語根と派生融辞

#TLK で述べた通り、 借用語や外来語を除けば、 全ての語基がとる語形は語根から形成される。 例えば、 語基 ши̂лах は語根 √шлх に由来し、 語基 хе̂к は語根 √хўк に由来する。 後者のように、 表層形への変換によって語根が陽には見えづらくなっているものもある。

語根は 1 つ以上 4 つ以下の根素から成る。 1 子音語根と 2 子音語根は機能語基と離辞にしか見られない。 3 子音語根が最も多く、 ほとんどの用言や体言は 3 子音語根から形成されている。 4 子音語根は少なく、 借用語根であるか、 2 子音から成るオノマトペが重複して作られたものか、 2 つの 3 子音語根が融合して作られたもののいずれかである。

これも #TLK で述べた通り、 語根に派生融辞が付くことで語幹が作られる。 語幹は屈折の際に屈折辞が付けられる部分である。 派生融辞は 2 種類あり、 それぞれ 「語型 (pattern)」 と 「幹融辞 (thematic cofix)」 という。 このうち、 語型は語幹の形成に必須であるが、 幹融辞は語基によっては存在しないことがある。

語型と幹母音

#TKG.一般論

語型は、 他の辞とは異なり、 「一部の根素を重子音にする」 や 「語根を成す根素の間に特定の母音を入れる」 のように語根を変形する手続きの形をしており、 単純な音素の集まりではないという点で特殊な辞である。 例えば、 語根 √шлх に 「第 2 根素を重子音にした上で 3 つの根素の間にそれぞれ и̂а を入れる」 という語型を適用すると、 ши̂ллах という形が作られる。

このような性質のため、 語型を指す際には、 語型が扱う語根の子音数に応じて √к, √кт, √ктп, √ктпҫ に適用した形をもって呼ぶ慣習がある。 例えば、 先述の 「(3 子音語根の) 第 2 根素を重子音にした上で 3 つの根素の間にそれぞれ и̂а を入れる」 という語型は、 ки̂ттап と呼ばれる。 本書においてこの形式で語型を示す際は、 仮に適用される根素を点線で囲うことで単なる語形と区別することにしてある。

語型には、 語基によって иу のいずれかか ео のいずれかをとる母音が含まれることがある。 これは特に 「幹母音 (thematic vowel)」 と呼ばれる。 以降では、 иу をとる幹母音は で表し、 ео をとる幹母音は ө で表す。 幹母音がどちらになるかに規則性は見られない。

#TGP.用言と体言

機能語基を除く用言や体言の語幹は、 3 子音もしくは 4 子音の語根から作られる。 3 子音の語型のうち、 全ての根素が単子音として現れるものを 「G 型」 と呼び、 根素のうち 1 つが重子音として現れるものを 「D 型」 と呼ぶ。 さらに D 型の語型は、 どの根素が重子音になっているかを明らかにするために順に i, m, f を付けて 「Di 型」 などと呼ぶことが多い。 4 子音の語型は、 全ての根素が単子音として現れるものしかなく、 これも 「G 型」 と呼ぶ。 どの形であっても、 幹母音は常に長音となりアクセントをもつ。

用言体言
3 子音G 型катˆпкˆтап
Dm 型каттˆпкˆттап
Df 型катˆппекˆтаппе
Di 型аккaтˆпаккˆтап
4 子音G 型катапˆҫкˆтапаҫ

これらの語型を指す際は、 言と子音型と幹母音を順に明示して 「体言 G-и 型」 や 「用言 Df-у 型」 のように呼ぶことも多い。

なお、 Df 型語型の末尾にある е は、 屈折などにより母音から始まる融辞が付加される際に消失する。 また同様に、 Di 型語型の先頭にある а も、 母音で終わる融辞が付加される際に消失する。

#TPV.汎言

汎言の語幹を形成する語型には、 2 子音の кө̀т のみが存在する。 幹母音は長音として現れるが、 アクセントはない。

#TZL.前置離辞

前置離辞は語基ではないが、 語根と語型による形成が見られるため、 ここでその形態について述べておく。 前置離辞を形成する語根は 1 子音から 3 子音までのものがあるが、 各子音数に対して語型は 1 種類しか存在しない。 また、 子音数によらず、 アクセントはもたない。

1 子音型кө
2 子音型көт
3 子音型көтпа

本来的な前置離辞は 1 子音か 2 子音であり、 通常の体言や用言から派生した前置離辞は派生元と同じ 3 子音語根から形成される。 例えば、 фехта 「~の上で」 は、 фи̂хат 「上」 等を形成する語根 √фхт に由来している。

なお、 а のみ例外的な形をもつ。

#TZR.小離辞

小離辞は語基ではないが、 語根と語型による形成が見られるため、 ここでその形態について述べておく。 小離辞を形成する語根は 1 子音もしくは 2 子音から成り、 各子音数に対して語型は 1 種類しか存在しない。 どちらも幹母音をもたずアクセントもないのが特徴的である。

1 子音型ка
2 子音型кат

#TSN.その他の語基

一部の少数の語基は、 上記とは異なる特殊な語型から形成されている。 例えば、 代体言の те̂ске̂т という専用の語型から作られている。 このような語基の語形についての詳細は、 #TTR#TTQ などに譲る。

幹融辞

#TSR.幹融辞の種類

一部の用言や体言の語幹には、 語型に加えてさらに幹融辞が付加されることがある。 例えば логи̂кассе は、 語根 √лкс に対して、 語型 ки̂ттап (体言 Dm-и 型) と幹融辞 ‧ог‧ が付加されて形成された形である。

幹融辞は、 付加される位置に応じて以下の 4 種類に分類される。 このうち、 語幹前型と幹母音前型の 2 つが一般的である。

語幹前型 (prefixal)
語幹の先頭
幹母音前型 (infixal)
語幹中の幹母音の直前
語幹後型 (suffixal)
語幹の末尾
語末型 (terminal)
語末 (屈折融辞よりも後)

語幹後型の幹融辞は ‧ак‧ のみである。 この種類の幹融辞は少し特殊で、 用言語型にも体言語型にも付くが、 それによって作られる語基は語幹の種類によらず常に体言になる。 なお、 用言の動形容詞形や動名詞形が独立した名詞や形容詞の用法をもっていたり、 体言の形容詞形が独自の意味をもっていたりしており、 それを元の単語とは異なる派生語であると分析する場合は、 そこに表れている ‧ар‧‧ал‧ も幹母音後型の幹融辞と見なされる。

語末型の幹融辞は ‧ҙ のみである。 この幹融辞は用言のみに付き、 再帰的な意味によって他動詞から自動詞を作る際に現れる。 そのため、 ‧ҙ が付いている用言のことを 「再帰用言 (reflexive verbant)」 と呼ぶことがある。 この ‧ҙ は、 他の幹融辞と異なり、 屈折融辞が付いた場合でも常に語末に現れるので、 語幹と離れることがある。 さらに、 付加される際に母音が挿入されることもある。 これらの点で形態上特殊な振る舞いをするため、 #TDK でさらに詳しく述べる。

#TPZ.幹融辞の順序

1 つの語幹に付加されている幹融辞は複数であることもある。 さらに、 同じ位置に置かれる幹融辞に限っても複数存在することがある。 例えば боўосоӝе̂сало は、 ўе̂сал という形に対して、 語幹前型の бо‧ と幹母音前型の ‧ос‧, ‧оӝ‧ という合計 3 つの幹融辞が付加されてできている。

幹母音前型の幹融辞が複数付加される場合、 その順序には次のような一定の規則が見られる。 具体的には、 幹母音前型の幹融辞には 3 段階の優先順位があり、 優先順位が高いものほど幹母音に近い位置に置かれる。 ここでは、 その優先順位を 「1 位」, 「2 位」, 「3 位」 と呼ぶことにする。 1 位の幹融辞は常に幹母音の直前に置かれ、 2 位の幹融辞はその前に、 3 位の幹融辞はさらにその前に置かれる。

1 位
‧еф‧, ‧ог‧
2 位
‧еб‧, ‧оӝ‧
3 位
‧ед‧, ‧од‧, ‧ес‧, ‧ос‧, ‧ей‧

例えば、 ‧ос‧‧оӝ‧ が両方とも付加される場合、 ‧ос‧ は 3 位で ‧оӝ‧ は 2 位であるから、 より優先順位の高い ‧оӝ‧ の方が幹母音に近い位置に置かれる。

屈折

体言と用言は、 文中で語として現れる際、 その文法的役割を標示するために屈折する。 この際の屈折は、 語幹にさらに屈折辞を加えることで行われる。 例えば、 語幹として ши̂лах をもつ語基からは、 その語幹 ши̂лахле‧‧оҫ という屈折辞が付加されることで、 その連用火類与格定形 леши̂лахоҫ が作られる。

ここで、 語幹形成や屈折が全て基層で行われることには注意されたい。 実際に文で現れるのは表層化を経た後の表層形であるため、 例えば先述した леши̂лахоҫ は文中では леши̂лхос という形で現れる。

屈折辞には融辞と離辞の 2 種類があるが、 このうち屈折融辞については #TSM#TSA で詳しく述べる。 屈折離辞は独立して表層化を受けるので、 その形態が殊更問題になることはないため、 ここで特別に扱うことはしない。

用言の屈折

#TSY.再帰用言以外

#TBT.動詞として

用言が動詞として用いられているときは、 態, 時制, 人称, 類に従って以下に示す屈折融辞を語幹に加えることによって屈折する。 三人称には定性の区別もある点に注意せよ。

能動態 (∅), 受動態 (до̀‧)
時制
現在時制 (∅), 過去時制 (‧ан)
人称
三人称定 (∅), 三人称不定 (ъа‧), 二人称 (т‧), 一人称複数 (бам‧), 一人称単数 (й‧)
水類 (‧е), 火類 (‧о)

過去時制を表す ‧ан は、 語幹の後ろに付加される。 態と人称を表す融辞は、 ともに語幹の前に付加され、 両方が付加される場合は人称を表す融辞の方が前に置かれる。 類を表す ‧е‧о は、 三人称不定以外の人称を表す融辞の直後に付加されるのに加え、 火類の場合は語幹の最後にも付加される。

参考として、 G 型での屈折における基層形の全容と、 それを語根 √ктп に適用して得られる表層形を列挙する。 また、 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
現.能現.受過.能過.受
三.定.水катˆпдо̀ктˆпкатˆпандо̀ктˆпан
三.定.火катˆподо̀ктˆпокатˆпⱥнодо̀ктˆпⱥно
三.不定.水ъактˆпъадо̀ктˆпъактˆпанъадо̀ктˆпан
三.不定.火ъактˆпоъадо̀ктˆпоъактˆпⱥноъадо̀ктˆпⱥно
二.水тектˆптедо̀ктˆптектˆпантедо̀ктˆпан
二.火токтˆпотодо̀ктˆпотоктˆпⱥнотодо̀ктˆпⱥно
一複.水бамектˆпбамедо̀ктˆпбамектˆпанбамедо̀ктˆпан
一複.火бамоктˆпобамодо̀ктˆпобамоктˆпⱥнобамодо̀ктˆпⱥно
一単.水йектˆпйедо̀ктˆпйектˆпанйедо̀ктˆпан
一単.火йоктˆпойодо̀ктˆпойоктˆпⱥнойодо̀ктˆпⱥно
кати̂п (√ктп, G-и 型)
現.能現.受過.能過.受
三.定.水кати̂пдо̀кти̂пкати̂пандо̀кти̂пан
三.定.火кати̂подо̀кти̂покати̂пнодо̀кти̂пно
三.不定.水акти̂падо̀кти̂пакти̂панадо̀кти̂пан
三.不定.火акти̂поадо̀кти̂поакти̂пноадо̀кти̂пно
二.水текти̂птедо̀кти̂птекти̂пантедо̀кти̂пан
二.火токти̂потодо̀кти̂потокти̂пнотодо̀кти̂пно
一複.水бамекти̂пбамедо̀кти̂пбамекти̂панбамедо̀кти̂пан
一複.火бамокти̂побамодо̀кти̂побамокти̂пнобамодо̀кти̂пно
一単.水икти̂пидо̀кти̂пикти̂панидо̀кти̂пан
一単.火екти̂поедо̀кти̂поекти̂пноедо̀кти̂пно

#TBD.形容詞か名詞として

用言が形容詞もしくは名詞として用いられる際は、 それぞれ ‧ар‧‧ал‧ という屈折融辞によって標示される。 これらは、 動詞としての屈折と同じく態を区別するが、 時制と人称の区別は失う。 代わりに、 体言と同様に連性, 類, 格, 定性による屈折を行う。 この形は詞に応じてそれぞれ 「動形容詞形 (verbal adjective form)」 と 「動名詞形 (verbal noun form)」 と呼ばれる。 なお、 体言の屈折については #TSA を参照せよ。

詞を表す ‧ар‧‧ал‧ は、 語幹の直後に挿入され、 連性や類や格を表す接辞よりは前に位置する。 それ以外の接辞は、 動詞としての用言の屈折や体言の屈折と同様の位置に付加される。

参考として、 G 型での屈折における形容詞能動態の基層形と、 それを語根 √ктп に適用して得られる表層形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
形.能水.用火.用水.体火.体
主.不定катˆпаркатˆпⱥрокатˆпⱥревкатˆпⱥров
対.不定катˆпⱥракатˆпⱥракатˆпⱥревахкатˆпⱥровах
与.不定катˆпⱥреҫкатˆпⱥроҫкатˆпⱥреваҫкатˆпⱥроваҫ
奪.不定катˆпⱥреӟамкатˆпⱥроӟамкатˆпⱥревⱥӟамкатˆпⱥровⱥӟам
具.不定катˆпⱥреўаткатˆпⱥроўаткатˆпⱥревⱥўаткатˆпⱥровⱥўат
処.不定катˆпⱥрейкатˆпⱥройкатˆпⱥревайкатˆпⱥровай
主.定лектˆпарлоктˆпⱥролектˆпⱥревлоктˆпⱥров
対.定лектˆпⱥралоктˆпⱥралектˆпⱥревахлоктˆпⱥровах
与.定лектˆпⱥреҫлоктˆпⱥроҫлектˆпⱥреваҫлоктˆпⱥроваҫ
奪.定лектˆпⱥреӟамлоктˆпⱥроӟамлектˆпⱥревⱥӟамлоктˆпⱥровⱥӟам
具.定лектˆпⱥреўатлоктˆпⱥроўатлектˆпⱥревⱥўатлоктˆпⱥровⱥўат
処.定лектˆпⱥрейлоктˆпⱥройлектˆпⱥревайлоктˆпⱥровай
кати̂п (√ктп, G-и 型)
形.能水.用火.用水.体火.体
主.不定кати̂паркати̂прокати̂превкати̂пров
対.不定кати̂пракати̂пракати̂превахкати̂провах
与.不定кати̂прескати̂проскати̂преваскати̂провас
奪.不定кати̂презамкати̂прозамкати̂превзамкати̂провзам
具.不定кати̂проткати̂пруткати̂превоткати̂провот
処.不定кати̂прикати̂прекати̂превекати̂прове
主.定лекти̂ларлокти̂пролекти̂превлокти̂пров
対.定лекти̂пралокти̂пралекти̂превахлокти̂провах
与.定лекти̂преслокти̂прослекти̂преваслокти̂провас
奪.定лекти̂презамлокти̂прозамлекти̂превзамлокти̂провзам
具.定лекти̂протлокти̂прутлекти̂превотлокти̂провот
処.定лекти̂прилокти̂прелекти̂превелокти̂прове

#TDK.再帰用言

#TBK.動詞として

再帰用言を特徴づける幹融辞 ‧ҙ は、 屈折融辞が付いている場合でも常に語末に現れるが、 語末が子音で終わっている場合は ҙ の前にさらに母音が挿入される。 このときに挿入される母音は а もしくは е で、 類を示す母音がすでに現れている場合は а が挿入され、 そうでない場合は е が挿入される。

参考として、 G 型での屈折における基層形の全容と、 それを語根 √ктп に適用して得られる表層形を列挙する。 また、 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
現.能現.受過.能過.受
三.定.水катˆпеҙдо̀ктˆпеҙкатˆпⱥнеҙдо̀ктˆпⱥнеҙ
三.定.火катˆпоҙдо̀ктˆпоҙкатˆпⱥноҙдо̀ктˆпⱥноҙ
三.不定.水ъактˆпеҙъадо̀ктˆпеҙъактˆпⱥнеҙъадо̀ктˆпⱥнеҙ
三.不定.火ъактˆпоҙъадо̀ктˆпоҙъактˆпⱥноъадо̀ктˆпⱥноҙ
二.水тектˆпеҙтедо̀ктˆпеҙтектˆпⱥнеҙтедо̀ктˆпⱥнеҙ
二.火токтˆпоҙтодо̀ктˆпоҙтоктˆпⱥноҙтодо̀ктˆпⱥноҙ
一複.水бамектˆпеҙбамедо̀ктˆпеҙбамектˆпⱥнеҙбамедо̀ктˆпⱥнеҙ
一複.火бамоктˆпоҙбамодо̀ктˆпоҙбамоктˆпⱥноҙбамодо̀ктˆпⱥноҙ
一単.水йектˆпеҙйедо̀ктˆпеҙйектˆпⱥнеҙйедо̀ктˆпⱥнеҙ
一単.火йоктˆпоҙйодо̀ктˆпоҙйоктˆпⱥноҙйодо̀ктˆпⱥноҙ
кати̂пез (√к-т-п, G-е 型)
現.能現.受過.能過.受
三.定.水кати̂пездо̀кти̂пезкати̂пнездо̀кти̂пнез
三.定.火кати̂поздо̀кти̂позкати̂пноздо̀кти̂пноз
三.不定.水акти̂пезадо̀кти̂пезакти̂пнезадо̀кти̂пнез
三.不定.火акти̂позадо̀кти̂позакти̂пнозадо̀кти̂пноз
二.水текти̂пезтедо̀кти̂пезтекти̂пнезтедо̀кти̂пнез
二.火токти̂позтодо̀кти̂позтокти̂пнозтодо̀кти̂пноз
一複.水бамекти̂пезбамедо̀кти̂пезбамекти̂пнезбамедо̀кти̂пнез
一複.火бамокти̂позбамодо̀кти̂позбамокти̂пнозбамодо̀кти̂пноз
一単.水икти̂пезидо̀кти̂пезикти̂пнезидо̀кти̂пнез
一単.火екти̂позедо̀кти̂позекти̂пнозедо̀кти̂пноз

#TBG.形容詞か名詞として

再帰用言が形容詞や名詞として用いられる場合でも、 ‧ҙ の前に挿入される母音は同様である。

参考として、 G 型での屈折における形容詞能動態の基層形と、 それを語根 √ктп に適用して得られる表層形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
形.能水.用火.用水.体火.体
主.不定катˆпⱥреҙкатˆпⱥроҙкатˆпⱥреваҙкатˆпⱥроваҙ
対.不定катˆпⱥраҙкатˆпⱥраҙкатˆпⱥревⱥхаҙкатˆпⱥровⱥхаҙ
与.不定катˆпⱥреҫаҙкатˆпⱥроҫаҙкатˆпⱥревⱥҫаҙкатˆпⱥровⱥҫаҙ
奪.不定катˆпⱥреӟⱥмаҙкатˆпⱥроӟⱥмаҙкатˆпⱥревⱥӟамаҙкатˆпⱥровⱥӟамаҙ
具.不定катˆпⱥреўⱥтаҙкатˆпⱥроўⱥтаҙкатˆпⱥревⱥўатаҙкатˆпⱥровⱥўатаҙ
処.不定катˆпⱥрейаҙкатˆпⱥройаҙкатˆпⱥревⱥйаҙкатˆпⱥровⱥйаҙ
主.定лектˆпⱥреҙлоктˆпⱥроҙлектˆпⱥреваҙлоктˆпⱥроваҙ
対.定лектˆпⱥраҙлоктˆпⱥраҙлектˆпⱥревⱥхаҙлоктˆпⱥровⱥхаҙ
与.定лектˆпⱥреҫаҙлоктˆпⱥроҫаҙлектˆпⱥревⱥҫаҙлоктˆпⱥровⱥҫаҙ
奪.定лектˆпⱥреӟⱥмаҙлоктˆпⱥроӟⱥмаҙлектˆпⱥревⱥӟамаҙлоктˆпⱥровⱥӟамаҙ
具.定лектˆпⱥреўⱥтаҙлоктˆпⱥроўⱥтаҙлектˆпⱥревⱥўатаҙлоктˆпⱥровⱥўатаҙ
処.定лектˆпⱥрейаҙлоктˆпⱥройаҙлектˆпⱥревⱥйаҙлоктˆпⱥровⱥйаҙ
кати̂пез (√ктп, G-и 型)
形.能水.用火.用水.体火.体
主.不定кати̂презкати̂прозкати̂превазкати̂проваз
対.不定кати̂празкати̂празкати̂превхазкати̂провхаз
与.不定кати̂пресазкати̂просазкати̂превсазкати̂провсаз
奪.不定кати̂презмазкати̂прозмазкати̂превзамазкати̂провзамаз
具.不定кати̂протазкати̂прутазкати̂превотазкати̂провотаз
処.不定кати̂призкати̂презкати̂превезкати̂провез
主.定лекти̂презлокти̂прозлекти̂превазлокти̂проваз
対.定лекти̂празлокти̂празлекти̂превхазлокти̂провхаз
与.定лекти̂пресазлокти̂просазлекти̂превсазлокти̂провсаз
奪.定лекти̂презмазлокти̂прозмазлекти̂превзамазлокти̂провзамаз
具.定лекти̂протазлокти̂прутазлекти̂превотазлокти̂провотаз
処.定лекти̂призлокти̂презлекти̂превезлокти̂провез

体言の屈折

#TSE.基本屈折

#TKN.基本形

体言が第一貌のまま名詞か形容詞として用いられるときは、 連性, 類, 格, 定性に従って以下に示す屈折融辞を語幹に加えることによって屈折する。 この形は 「基本形 (base form)」 と呼ばれる。

連性
連用 (∅), 連体 (‧в/‧ва)
水類 (∅/‧е), 火類 (‧о)
主格 (∅), 対格 (‧а/‧х), 与格 (‧ҫ), 奪格 (‧ӟам), 具格 (‧ўат), 処格 (‧й)
定性
定 (л‧), 不定 (∅)

定を表す л‧ は、 語幹の前に付加されるが、 このときその直後に類を表す母音も同時に挿入される。 連性, 類, 格を表す融辞は、 語幹の後ろに付加され、 合わせて以下に示す形になる。 対格を表す形が 2 種類あることに注意せよ。

水.用火.用水.体火.体
‧о‧ев‧ов
‧а‧а‧евах‧овах
‧еҫ‧оҫ‧еваҫ‧оваҫ
‧еӟам‧оӟам‧еваӟам‧оваӟам
‧еўат‧оўат‧еваўат‧оваўат
‧ей‧ой‧евай‧овай

参考として、 G 型での屈折における基層形の全容と、 それを語根 √ктп に適用して得られる表層形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
水.用火.用水.体火.体
主.不定кˆтапкˆтпокˆтпевкˆтпов
対.不定кˆтпакˆтпакˆтпевахкˆтповах
与.不定кˆтпеҫкˆтпоҫкˆтпеваҫкˆтповаҫ
奪.不定кˆтпеӟамкˆтпоӟамкˆтпевⱥӟамкˆтповⱥӟам
具.不定кˆтпеўаткˆтпоўаткˆтпевⱥўаткˆтповⱥўат
処.不定кˆтпейкˆтпойкˆтпевайкˆтповай
主.定лекˆтаплокˆтполекˆтпевлокˆтпов
対.定лекˆтпалокˆтпалекˆтпавлокˆтпав
与.定лекˆтпеҫлокˆтпоҫлекˆтпеваҫлокˆтповаҫ
奪.定лекˆтпеӟамлокˆтпоӟамлекˆтпевⱥӟамлокˆтповⱥӟам
具.定лекˆтпеўатлокˆтпоўатлекˆтпевⱥўатлокˆтповⱥўат
処.定лекˆтпейлокˆтпойлекˆтпевайлокˆтповай
ки̂тап (√ктп, G-е 型)
水.用火.用水.体火.体
主.不定ки̂тапки̂тпоки̂тпевки̂тпов
対.不定ки̂тпаки̂тпаки̂тпевахки̂тповах
与.不定ки̂тпески̂тпоски̂тпеваски̂тповас
奪.不定ки̂тпезамки̂тпозамки̂тпевзамки̂тповзам
具.不定ки̂тпотки̂тпутки̂тпевотки̂тповот
処.不定ки̂тпики̂тпеки̂тпевеки̂тпове
主.定леки̂таплоки̂тполеки̂тпевлоки̂тпов
対.定леки̂тпалоки̂тпалеки̂тпевахлоки̂тповах
与.定леки̂тпеслоки̂тпослеки̂тпеваслоки̂тповас
奪.定леки̂тпезамлоки̂тпозамлеки̂тпевзамлоки̂тповзам
具.定леки̂тпотлоки̂тпутлеки̂тпевотлоки̂тповот
処.定леки̂тпилоки̂тпелеки̂тпевелоки̂тпове

#TBF.形容詞形

体言の語幹の直後に ‧ар‧ が挿入されると、 名詞が形容詞に変化する。 語幹に ‧ар‧ が加えられていることを除けば、 基本形と同様の屈折をする。 この形は 「形容詞形 (adjective form)」 と呼ばれる。

参考として、 G 型での屈折における基層形の全容と、 それを語根 √ктп に適用して得られる表層形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
水.用火.用水.体火.体
主.不定кˆтпаркˆтпарокˆтпаревкˆтпаров
対.不定кˆтпаракˆтпаракˆтпаревахкˆтпаровах
与.不定кˆтпареҫкˆтпароҫкˆтпареваҫкˆтпароваҫ
奪.不定кˆтпареӟамкˆтпароӟамкˆтпаревⱥӟамкˆтпаровⱥӟам
具.不定кˆтпареўаткˆтпароўаткˆтпаревⱥўаткˆтпаровⱥўат
処.不定кˆтпарейкˆтпаройкˆтпаревайкˆтпаровай
主.定лекˆтпарлокˆтпаролекˆтпаревлокˆтпаров
対.定лекˆтпаралокˆтпаралекˆтпаравлокˆтпарав
与.定лекˆтпареҫлокˆтпароҫлекˆтпареваҫлокˆтпароваҫ
奪.定лекˆтпареӟамлокˆтпароӟамлекˆтпаревⱥӟамлокˆтпаровⱥӟам
具.定лекˆтпареўатлокˆтпароўатлекˆтпаревⱥўатлокˆтпаровⱥўат
処.定лекˆтпарейлокˆтпаройлекˆтпаревайлокˆтпаровай
ки̂тап (√ктп, G-е 型)
水.用火.用水.体火.体
主.不定ки̂тпарки̂тпароки̂тпаревки̂тпаров
対.不定ки̂тпараки̂тпараки̂тпаревахки̂тпаровах
与.不定ки̂тпарески̂тпароски̂тпареваски̂тпаровас
奪.不定ки̂тпарезамки̂тпарозамки̂тпаревзамки̂тпаровзам
具.不定ки̂тпаротки̂тпарутки̂тпаревотки̂тпаровот
処.不定ки̂тпарики̂тпареки̂тпаревеки̂тпарове
主.定леки̂тпарлоки̂тпаролеки̂тпаревлоки̂тпаров
対.定леки̂тпаралоки̂тпаралеки̂тпаревахлоки̂тпаровах
与.定леки̂тпареслоки̂тпарослеки̂тпареваслоки̂тпаровас
奪.定леки̂тпарезамлоки̂тпарозамлеки̂тпаревзамлоки̂тпаровзам
具.定леки̂тпаротлоки̂тпарутлеки̂тпаревотлоки̂тпаровот
処.定леки̂тпарилоки̂тпарелеки̂тпаревелоки̂тпарове

#TSO.副詞形

体言が副詞として用いられるときは、 語幹の末尾に ‧о̀ӈ もしくは ‧о̀ўак を付加した形をとる。 これ以上の屈折はない。 この形は 「副詞形 (adverb form)」 と呼ばれる。

ここで付加される屈折融辞は ‧о̀ӈ もしくは ‧о̀ўак であるが、 どちらが付加されるかは語素による。 前者をとる語素を 「単純型 (simple type)」 といい、 後者をとる語素を 「K 型 (K-type)」 という。 大まかな傾向として、 動作の様態を意味している場合は単純型をとり、 意味的に節全体に係る場合は K 型をとることが多い。

ここで、 副詞形の型は語素に対して決まることに注意せよ。 稀ではあるが、 1 つの語基が異なる意味の副詞語素を 2 つもっており、 一方では単純型をとって他方では K 型をとることがある。

#TPF.前置形

体言が連述詞として用いられるときは、 語幹の末尾に ‧ѐ/‧о̀ が付加される。 ‧ѐ が付いた形が水類形で、 ‧о̀ が付いた形が火類形である。 これ以上の屈折はない。

また、 一部の体言の語素は、 形容詞として使われたときに被修飾語に前置されるものがある。 そのような場合、 連性や格や定性による区別を失い、 格による屈折のみを行う。 この場合の格を表す屈折融辞も ‧ѐ/‧о̀ であり、 ‧ѐ が付いた形が水類形で、 ‧о̀ が付いた形が火類形である。

両者どちらの場合でも、 この形は 「前置形 (prepositional form)」 と呼ばれる。

#TKK.短屈折

一部の体言では、 基本形において、 以下のように格を表す屈折融辞として通常よりも短いものが使用される。 2 子音から成る融辞は 2 つ目の子音だけになり、 連用対格形の屈折融辞は ‧а ではなく ‧х になる。 この屈折パターンを 「短屈折 (short inflection)」 という。

水.用火.用水.体火.体
‧о‧ев‧ов
‧ех‧ох‧евах‧овах
‧еҫ‧оҫ‧еваҫ‧оваҫ
‧ем‧ом‧евам‧овам
‧ет‧от‧еват‧оват
‧ей‧ой‧евай‧овай

#TLY.複合屈折

体言が複合語基の最後以外の要素として現れる場合は、 語幹の末尾に付加される屈折融辞が類を表すものだけになる。 すなわち、 語幹の末尾には ‧е/‧о のみが付けられる。 この屈折パターンを 「複合屈折 (compound inflection)」 と呼ぶ。 複合語基については #TZI を参照せよ。

なお、 数体言で加算を表す部分に限り、 この類を表す屈折融辞が常に ‧и となる。 数体言の形態については #TKD も参照せよ。

代表形

#TLL.用言

用言の語基もしくはその語素の代表形は、 能動態現在時制三人称定水類形とする。

#TLR.体言

体言の語基もしくはその語素の代表形は、 次の形のうちその語基や語素がとり得るものの中で一番上のものとする。

例えば、 語基 гу̂бач は、 水類の名詞語素をもつので、 基本形での連用・水類・主格・不定の形をとれるため、 この語形すなわち гу̂бач が代表形となっている。 一方で、 語義 ти̂лго は、 水類の名詞語素をもたず火類の名詞語素のみをもつので、 基本形での連用・水類・主格・不定の形で現れることはなく、 連用・赤類・主格・不定の形 ти̂лго が代表形となっている。

同じ語基でも、 語素が異なればとり得る語形の範囲も変わるため、 各語素の代表形は一般に異なる。 例えば、 語基 гу̂бач の名詞語素 「向こう側」 は、 基本形での連用・水類・主格・不定の形をとれるため、 語基と同じく гу̂бач が代表形になる。 しかし、 この語基の連述詞語素 「過度に」 は、 基本形をとることはなく前置形のみをとるため、 前置形での赤類の形 гу̂бчѐ が代表形になる。

#TLN.汎言, 間投言

汎言や間投言の語基もしくはその語素は、 そもそも 1 つの形しかとらないため、 その形がそのまま代表形である。