日記 (2019 年 8 月 1 日)
前回は、 景 (,J) に対して、 それ上の層の圏 ShJ() を前層の圏の充満部分圏として定義した。
今回は、 任意の前層から層を構成する方法を紹介する。
本題となる定義の前に、 Grothendieck 位相に関して補足をしておく。
景 (,J) の対象 C に対し、 JC は C 上の篩の集まりであり、 C 上の篩とは yC の部分関手であった。
つまり、 JC の元は全て PSh() の対象になっている。
さらに、 JC には包含関係が定まっているが、 これを定める包含射は PSh() の射でもある。
したがって、 JC は PSh() の部分圏だと見なすことができる。
まず、 プラス構成と呼ばれる構成方法を定義する。
定義 2.1.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set に対し、
P+: ∘ ⟶ Set C ⟼ colimS∈JC∘HomPSh()(S,P)
と定める。
すると、 これは関手
-+: PSh() ⟶ PSh() P ⟼ P+
を定めるが、 これをプラス構成関手 (plus construction functor) という。
射の対応は明らかな方法で定める。
なお、 最初の式の右辺は関手 HomPSh()(-,P):JC∘→Set の余極限である。
プラス構成を定める余極限は、 以下のように具体的に書くこともできる。
続く命題の証明には、 この表示を用いる。
命題 2.2.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set および対象 C に対し、 P+C は直和の剰余集合として
P+C≅ S∈JCHomPSh()(S,P) ≈
と書ける。
ここで、 2 つの自然変換 a:S→P,a:S→P が a≈a を満たすとは、 ある T∈JC が存在して、 T⊆S かつ T⊆S が成り立ち、 さらに
STPSaa
が可換であることと定める。
さらに、 射 h:D→C に対して定まる写像 P+h:P+C→P+D は、 自然変換 a:S→P で代表される元を、 合成
h∗SSPh∘-a
で代表される元に移す。
証明.
余極限の普遍性を定義に従って確かめれば良い。
任意の前層からプラス構成を 1 回行うだけでは層になるとは限らないが、 以下で定義する分離前層になることは保証される。
分離前層が層と異なるのは、 自然変換の持ち上げが必ずしも存在するとは限らない点である。
定義 2.3.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set が分離 (separated) であるとは、 任意の被覆篩 S∈JC と任意の自然変換 a:S→P に対し、 図式
SPyCa
を可換にする破線の自然変換は存在すれば一意になることである。
層の場合と同様に、 分離性と同値になるいくつかの言い換えも挙げておく。
命題 2.4.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set に対し、 3 条件
- P は分離である。
- 任意の被覆篩 S∈JC に対し、 それが誘導する写像
-∘S:HomSet∘(yC,P)→HomSet∘(S,P)
は単射である。
- 任意の被覆篩 S∈JC とその適合族 (af)f∈S に対し、 その融合は存在すれば一意である。
は同値である。
すでに述べたように、 任意の前層からプラス構成を 1 回行うだけでは分離前層にしかならない。
しかし、 ここからさらにプラス構成を行うと層になる。
これによって、 前層から層を構成することができるのである。
命題 2.5.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set に対し、 P+ は分離前層である。
証明.
任意に被覆篩 W∈JC をとる。
命題 2.4 によって、
-∘W:Hom(yC,P+)→Hom(W,P+)
が単射であることを示せば良い。
そこで、 自然変換 α,α:yC→P+ をとり、 これらが α∘W=α∘W を満たすとする。
すなわち、 任意の f∈W:D→C に対し、
(α∘W)Df=(α∘W)Df∈P+D♡
が成り立つとする。
さて、 Yoneda 同型によって α,α と対応する元をそれぞれ α,α∈P+C とし、 これらがそれぞれある被覆篩 S,S∈JC に対して a:S→P,a:S→P で代表されるとする。
すると、 仮定 ♡ は、 2 つの自然変換
f∗SSPf∘-af∗SSPf∘-a
が P+D を定める同値関係において同値であるということである。
それはすなわち、 ある被覆篩 Tf∈JD が存在し、 Tf⊆f∗S かつ Tf⊆f∗S であって、
f∗SSTfPf∗SSf∘-af∘-a
が可換になるということである。
ここで、
U:={f∘g∣f∈W,g∈Tf}⊆yC
と定めると、 これは位相の推移性によって被覆篩になっており、 U⊆S かつ U⊆S であり、 さらに
SUPSaa
が可換である。
これはすなわち、 a,a が P+C を定める同値関係において同値であることを意味する。
したがって、 α=α が成り立つ。
命題 2.6.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set に対し、 P が分離前層ならば P+ は層である。
証明.
任意に被覆篩 W∈JC をとる。
命題 1.13 によって、
-∘W:Hom(yC,P+)→Hom(W,P+)♤
が全射であることを示せば良い。
そこで、 自然変換 α:W→P+ をとる。
すると、 各射 f∈W:D→C に対して、 元 αDf∈P+D が定まっていることになる。
これが、 被覆篩 Sf∈JD によって af:Sf→P で代表されているとする。
さて、 a の自然性によって、 任意の射 g:E→D に対し、
WDP+DWEP+EαDWgP+gαE
は可換である。
これは、 各射 f∈W:D→C について、 (P+g)(αDf)=αE(f∘g) が成り立つということである。
さらにこれは、 2 つの自然変換
g∗SfSfPg∘-afSf∘gPaf∘g
が P+E において同値であるということである。
したがって、 ある被覆篩 Tfg∈JE が存在し、 Tfg⊆g∗Sf かつ Tfg⊆Sf∘g であって、
g∗SfSfTfgPSf∘gg∘-afaf∘g
は可換である。
さて、
U:={f∘g∣f∈W,g∈Sf}⊆yC
と定めると、 これは位相の推移性によって被覆篩である。
そこで、 自然変換 a:U→P を、 各対象 E に対し、
aE: UE ⟶ PE f∘g ⟼ afg(f∈S,g∈Sf,codg=E)
で定める。
この aE が矛盾なく定義できていることを確かめる。
そこで、 f,f∈W および g∈Sf,g∈Sf をとり、 f∘g=f∘g を満たすとする。
このとき、 Yoneda 同型によって afg,afg と対応する元をそれぞれ afg,afg:yE→P とし、 afg=afg を示せば良い。
今 P は分離前層だから、 包含射が誘導する写像
Hom(yE,P)→Hom(Vfg∩Vfg,P)♡
は単射なので、 afg,afg をそれぞれこの写像で移した先が等しいことを示せば十分である。
そのために、 図式
g∗SfSfTfgPSf∘gTfg∩TfgSf∘gTfgPg∗SfSfg∘-afaf∘gaf∘gg∘-af
を考えると、 これは Tfg,Tfg の定義から可換である。
したがって、 図式
yEg∗SfSfTfg∩TfgPg∗SfSfyEafgg∘-afg∘-afafg
も可換である。
実際、 中央の六角形は上の図式の外側と同じものなので可換であり、 上下にある部分は afg,afg の定義から可換である。
そして、 この可換性は afg,afg を写像 ♡ で移した先が等しいということを意味しているので、 示したかったことが示された。
以上によって、 自然変換 a:U→P が得られた。
すると、 定義によって、 任意の射 f∈W:D→C に対し、 2 つの自然変換
f∗UUPf∘-aSfPaf
は全く同じになっているので、 P+D の元としても等しい。
a によって代表される元を α∈P+C とおき、 さらに Yoneda 同型で対応する自然変換を α:yC→P+ とおけば、 このことは αDf=αDf が成り立つことを意味している。
すなわち、 α∘S=α であるから、 写像 ♤ は全射である。
この 2 つの命題によって、 層化関手を定義できる。
定義 2.7.
景 (,J) をとる。
関手
a: PSh() ⟶ ShJ() P ⟼ P++
を層化関手 (sheafification functor) という。
次回は、 この層化関手が包含関手 i:ShJ()↪PSh() の左随伴になっていることを証明する。
参考文献
- S. MacLane, I. Moerdijk (1992) 『Sheaves in Geometry and Logic』 Springer