日記 (2023 年 11 月 23 日)

ルカ 15.15 ~ 15.16 に相当する箇所です。

и пришьдъ прилѣпи сѧ ѥдиномь отъ житєл҄ь тоѩ странꙑ.
ииそして пришьдъприти行く|能過分.男.単.主 прилѣпиприлѣпити身を寄せる|ア.三単 сѧсєбє自分|単.対 ѥдиномьѥдинъ1|男.所 отъотъ~のうちの житєл҄ьжитєл҄ь住民|単.生 тоѩтъその|女.単.生 странꙑстрана地方|単.生
彼はその地方の住人の 1 人のところに身を寄せに行った。
и посъла и на сєло своѥ пастъ свинии.
ииそして посълапосълати送る|ア.三単 ии|男.単.対 нана~へ сєлосєло|単.対 своѥсвои自分の|中.単.対 пастъпасти飼う|目分 свиниисвиниꙗ|複.生
すると、 その人は豚を飼うために自分の畑へ彼を送った。

и が 2 回出てきますが、 最初の и は接続詞で、 2 つ目の и は指示代名詞です。 文字で書くと同じですが発音はおそらく違っていて、 接続詞の方の и は /i/ な一方、 指示代名詞の方の и は /jĭ/ です。 『サバの書』 では、 接続詞の方は и で書いている一方、 指示代名詞の方には и ではなく і が使われています。 ただし、 そのように書き分けるというルールがあるというわけではなさそうで、 後の方に指示代名詞も и で書かれている箇所があります。

最後の方に出てくる пастъ は、 пасти 「飼う」 の目的分詞です。 目的分詞は、 名前の通り 「~するために」 を意味しますが、 他の分詞と違って性や格などで変化しません。 ラテン語では supīnum と呼ばれている形に相当します。 ちなみに、 原文のギリシャ語では βόσκειν と不定詞が使われていて、 この目的を表す不定詞はコイネーギリシャ語から発達した用法のようです。

その後にある свинии には、 свиниꙗ 「豚」 の複数生格で、 直前の пастъ に対する目的語を表しています。 目的語は通常なら対格によって表されますが、 目的分詞に対する目的語は生格によって表されることが多く、 ここでも生格が使われています (詳細は Lunt §18.3.c 参照)。

и жѧдашє насꙑтити сѧ отъ рожьць ѩжє ꙗдѣахѫ свиниѩ.
ииそして жѧдашєжѧдати熱望する|ア.三単 насꙑтитинасꙑтити腹を満たす|男.単.対 сѧсєбє自分|単.対 отъотъ~から рожьцьрожьцьイナゴマメ|中.単.対 ѩжєижє関|男.複.対 ꙗдѣахѫꙗсти食べる|未完.三複 свиниѩсвиниꙗ|複.主
彼は豚が食べているイナゴマメで腹を満たすことを熱望した。

最後の方に出てくる ꙗдѣахѫ は、 ꙗсти 「食べる」 の未完了過去時制形です。 この単語は、 『サバの書』 では ѣдѣхѫ と綴られています。 語頭の が ѣ で書かれることがあるのと、 母音連続が縮約して 1 つの母音になることがあるのとで、 このような綴りになっています。

и никътожє нє даꙗашє ѥмꙋ.
ииそして никътожєникътожє誰も~ない|ア.三単 нєнє даꙗашєдаꙗти与える|未完.三単 ѥмꙋи|男.単.与
しかし、 誰も彼に与えていなかった。

最後から 2 番目の даꙗашє は、 даꙗти 「与える」 の未完了過去時制形です。 15.12 には同じく 「与える」 の意味で дати が出てきましたが、 дати の方が完了体で даꙗти がその不完了体です。 同じような対応が見られる動詞には стати 「立つ」 があり、 стати が完了体で стаꙗти がその不完了体になります。 ただし、 この形の対応は例外的なもので、 広く見られるわけではありません。