日記 (2023 年 8 月 10 日)
今日は、 幹母音について整理し、 ついでに 1n 弱動詞について触れます。
学習ログ 6 と学習ログ 7 で動詞の 3 つの相での活用をやりました。 そのときに、 第 2 根素と第 3 根素の間に入る母音を 「幹母音」 といい、 これは単語や活用の種類によって変わり得ることに軽く触れました。 今日はまず、 この幹母音について整理していきます。
まず、 お馴染みの √p-r-s の活用パラダイムを見てみましょう。 幹母音が a だったり i だったり u だったりしていますね。
継続相 | 完了相 | 完結相 | |
---|---|---|---|
G 型 | iparras | iptaras | iprus |
D 型 | uparras | uptarris | uparris |
Š 型 | ušapras | uštapris | ušapris |
N 型 | ipparras | ittapras | ipparis |
一方で、 √ḫ-l-q の活用パラダイムは以下のようになります。 今度は幹母音に i が多く u は出てきません。
継続相 | 完了相 | 完結相 | |
---|---|---|---|
G 型 | iḫalliq | iḫtaliq | iḫliq |
D 型 | uḫallaq | uḫtalliq | uḫalliq |
Š 型 | ušaḫlaq | uštaḫliq | ušaḫliq |
N 型 | iḫḫalliq | ittaḫliq | iḫḫaliq |
動詞の幹母音のとり方による分類を 「母音クラス (vowel class)」 といい、 G 型継続相と G 型完了相の幹母音をとって 「a/u クラス」 や 「i/i クラス」 のように呼びます。 2 つの幹母音が同じ場合は、 母音を片方だけ明示して、 単に 「i クラス」 などと呼ぶこともあります。 例えば √p-r-s は、 G 型継続相の幹母音が a で、 G 型完結相の幹母音が u なので、 a/u クラスに属する語根ということになります。 また、 √ḫ-l-q は、 G 型継続相の幹母音も G 型完結相の幹母音も i なので、 i クラスに属することになります。
母音クラスは以下の 4 つしかありません。 a/u クラスが最も基本的で、 数も一番多いようです。
- a/u クラス
- a クラス (a/a クラス)
- i クラス (i/i クラス)
- u クラス (u/u クラス)
母音クラスが決まると、 上の表に挙げた 12 種類の活用における幹母音が全て分かります。 母音クラスが V1/V2 クラスだとすると、 その幹母音は以下のようになります。
継続相 | 完了相 | 完結相 | |
---|---|---|---|
G 型 | V1 | V1 | V2 |
D 型 | a | i | i |
Š 型 | a | i | i |
N 型 | V1 | V1 | i |
D 型と Š 型における幹母音は、 母音クラスによらず常に a, i, i で固定です。 N 型完結相の幹母音も、 母音クラスによらず i で固定です。 他の部分は母音クラスによって変わるわけですが、 G 型完結相にのみ V2 が使われ、 他は全部 V1 です。 母音クラスという大層な概念を持ち出してはいますが、 そのわりにはシンプルですね。
さて、 ついでに 1n 弱動詞の活用についても見てしまいましょう。 第 1 根素が n になっている動詞です。 1n 弱動詞の語根の代表としては √n-ṭ-l を使います。
学習ログ 6 で触れたように、 n は直後に子音があるとその子音に同化するのでした。 1n 弱動詞の活用は、 この規則を単純に適用するだけで作れます。 ただし、 N 型完了相だけは例外的に n が同化しません。 したがって、 三人称男性単数形は次の表のようになります。
継続相 | 完了相 | 完結相 | |
---|---|---|---|
G 型 | inaṭṭal | ittaṭal | iṭṭul |
D 型 | unaṭṭal | uttaṭṭil | unaṭṭil |
Š 型 | ušaṭṭal | uštaṭṭil | ušaṭṭil |
N 型 | innaṭṭal | ittanṭal | innaṭil |