語形変化の基礎

全ての (外来語を除く) 単語は、 「語根 (root)」 と呼ばれる子音列から派生する。 語根を構成する子音は 「根素 (radical)」 と呼ばれる。 語根は概ね 3 つの根素から成るが、 一部の機能語では 1 つや 2 つの根素から成る語根が見られる。 例えば、 ше̄лах 「明るい」 は語根 √ш-л-х に由来し、 хо̄к 「親」 は語根 √х-ў-к に由来する。 後者のように、 表層形への変換によって語根が陽には見えづらくなっているものもある。

語根を構成する子音が重子音になったり、 子音の間に母音が挿入されたりすることで、 語根からは 「語幹 (stem)」 と呼ばれる形が作られる。 例えば、 語根 √ш-л-х からは ше̄лах, ашше̄лах, шало̄х などの様々な語幹が作られる。 語根から語幹が作られるパターンのことは 「語型 (pattern)」 と呼ぶ。 例えば、 語根 √ш-л-х から語幹 ше̄лах が作られる語型は 「体言 G-е 型」 と呼ばれるが、 これと同じ語型によって語根 √м-д-ц からは語幹 ме̄дац が作られる。 語型については、 #TSJ で後述する。

語形変化は、 語幹にさらに接辞を加えることで行われる。 例えば、 леше̄лахоҫше̄лах の連用青類与格定形であるが、 これは ше̄лахле--оҫ という接辞が付加されたものである。 語形変化の際に付加される接辞については、 #TSM と #TSA で詳しく述べる。

なお、 根素, 語根, 語型, 語幹, 語形変化は、 全て基層形における概念であることに注意せよ。 基層において上記のような語形成や語形変化が行われた後、 表層形の変換が行われて、 実際に文で用いられる形が得られる。

語型

#TSL.基本の語型

基本の語型は、 作られる単語が用言か体言かに応じて 4 種類ずつ存在する。 G 型では、 3 つの根素全てが単子音として現れる。 D 型では、 3 つの根素のうち 1 つが重子音として現れ、 どの根素が重子音になるかによってさらに 3 種類に分けられる。

語型には、 単語によって е または о になる母音が含まれる。 これを 「幹母音 (thematic vowel)」 と呼び、 以降 ө で表す。 幹母音がどちらになるかに規則性は見られないため、 単語ごとに記憶する他ない。

以下に、 各語型における語幹を示す。 к, т, п は、 それぞれ第 1 根素, 第 2 根素, 第 3 根素を表す。

用言体言
G 型катө̄пкө̄тап
D2каттө̄пкө̄ттап
D3катө̄ппекө̄таппе
D1аккaтө̄паккө̄тап

なお、 D3 型の最後にある е は、 活用や曲用などにより母音から始まる接尾辞が付加される際に消失する。 また、 D1 型の最初にある а も同様に、 母音で終わる接頭辞が付加される際に消失する。

語型は、 「体言 G-е 型」 や 「用言 D3-о 型」 のように、 用言か体言かを示した後に語幹のタイプと幹母音を示すことで表示される。 もしくは、 「ке̄тап 型」 や 「като̄ппе 型」 のように、 √к-т-п に適用した形で表示されることもある。

#TSR.語型接辞

一部の内容語では、 上記の語型に加えてさらに接辞が付加された形が語幹になっている。 この接辞は 「語型接辞 (thematic affix)」 と呼ばれる。 例えば、 логе̄кассе は、 語根 √л-к-с から作られた体言 D2-е 型語幹 ле̄кассе に対して、 語型接辞 -ог- がさらに付加されたものである。

語型接辞が付加される場所は以下の 3 種類のいずれかである。 このうち、 語幹の先頭に付加されるものが最も数が多く、 他の 2 種類は数が限られている。

#TSN.その他の語型

機能語の語根は根素を 1 つか 2 つしかもたないことが多いので、 必然的に機能語を成す語型も特殊なものになる。 例えば、 代名詞の ха̄еиццекатте という語型から作られている。 このような語幹についての詳細は、 #TZV や #TZJ に譲る。

用言の活用

#TSY.規則活用

用言は、 態, 時制, 人称, 類に従って以下に示す接辞を語幹に加えることによって活用する。 三人称には定性の区別もある点に注意せよ。

能動態 (∅), 受動態 (до̄-)
時制
現在時制 (∅), 過去時制 (-ан)
人称
三人称定 (∅), 三人称不定 (ъа-), 二人称 (с-), 一人称複数 (бам-), 一人称単数 (й-)
赤類 (), 青類 ()

過去時制を表す -ан は、 語幹の後ろに付加される。 態と人称を表す接辞は、 ともに語幹の前に付加され、 両方が付加される場合は人称を表す接辞の方が前に置かれる。 類を表す は、 三人称不定以外の人称を表す接辞の直後に付加されるのに加え、 青類の場合は語幹の最後にも付加される。

用言はさらに分詞の形をもつ。 分詞の形では、 分詞であることを表す -ра- に加え、 定形活用と同様の接辞が時制, 態, 類に従って付加され、 さらに体言と同様の活用接辞が付加される。 分詞を表す -ра- は、 幹母音の直後に挿入される。

参考として、 G 型での活用パラダイムの全容と、 それを語根 √к-т-п に適用した形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。 なお、 分詞は格や定性等による曲用ももつが、 以下の表では連用不定主格での形のみを示した。

G 型
現.能現.受過.能過.受
三.定.赤катө̄пдо̄ка̷тө̄пкатө̄пандо̄ка̷тө̄пан
三.定.青катө̄подо̄ка̷тө̄покатө̄па̷нодо̄ка̷тө̄па̷но
三.不定.赤ъака̷тө̄пъадо̄ка̷тө̄пъака̷тө̄панъадо̄ка̷тө̄пан
三.不定.青ъака̷тө̄поъадо̄ка̷тө̄поъака̷тө̄па̷ноъадо̄ка̷тө̄па̷но
二.赤сека̷тө̄пседо̄ка̷тө̄псека̷тө̄панседо̄ка̷тө̄пан
二.青сока̷тө̄посодо̄ка̷тө̄посока̷тө̄па̷носодо̄ка̷тө̄па̷но
一複.赤бамека̷тө̄пбаме̷до̄ка̷тө̄пбамека̷тө̄панбаме̷до̄ка̷тө̄пан
一複.青бамока̷тө̄побамо̷до̄ка̷тө̄побамока̷тө̄па̷нобамо̷до̄ка̷тө̄па̷но
一単.赤йека̷тө̄пйедо̄ка̷тө̄пйека̷тө̄панйедо̄ка̷тө̄пан
一単.青йока̷тө̄пойодо̄ка̷тө̄пойока̷тө̄па̷нойодо̄ка̷тө̄па̷но
分.赤катө̄рaпдо̄ка̷тө̄рапкатө̄ра̷пандо̄ка̷тө̄ра̷пан
分.青катө̄ра̷подо̄ка̷тө̄ра̷покатө̄ра̷панодо̄ка̷тө̄ра̷пано
кате̄п (√к-т-п, G-е 型)
現.能現.受過.能過.受
三.定.赤кате̄пдо̄кте̄пкате̄пандо̄кте̄пан
三.定.青кате̄подо̄кте̄покате̄пнодо̄кте̄пно
三.不定.赤акте̄падо̄кте̄пакте̄панадо̄кте̄пан
三.不定.青акте̄поадо̄кте̄поакте̄пноадо̄кте̄пно
二.赤секте̄пседо̄кте̄псекте̄панседо̄кте̄пан
二.青сокте̄посодо̄кте̄посокте̄пносодо̄кте̄пно
一複.赤бамекте̄пбандо̄кте̄пбамекте̄панбандо̄кте̄пан
一複.青бамокте̄побандо̄кте̄побамокте̄пнобандо̄кте̄пно
一単.赤икте̄пидо̄кте̄пикте̄панидо̄кте̄пан
一単.青икте̄поидо̄кте̄поикте̄пноидо̄кте̄пно
分.赤кате̄рапдо̄кте̄рапкате̄рпандо̄кте̄рпан
分.青кате̄рподо̄кте̄рпокате̄рпанодо̄кте̄рпано

#TSH.斜格人称接尾辞

動詞の目的語が、 以下に示す斜格人称接尾辞で表されることがある。 格や類による区別はない。

斜格人称接尾辞は、 活用形の最も後ろに付加される。 特に、 分詞形に付けられる場合は、 連性や格などを表す接尾辞よりも後ろに付加される。 また、 活用形が子音で終わっている場合は、 その子音が語幹の一部であれば語幹と人称接尾辞の間に е が挿入され、 そうでなければ а が挿入される。

一複-бам
一単

例えば、 能動態現在時制二人称赤類形 секате̄п に二人称接尾辞 を付加すると、 深層形 секате̄пеш を経て表層形 секте̄пеш が得られる。 また、 能動態過去時制分詞連体赤類具格不定形 кате̄рапаневаўат に三人称接尾辞 を付加すると、 深層形 кате̄рапаневаўатаъ を経て表層形 кате̄рпаневата̄ が得られる。

斜格人称接尾辞は独立人称代名詞の代わりに用いられるため、 動詞の目的語が斜格人称接尾辞と独立人称代名詞で二重に標示されることはない。 そのため、 斜格人称接尾辞は、 動詞の活用の一部というよりも、 独立した接語の一種と見なすのが適切である。 しかし、 活用接辞と同じように表層形を得る際に語幹と一体化する場合があるため、 活用と並列してここで扱った。

体言の曲用

#TSE.規則曲用

体言は、 連性, 類, 格, 定性に従って、 接尾辞を語幹に加えることによって曲用する。

連性
連用 (∅), 連体 (/-ва)
赤類 (∅/), 青類 ()
主格 (∅), 対格 (), 与格 (), 奪格 (-ӟам), 具格 (-ўат), 処格 ()
定性
定 (лө-), 不定 (∅)

定を表す лө- は、 語幹の前に付加される。 この ө は、 語幹の幹母音に一致し、 合成語では最も左側にある要素の幹母音に一致する。 連性, 類, 格を表す接尾辞は、 語幹の後ろに付加され、 以下の通りである。

赤.用青.用赤.体青.体
-ев-ов
-ав-ав
-еҫ-оҫ-еваҫ-оваҫ
-еӟам-оӟам-еваӟам-оваӟам
-еўат-оўат-еваўат-оваўат
-ей-ой-евай-овай

参考として、 G 型での曲用パラダイムの全容と、 それを語根 √к-т-п に適用した形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
赤.用青.用赤.体青.体
主.不定кө̄тапкө̄та̷покө̄та̷певкө̄та̷пов
対.不定кө̄та̷пакө̄та̷пакө̄та̷павкө̄та̷пав
与.不定кө̄та̷пеҫкө̄та̷поҫкө̄та̷певаҫкө̄та̷поваҫ
奪.不定кө̄та̷пеӟамкө̄та̷поӟамкө̄та̷пева̷ӟамкө̄та̷пова̷ӟам
具.不定кө̄та̷пеўаткө̄та̷поўаткө̄та̷пева̷ўаткө̄та̷пова̷ўат
処.不定кө̄та̷пейкө̄та̷пойкө̄та̷певайкө̄та̷повай
主.定лөкө̄таплөкө̄та̷полөкө̄та̷певлөкө̄та̷пов
対.定лөкө̄та̷палөкө̄та̷палөкө̄та̷павлөкө̄та̷пав
与.定лөкө̄та̷пеҫлөкө̄та̷поҫлөкө̄та̷певаҫлөкө̄та̷поваҫ
奪.定лөкө̄та̷пеӟамлөкө̄та̷поӟамлөкө̄та̷пева̷ӟамлөкө̄та̷пова̷ӟам
具.定лөкө̄та̷пеўатлөкө̄та̷поўатлөкө̄та̷пева̷ўатлөкө̄та̷пова̷ўат
処.定лөкө̄та̷пейлөкө̄та̷пойлөкө̄та̷певайлөкө̄та̷повай
ке̄тап (√к-т-п, G-е 型)
赤.用青.用赤.体青.体
主.不定ке̄тапке̄тпоке̄тпевке̄тпов
対.不定ке̄тпаке̄тпаке̄тпавке̄тпав
与.不定ке̄тпеске̄тпоске̄тпеваске̄тповас
奪.不定ке̄тпезамке̄тпозамке̄тпевзамке̄тповзам
具.不定ке̄тпо̄тке̄тпӯтке̄тпеватке̄тповат
処.不定ке̄тпӣке̄тпе̄ке̄тпеве̄ке̄тпове̄
主.定леке̄таплеке̄тполеке̄тпевлеке̄тпов
対.定леке̄тпалеке̄тпалеке̄тпавлеке̄тпав
与.定леке̄тпеслеке̄тпослеке̄тпеваслеке̄тповас
奪.定леке̄тпезамлеке̄тпозамлеке̄тпевзамлеке̄тповзам
具.定леке̄тпо̄тлеке̄тпӯтлеке̄тпеватлеке̄тповат
処.定леке̄тпӣлеке̄тпе̄леке̄тпеве̄леке̄тпове̄

#TSI.前置型曲用

体言の機能語には、 形容詞として使われたときに被修飾語に前置されるものがある。 このとき、 被修飾語が赤類か青類かに応じてそれぞれ -е̄-о̄ の語尾をとった形になることが多い。 この形では、 連性や格などによる変化はない。

#TSO.副詞

形容詞的な意味のある体言に対して、 青類の語幹の末尾に -оў を付加することで副詞が作られる。