日記 (2023 年 7 月 29 日)

今日は、 語根と語型について触れた後に、 4 種類の動詞型について説明します。

アッカド語 (というかセム語派に属する言語全般) を勉強する際に避けられないのが、 語根と語型による単語派生に慣れることです。 アッカド語は、 3 つ (たまに 2 つや 4 つ) の子音から成る 「語根 (root)」 の間に、 母音や接辞から成る 「語型 (pattern)」 を適用することで、 単語を作ります。 語根を構成する子音は 「根素 (radical)」 とも呼ばれます。 語根は作られる単語のコアとなる語義を決め、 語型は 「~すること」 や 「~されたもの」 のような単語の意味の形態を決めます。

例えば、 語根 √k-ṣ-r は 「縛る」 というコア語義をもっていて、 そこに様々な語型を適用することで、 例えば以下のような単語が作られます。

語型単語
1a2ā3umkaṣārum 「縛ること」
1u22u3umkuṣṣurum 「縛られた」
ma12a3ummakṣarum 「束 (縛られたもの)」

ここで、 語型において語根を構成する子音が入る場所を下付き数字で表しました。 しかし、 語型を記述する際には、 語根の代表として √p-r-s を適用した形で表すという表記法が広く用いられています。 この表記法では、 例えば 1a2ā3um1u22u3um ではなく parāsumpurrusum と書きます。 要するに、 「√p-r-s の場合の形だけ書くけど他の語根でも同様だよ」 という表記をするわけですね。 この学習ログで語型を記す際には、 一般的な慣習に倣って √p-r-s に適用した形で書きますが、 語根を除いた語型だけに特に注目したい場合は下付き数字による記法も使うことにします。

余談ですが、 アラビア語での語根の代表は √f-ʕ-l だし、 ヘブライ語での語根の代表も同じ起源の √p-ʕ-l ですよね。 アッカド語でも同じものを語根の代表にすれば良いのにと思ったので、 辞書を軽く見てみたんですが、 どうもないっぽいですね。 そんなわけで、 アッカド語での語根の代表は √p-r-s になってるんだと思います。

1 つの語幹からはいくつかの動詞が作られ、 そのときに使われる語型に応じて 「G 型」, 「D 型」, 「Š 型」, 「N 型」 の 4 種類に分類されます。 実際にはそれぞれの型からさらに派生した別の型がいくつかあるのですが、 それは後で触れることになります。

G 型は、 最も基本的で最も出現頻度の高い形です。 語根がもつコア語義をそのまま抜き出して動詞にしたものというイメージで良いでしょう。 アラビア語では I 型に相当します。 √p-r-s の G 型での形は parāsum で、 √p-r-s がもつ 「分ける」 というコア語義そのままに、 「分けること」 のような意味になります。

D 型は、 形容詞的な意味合いをもつ G 型に対して 「~の状態にする」 の意味になったり、 単に G 型の意味の強調の意味になったりします。 語根の第 2 根素が重子音になるのが特徴です。 アラビア語では II 型に相当します。 √p-r-s の D 型での形は purrusum で、 「切り落とすこと」 のような意味になり、 G 型の強調っぽい意味になっています。

Š 型は、 G 型に対する使役を表します。 語根の前に š から始まる接頭辞が追加されるためこう呼ばれます。 アラビア語では IV 型に相当します。 √p-r-s の D 型での形は šuprusum で、 「分断させること」 のような意味になります。

N 型は、 G 型に対する再帰や受動を表します。 語根の前に n から始まる接頭辞が追加されるためこう呼ばれます。 アラビア語では VII 型に相当します。 √p-r-s の N 型での形は naprusum で、 「分かれること」 のような意味になります。

各語型の形と意味を表にまとめておきます。

意味
G 型分ける (基本)parāsum1a1ā1um
D 型切り落とす (作為, 強調)purrusum1u22u3um
Š 型分断させる (使役)šuprusumšu12u3um
N 型分かれる (再帰, 受動)naprusumna12u3um

なお、 「D 型は強調」 や 「Š 型は使役」 などと言いましたが、 これはあくまで目安で、 実際には各型の意味を予測することはあまりできません。 そのため、 例えば 「知ってる動詞の Š 型だからたぶん使役の意味だろう」 などとするのは早計で、 ちゃんと辞書を引いて確認しないといけません。 上で述べた型の一般的な意味は、 あくまで覚えるときの手がかりくらいにしておいた方が良さそうです。

さて、 G 型の形は parāsum だと言いましたが、 これは不定詞男性単数主格形という形で、 数ある活用形の中の 1 つです。 アッカド語では、 この不定詞男性単数主格形がいわゆる 「辞書形」 となり、 辞書などの見出し語として使われます。 アッカド語の動詞は、 語型を入れ替えることで、 この辞書形以外にも様々な形に活用します。 ということで、 次回は動詞の活用の種類の話をします。