて、 行動の理由や原因も奪格で表される。 この意味は гох によって明確化されることが多いが、 被害や迷惑のニュアンスがある場合は чел も用いられる。

Гох лодди̂маццозам газзу̂нно лоҕди̂лло.
休日なのでその店は閉まっていた。
Бамежамму̂ҕан ох чел хе̂езам.
彼のせいで失敗したのだ。

#TFH.仮定

仮定も奪格で表されるが、 その仮定が事実に反していたり可能性の低かったりするというニュアンスが加わる。 この用法では、 ほぼ必ず сом を伴う。

Сомо̂замок ажж’ ишетбати̂чан от, изле̂ зачу̂бар е̂дде.
もし仮に彼に出会っていなかったとしたら、 今頃死んでいるだろう。

#TXY.位置の基準

相対的な方向などを表す語において、 その基準となる位置は奪格で表される。

Бо̀ тецду̂с лехи̂дди хе̂овзам.
彼女の右に座って。

#TFA.判断の基準

判断基準や判断材料なども奪格で表される。

Левчи̂ҕас е̂кан ажжа си̂хан и̂ццевзам.
その物語は私にはおもしろくなかった。
Сов ловну̂чаммозам, акаи̂вноз табу̂ззало локду̂шре.
ニュースによると、 南部で地震があったそうだ。

#TXH.受動態での動作主

受動態において、 本来の動作主は奪格で表される。 この意味はしばしば ви によって明確化され、 特に動面がもともと奪格目的語をとる場合は区別のために ви を伴いやすい。 受動態の詳細は #TXB を参照せよ。

Хо̀ ловзи̂ло, то̂со до̀можакки̂но цѐ легге̂кезам ви ’ффе̂сезам.
あの鞄、 私の祖母が誰かにひったくられたものなのですが。

また、 名面を修飾する形では、 その製作者が奪格により表現されることもある。 この意味も ви によって明確化され得る。 なお、 この意味は主格でも表されることがある。

Зебу̂баҕ е̂к пе̂хѐ и̂ннар ви ѐ леси̂ннаровзам.
この作曲家による楽曲はどれも素晴らしい。

#TKL.具格

#TFI.道具や手段

動作を行うのに使う道具や手段は具格で表される。

Бо̀ теҕо̂ш тѐ лесе̂та лолфи̂ддаҕут.
鋏でその紙を切ってください。
Но̂сот тосми̂нно и̂ддес?
どうやってここまで来たのですか?

#TFO.同伴者

動作を一緒に行っている人や物も具格で表される。 しばしば шет が付随して意味が明確化される。

Талефи̂г ми̂реот.
彼女は猫と散歩している。
Зефи̂хан шет ѐ боте̂вот.
彼は部下と一緒に出かけていった。

#TJE.相互的な対象

動作が相互に成立する場合、 その動作の相手が対格や与格ではなく具格で表されることがある。 例えば、 ҕасу̂д 「交換する」 や ветасси̂ч 「キスする」 における相手が具格で表されるのはこの用法である。

Еҕсу̂нно ногу̂цца зеби̂зха цѐ о̂ффанот.
私は友達と何冊かの漫画を交換した。

#TFU.数量

数量は具格で表される。 これの最も典型的な例が基数の表現である。 これについては #TZE でも詳しく述べる。

Цѐ леву̂де асу̂к ефу̂наш це̂тевот.
私の家には 12 人のぬいぐるみがいる。

動詞に係って数量を表すこともある。

Сечу̂ко̀ ки̂шшари илли̂г ту̂срот ки̂леме̂трот.
私は毎日 3 km 歩く。
Сечлу̂вно ме̂нсана би̂всот тов леши̂тес.
彼はリンゴを 2 個ずつに分けた。

#TQF.通過点

ものの移動を含意する動詞においては、 その通過点や経路が具格で表されることがある。

Ласу̂н су̂врот и̂ццевзам.
彼女は私の前を通り過ぎていった。
Ми̂рее часи̂вван леми̂цкес гобча леку̂лаккот.
猫が道路を横切ってこちらに走って来た。

#TKR.処格

#TVS.場所

動作の場所は処格で表される。 де によって明確化されることもあるが、 それほど頻繁ではない。 また、 цефехта などの前置辞を伴って、 より細かな位置関係が示されることもある。

Кату̂шо ки̂тташа локди̂тташе.
彼女は本を図書館で読んでいる。

動作の場所と言っても、 そのスケールには差がある。

Баги̂нно ли̂ххара лози̂кко.
彼はその花を根元から折った。

#TVZ.時間

動作の時間も処格で表される。 典型的には、 зи̂ммаво 「夕方」 や ноди̂чмо 「昨日」 のような時間を表す名詞がこの用法をとる。 この場合、 時間を表していることが до によって明確化されることもあるが、 それほど頻繁ではない。

Лонди̂чме ивелки̂ссан.
昨日は夜更かししていた。

時間を直接表さない名詞もこの用法をとることがあり、 その名詞に関連する時間を表す。 例えば、 фу̂ттач 「子供」 の処格形は 「子供であるときに」 もしくは 「子供の頃」 の意味で使われることがある。 このような名詞に対しては、 до によって意味が明確されることが多い。

Е̂кан везе̂ч фу̂ттачи.
彼女は子供の頃引っ込み思案だった。
До лиди̂фанни залу̂ано еру̂шшала.
彼はパーティーの最中話し続けていた。

#TPR.付帯状況

背景や付帯状況も処格で表される。 この用法は ку̂к 節や動名詞がとることが多い。 шет によってさらに意味が明確化されることもある。

Заҕи̂лан шете̂ок логоввези̂бцо каххи̂зно.
彼はテレビを点けたまま眠っていた。

#TVT.条件

条件も処格で表される。 この意味は сом で明確化されることも多い。

Соме̂ок товоту̂ҕо, тодду̂ зами̂ццала леви̂схи.
もし疲れているなら、 中で休んでも良いですよ。

#TJI.範囲や全体

何らかの範囲や選択肢は処格で表される。 вос によって明確化されることも多い。 特に、 〈疑問代体言+名詞の処格形〉 は選択疑問を作る典型的な形の 1 つであり、 詳しくは #TXT でも述べる。 また、 比較表現に係る名詞の処格形もこの用法であり、 詳しくは #TNT で扱う。

Чо̀к хе̂о, вос цѐ ло̂ффаневе, заду̂но себту̂чла пе̂на.
私の友達の中で彼だけがピアノを弾ける。
Тифи̂н но̂са ме̂нсанове и́ не̂ранхеве?
リンゴとミカンではどちらが好きですか?

#TBE.話題

話題は処格で表される。 сеф によって明確化されることも多い。

Бо̀ бамошеннафу̂кко сеф лоночхади̂ке лохи̂де.
次の計画について話し合いましょう。
Ласи̂ вези̂бца локонну̂ҕуве.
彼女は化学についての動画を見ている。