日記 (2023 年 12 月 3 日)

ルカ 15.19 ~ 15.20 に相当する箇所です。

южє нѣсмь достоинъ нарєщи сѧ сꙑнъ твои.
южєюжєもう нѣсмьнѣсмьない|現.一単 достоинъдостоинъふさわしい нарєщинарєщи呼ぶ|不 сѧсєбє自分|単.対 сꙑнъсꙑнъ息子|単.主 твоитвоиあなたの|男.単.主
私はもうあなたの息子と呼ばれるにふさわしくない。

2 単語目の нѣсмь は、 繋辞の бꙑти の否定形の一人称単数形です。 通常は動詞の否定は нє を前置することで行われますが、 繋辞の現在時制に関しては бꙑти の活用形に нє が融合した特別な形が使われます。 ここでは、 бꙑти の現在時制一人称単数形の ѥсмьнє が融合した нѣсмь という形が使われています。

真ん中辺りにある нарєщи は、 на- 「~へ」 と рєщи 「言う」 の合成語です。 単独では 「呼ぶ」 や 「決定する」 の意味になりますが、 сѧ を伴って再帰動詞になると 「呼ばれる」 という受け身の意味になります。

сътвори мѧ ꙗко ѥдиного отъ наимьникъ твоихъ.
сътворисътворитиする|命.二単 мѧазъ|対 ꙗкоꙗко~のように ѥдиногоѥдинъ1|男.生 отъотъ~のうちの наимьникънаимьникъ召使い|複.生 твоихътвоиあなたの|男.複.生
私をあなたの召使いの 1 人にしなさい。

文頭の сътвори は、 сътворити の命令法二人称単数形です。 この動詞は、 〈対格 Aꙗко +対格 B〉 の形を伴って 「AB にする」 の意味になり、 ここではこの形が現れています。 ただし、 B に相当する ѥдиного は、 ここでは対格ではなく生格になっています。 人を表す男性名詞に限って対格の意味で生格が使われるという 「生対格」 と呼ばれる用法があるのですが、 これによるものです。 古代教会スラブ語においては生対格の利用は絶対的なものではなく、 時には対格で時には生格という状況だったようです。 現代ロシア語ではこの生対格は絶対的になっていて、 「対格の意味で生格を使う」 ではなく、 もはや 「対格は生格と同形」 と説明されることが多いですね。

и въставъ идє къ отьцꙋ своѥмꙋ.
ииそして въставъвъстати立ち上がる|能過分.男.単.主 идєити行く|ア.三単 къкъ~に向かって отьцꙋотьць|単.与 своѥмꙋсвои自分の|男.単.与
彼は立ち上がって自分の父のところへ行った。
ѥщє жє ѥмꙋ далєчє сѫщꙋ, ꙋзьрѣ и отьць ѥго и милъ ѥмꙋ бꙑстъ.
ѥщєѥщєまだ жєжєさて ѥмꙋи|男.単.与 далєчєдалєчє遠くで сѫщꙋбꙑтиいる|能現分.男.単.与 ꙋзьрѣꙋзьрѣти見る|ア.三単 ии|男.単.対 отьцьотьць|男.主 ѥгои|男.単.生 ииそして милъмилъかわいそうな|男.単.主 ѥмꙋи|男.単.与 бꙑстъбꙑтиなる|ア.三単
さて、 まだ彼が遠くにいるうちに、 彼の父は彼を見て彼を憐れんだ。

文末に милъ ѥмꙋ бꙑстъ という表現がありますが、 これは 〈бꙑти милъ + 与格〉 という成句表現で、 これで 「~をかわいそうに思う」 や 「~を憐れむ」 の意味になります。 ちなみに、 原文のギリシャ語では ἐσπλαγχνίσθη (σπλαγχνίζομαι 「同情する」 の直説法受動相アオリスト時制三人称単数形) という 1 語で表現されています。

全体の文構造としては、 ѥщє жє ѥмꙋ далєчє сѫщꙋ が絶対与格構文で付帯状況を表していて、 ꙋзьрѣ и отьць ѥгомилъ ѥмꙋ бꙑстъ という 2 つの節が и で繋がれて主節となっています。

и тєкъ нападє на вꙑѭ ѥго и облобꙑза и.
ииそして тєкътєщи走る|能過分.男.単.主 нападєнапасти抱きつく|ア.三単 нана~へ вꙑѭвꙑꙗ|単.対 ѥгои|男.単.主 ииそして облобꙑзаоблобꙑзати接吻する|ア.三単 ии|男.単.対
彼の父は走って彼の首に抱きつき、 彼に接吻した。

ここの主語は、 書かれていませんが父親の方です。

あとどうでも良いですが、 この辺りは接続詞の и と指示代名詞の и が半々くらいで出てきてグロスがややこしいですね