#SMT.文
文は原則として 1 つの節から成る。 したがって、 全ての文には文全体の修飾関係の根となる動詞が存在する。 文となっている節のことを 「主節 (main clause)」 と呼び、 主節の中に含まれている節を 「従属節 (subordinate clause)」 と呼ぶ。
例外として、 以下のような節ではない文が存在する。
#SDQ.動詞先頭
節を構成する動詞はその節の最初に置かれる。
- cates a tel.
- 私は歩いた。
1 では、 動詞 cates が節の最初すなわち文頭にあり、 その後ろに動詞を修飾する語句である a tel が置かれている。
強調によって動詞の後に置かれるはずの語句が文頭に移動することがあり、 その場合は動詞が節の先頭に置かれないことがある。 文頭移動による強調については #SBJ で述べる。
#SDX.修飾語句の位置
#SDN.総論
修飾語句は被修飾語句の直後に置かれる。 したがって、 1 つの語句に 2 つ以上の修飾語句を同時に修飾させることはできない。 しかし、 語句に 1 つの修飾語句を修飾させ、 それによってできた新しい大きな語句に他の修飾語句を修飾させることで、 実質的に 1 つの語句に複数の修飾語句を修飾させることができる。 結果として被修飾語句の後に修飾語句が順に並ぶことになるので、 「修飾語句が複数ある場合は被修飾語句の後に順に並べられる」 と解釈することもでき、 そのように述べることもある。
上記のように複数の修飾語句が修飾しているとき、 それら修飾語句の順番に制約は見られない。 ただし、 意図していない修飾構造で解釈される余地が極力減るような順番で並べられる傾向がある。 また、 修飾語句の順番によってニュアンスが異なることもある。 詳細は #SDJ で述べる。
#SMC.動詞を修飾する語句
動詞を修飾する語句には、 次の 5 種類がある。
- 副詞
- 連述詞
- 特殊詞
- 動詞修飾の助詞句
- 動詞修飾の接続詞節
動詞修飾の接続詞節は少し特殊な振る舞いをするため、 詳細は #SVP に譲る。 接続詞を除いた複数の種類の修飾語句が同時に動詞に係るときは、 次の 4 段階の順序に従う。
- 特殊詞
- 副詞, 連述詞
- 特殊助接辞が成す助詞句
- 一般助接辞が成す助詞句
- 副詞, 連述詞
副詞と連述詞は第 2 位と第 5 位のどちらにも置かれ得る。 また、 例外助接辞が成す助詞句であっても、 助詞が動詞修飾形をとっている場合は、 一般助接辞が成す助詞句と同様に扱われ、 第 4 位に属するものとして扱われる。 この現象については、 #SAB でも詳しく述べる。
同じ順位に属する修飾語句が複数ある場合、 それらの順番に制約は見られない。 ただし、 副詞や連術詞については、 修飾語句があって 2 単語以上から成っているものが後ろに置かれる。
- feges a tel e dezet vo vosis afik.
- 私はこの店で椅子を買った。
- vilises ovop a tel omêl.
- 私は再びゆっくり走った。
- debat evoc ebam a tel te cal.
- 私はそのときとても疲れてもいた。
- dodet emic ini ric a ces.
- 彼は誰よりも悲しんでいた。
- déxec a ces feli qisec te cal.
- 彼女は人形のようにそのとき眠っていた。
1 では、 a tel, e dezet, vo vosis afik が修飾語句である。 このように動詞の後に助詞句が並べられるのが最も基本的な文の構造である。 2 では、 ovop, a tel, omêl が修飾語句である。 副詞は助詞句の前にも後にも置かれることがあり、 この例では 2 つの副詞が 2 ヶ所に分けて置かれている。 3 では、 evoc, ebam, a tel, te cal が修飾語句である。 evoc は特殊詞で ebam は連述詞なので、 この 2 つを入れ替えると不自然な文になることに注意せよ。 4 では、 emic ini ric, a ces 修飾語句である。 このように、 連述詞には修飾語句が付いて 2 単語以上になる場合もある。 5 では、 a ces, feli qisec, te cal が修飾語句である。 feli は例外助接辞なので、 本来であれば一般助接辞が成す助詞句である a ces や te cal よりも前に置かれるはずである。 しかし、 ここでは feli が動詞修飾形として現れているため、 一般助接辞が成す助詞句と同様に扱われ、 a ces と te cal に混ざって並べられている。
なお、 挿入構文を用いられると、 ここで述べた順番に反した場所に修飾語句が置かれることがある。 挿入構文については #SBP を参照せよ。
#SMQ.名詞を修飾する語句
名詞を修飾する語句には、 次の 7 種類がある。
- 形容詞
- 特殊詞
- 限定節
- 名詞修飾の助詞句
- 名詞修飾の接続詞節
- 動詞型不定辞の非動詞修飾副詞形
- 連述詞型不定辞の非動詞修飾連述詞形
名詞修飾の語句は種類が多いためその順番に規則を見出すのは難しいが、 意図していない修飾構造で解釈される余地を極力減らそうとするという傾向は見られる。 特に、 節を含むような修飾語句は、 それ以外の修飾語句より後ろに置かれる。
- kûtat a tel e dev axodol ajôm.
- 私は高価で黒いペンを持っている。
- qetat vo sokul i tel a zeqil avaf ebam séqes e ca tel a ces.
- 彼からもらったとても大きな机が私の部屋にある。
1 では、 axodol, ajôm という 2 つの形容詞が dev を修飾している。 この順番は逆でも自然である。 2 では、 avaf ebam という形容詞と séqes 以下の限定節がともに zeqil を修飾している。 限定節の方が後ろに置かれているが、 これは、 逆に avaf ebam を後ろに置くと限定節内の語句を修飾しているように解釈され得てしまうためである。
動詞型不定辞が名詞として使われている場合、 それに係る修飾語句の順番は、 名詞用法に言い換える前の節における順番を保つ。 動詞型不定辞の非動詞修飾副詞形と連述詞型不定辞の非動詞修飾連述詞形が名詞に係るのはこの場合だけである。 この表現については #SXJ を参照せよ。
#SDJ.修飾語句の順序の傾向
#SDE.動詞修飾の助詞句
動詞を修飾する助詞句の順番に制約は見られないものの、 助詞句が並べられる順番によって各助詞句の話題性に差が生まれる。
動詞に最も近い助詞句ほど話題を表し、 節の最後に近い助詞句ほどそれに対する焦点を表すことが多い。 すなわち、 その節で何について述べるのかを表す助詞句ほど前に置かれやすく、 それに対してどういった情報を伝えたいかを表す助詞句ほど後ろに置かれやすい。
- câses a tel e ces vo kosax.
- 私は彼女に学校で会った。
- câses a tel vo kosax e ces.
- 私は学校で彼女に会った。
1 では、 最初に a tel が置かれ最後に vo kosax が置かれている。 「私」 が話題で 「学校」 が焦点である場合、 すなわち 「彼女に会ったのは学校なのだ」 という情報を新たに相手に伝えたい場合に、 この語順が選ばれやすい。 一方で 2 では、 最後に e ces が置かれている。 「彼女」 が焦点となる場合、 すなわち 「学校で会ったのは彼女なのだ」 という情報を新たに相手に伝えたい場合には、 この語順になりやすい。
この傾向は、 2 文以上が連続している場合により顕著に現れやすい。
- qoletes a tel e zeqil. séqes e cit ca tel a refet.
- 私は机を売った。 それは私が友達からもらったものだ。
1 文目で 「私が机を売った」 という情報が受け手に与えられるので、 受け手が 2 文目を読む段階では 「私が机を売った」 ということは既知である。 したがって、 2 文目では、 受け手にとって既知の情報である cit や tel が最初に置かれ、 それに対する新たな情報である refet が最後に置かれている。 仮に refet が最初に置かれていたとすると、 受け手がまだ知らない 「友達」 が文の最初で提示されることになり不自然である。
#SDO.形容詞
名詞に複数の形容詞が修飾する場合、 その形容詞の限定度合いが高いものほど後ろに置かれやすい。 特に、 fik のような被修飾語を 1 つに限定してしまう形容詞は一番最後に置かれる。 これは、 1 つに限定してしまう形容詞が修飾した瞬間に何を指しているのかが確定し、 それ以上他の形容詞で限定する必要はないからだと考えられる。
- pa feges a pas e delêmtéq azaf afik?
- この赤い手袋は誰が買ったのですか?
1 には delêmtéq azaf afik という表現が含まれているが、 形容詞の順番を変えて delêmtéq afik azaf とするのは不自然である。 これは以下のように説明できる。 もし delêmtéq afik azaf という語順であったとすると、 まず afik という形容詞が delêmtéq を修飾することになる。 afik は送り手から近いある 1 つのものを指し示す役割があるため、 delêmtéq afik という名詞句ができた時点でこれが表すものが 1 つに限定される。 そのため、 別の修飾語句でさらに意味を限定する必要はなくなるため、 さらに azaf を修飾させて delêmtéq afik azaf という形にするのは不自然だと思われるのである。
#SDU.修飾語句の語順の例外
ある語句をまず 1 つの修飾語句 S が修飾し、 それによってできる大きな語句をさらに別の修飾語句 Z が修飾しているという状況を考える。 この場合、 S が先に置かれて Z がその後ろに置かれるのが標準的な語順である。 しかし、 S が 2 単語以上で Z が 1 単語であるとき、 S と Z の順序が入れ替わる。 このような交換現象が起こる主な原因は、 規則通りの語順にしてしまうと、 Z が S に含まれる語句を修飾しているように見えてしまうためだと考えられる。
- zêhises a ces e sálak acasat ehiv ica gulilsoz.
- 彼は最も頭痛に効果的な薬を作り上げた。
1 に含まれる acasat ehiv ica gulilsoz という語句は 「最も頭痛に効果的な」 という意味であるが、 ここで修飾語句の順序交換が行われている。 「最も頭痛に効果的な」 という意味の語句は、 まず acasat に ica gulilsoz を修飾させて 「頭痛に効果的な」 を意味する acasat ica gulilsoz という表現を作り、 それに ehiv を修飾させることで作られるので、 acasat ica gulilsoz ehiv という形になるはずである。 しかし、 上の文では ica gulilsoz と ehiv の位置が交換され、 acasat ehiv ica gulilsoz という語順になっている。 これは、 本来の acasat ica gulilsoz ehiv という語順では、 ehiv が gulilsoz を修飾しているように見えてしまうためだと考えられる。 この例では、 ica gulilsoz が S であり、 ehiv が Z であった。
- te lôk atov câsos te a ces, baldetos a ces.
- 彼らは会うたびに喧嘩する。
2 にある lôk atov câsos te a ces は 「彼らが会うたび」 という意味だが、 これも修飾語句の順序交換の例になっている。 「彼らが会うたび」 という意味の語句は、 まず 「彼らが会うとき」 を意味する lôk câsos te a ces という語句を作り、 それに atov を修飾させることで作られるので、 lôk câsos te a ces atov という形になるのが本来である。 しかし、 上の場合と同様に、 これでは atov が ces を修飾しているように見えるため、 語順が交換されている。 ここでは、 câsos te a ces が S で、 atov が Z であった。