日記 (2023 年 8 月 4 日)

今日は、 弱動詞と強動詞の概念に触れ、 最初の弱動詞として 1a 弱動詞を取り上げます。

ʔ, y, w, n という 4 つの子音は 「弱子音 (weak consonant)」 と呼ばれ、 周囲の環境によって消失したり音が変わったりするため、 これを根素として含む動詞の活用は典型から外れた形になりがちです。 ʔ にまつわる変化は学習ログ 8 でやりましたし、 n の同化については学習ログ 6 で触れましたね。 弱子音によって典型からさらに音変化が起こる動詞を 「弱動詞 (weak verb)」 と呼び、 そうでない典型の活用をする動詞を 「強動詞 (strong verb)」 と呼びます。 ここまで語根の代表として使ってきた √p-r-s には弱子音が含まれないので、 ここまでやってきた活用は強動詞の活用ということになります。

弱動詞には様々な種類があるので、 弱子音になっている根素の番号の後にその弱子音自身を続けることで、 弱動詞に名前をつけることにします。 ただし、 弱子音が ʔ1, ʔ2 のいずれかだった場合は 「a」 を使い、 ʔ3, ʔ4, ʔ5 のいずれかだった場合は 「e」 を使います。 例えば、 第 1 根素が n の弱動詞は 「1n 弱動詞」 と呼び、 第 3 根素が ʔ4 の弱動詞は 「3e 弱動詞」 と呼びます。

弱子音が何であるかを特に明示する必要がないときは、 第 1 根素が弱子音のものを 「頭弱動詞 (first-weak verb)」 と呼び、 第 2 根素が弱子音のものを 「間弱動詞 (second-weak verb)」 と呼び、 第 3 根素が弱子音のものを 「末弱動詞 (final-weak verb)」 と呼びます。

今日は、 最初の弱動詞として 1a 弱動詞について見ていきます。 つまり、 第 1 根素が ʔ1, ʔ2 のどちらかである動詞のことですね。 1a 弱動詞の語根の代表としては √ʔ1--z を使うことにします。

1a 弱動詞の G 型と D 型の継続相の活用は以下のようになります。 ʔ が母音に挟まれたときは、 通常は ʔ だけが脱落して母音融合が起きますが、 動詞活用では ʔ と後続の母音がともに消失します。

aḫāzum (G-1a 型)
三.単iḫḫaz
二.男.単taḫḫaz
二.女.単taḫḫazī
一.単aḫḫaz
三.男.複iḫḫazū
三.女.複iḫḫazā
二.複taḫḫazā
一.複niḫḫaz
uḫḫuzum (D-1a 型)
三.単uḫḫaz
二.男.単tuḫḫaz
二.女.単tuḫḫazī
一.単uḫḫaz
三.男.複uḫḫazū
三.女.複uḫḫazā
二.複tuḫḫazā
一.複nuḫḫaz

例えば、 G 型の継続相三人称単数形は、 規則通りの活用では iʔaḫḫaz ですが、 ʔ とその後続の母音である a が同時に消え、 iḫḫaz という語形になっています。

1a 弱動詞の Š 型と N 型の継続相の活用は以下のようになります。 Š 型では、 第 1 根素である ʔ の直後に第 2 根素子音が置かれるので、 通常は ʔ が消えて前の母音が代償延長しますが、 ここだけは例外的に ʔ が消えるときに第 2 根素が重子音になります。 N 型では、 ʔ は消える代わりに n に変化し、 この n は普通の n と違って後続の子音に同化しません。

šūḫuzum (Š-1a 型)
三.単ušaḫḫaz
二.男.単tušaḫḫaz
二.女.単tušaḫḫazī
一.単ušaḫḫaz
三.男.複ušaḫḫazū
三.女.複ušaḫḫazā
二.複tušaḫḫazā
一.複nušaḫḫaz
nanḫuzum (N-1a 型)
三.単innaḫḫaz
二.男.単tannaḫḫaz
二.女.単tannaḫḫazī
一.単annaḫḫaz
三.男.複innaḫḫazū
三.女.複innaḫḫazā
二.複tannaḫḫazā
一.複ninnaḫḫaz

例えば、 Š 型の継続相三人称単数形は、 規則通りでは ušaʔḫaz となるところですが、 ʔ が消えて後続の が重子音になり、 ušaḫḫaz という語形になっています。 また、 N 型の継続相三人称単数形は、 規則通りでは inʔaḫḫaz となるところですが、 ʔn に変化した結果、 innaḫḫaz になっています。

次に、 1a 弱動詞の完了相の活用を、 4 つの型全てについて一気に見てしまいましょう。 N 型以外では、 直後に子音が置かれる ʔ が脱落して ʔ の直前の母音が代償延長します。 N 型では、 ʔn に変化します。

aḫāzum (G-1a 型)
三.単ītaḫaz
二.男.単tātaḫaz
二.女.単tātaḫzī
一.単ātaḫaz
三.男.複ītaḫzū
三.女.複ītaḫzā
二.複tātaḫzā
一.複nītaḫaz
uḫḫuzum (D-1a 型)
三.単ūtaḫḫiz
二.男.単tūtaḫḫiz
二.女.単tūtaḫḫizī
一.単ūtaḫḫiz
三.男.複ūtaḫḫizū
三.女.複ūtaḫḫizā
二.複tūtaḫḫizā
一.複nūtaḫḫiz
šūḫuzum (Š-1a 型)
三.単uštāḫiz
二.男.単tuštāḫiz
二.女.単tuštāḫizī
一.単uštāḫiz
三.男.複uštāḫizū
三.女.複uštāḫizā
二.複tuštāḫizā
一.複nuštāḫiz
nanḫuzum (N-1a 型)
三.単ittanḫaz
二.男.単tattanḫaz
二.女.単tattanḫazī
一.単attanḫaz
三.男.複ittanḫazū
三.女.複ittanḫazā
二.複tattanḫazā
一.複nittanḫaz

最後に、 1a 弱動詞の完結相の活用も一気に見てしまいましょう。 G 型と Š 型では、 直後に子音が置かれる ʔ が脱落して ʔ の直前の母音が代償延長します。 D 型では、 母音に挟まれた ʔ が後続の母音とともに脱落します。 N 型では、 ʔn に変化します。 これまでに出てきた ʔ に関する変化と同じですね。

aḫāzum (G-1a 型)
三.単īḫuz
二.男.単tāḫuz
二.女.単tāḫuzī
一.単āḫuz
三.男.複īḫuzū
三.女.複īḫuzā
二.複tāḫuzā
一.複nīḫuz
uḫḫuzum (D-1a 型)
三.単uḫḫiz
二.男.単tuḫḫiz
二.女.単tuḫḫizī
一.単uḫḫiz
三.男.複uḫḫizū
三.女.複uḫḫizā
二.複tuḫḫizā
一.複nuḫḫiz
šūḫuzum (Š-1a 型)
三.単ušāḫiz
二.男.単tušāḫiz
二.女.単tušāḫizī
一.単ušāḫiz
三.男.複ušāḫizū
三.女.複ušāḫizā
二.複tušāḫizā
一.複nušāḫiz
nanḫuzum (N-1a 型)
三.単innaḫiz
二.男.単tannaḫiz
二.女.単tannaḫzī
一.単annaḫiz
三.男.複innaḫzū
三.女.複innaḫzā
二.複tannaḫzā
一.複ninnaḫiz

活用表が 12 個も出てきて覚えるのがしんどそうですが、 結局は強動詞の活用から以下の規則に従って変化させれば良いだけなので、 覚える量はそんなにありません。 しれっと ʔ が語頭の場合の規則も追加してますが、 これはそのうち使います。

ʔ が母音に挟まれる
ʔ と後続の母音がともに脱落
ʔ の直後に子音
ʔ が脱落して代償延長 (Š 型継続相では次の子音が重子音に)
ʔ が語頭
ʔ が単に脱落
N 型
一律で ʔn に変化

各語幹の各相での三人称男性単数形もまとめておきましょう。

ʔ1--z (1a 弱語根)
継続相完了相完結相
G 型iḫḫazītaḫazīḫuz
D 型uḫḫazūtaḫḫizuḫḫiz
Š 型ušaḫḫazuštāḫizušāḫiz
N 型innaḫḫazittanḫazinnaḫiz

古典語の勉強ってどうしても動詞活用をひらすら覚えるって感じになりがちだよね。

追記 (2023 年 8 月 11 日)

弱動詞の名前についての記述を追加しました。