日記 (2019 年 8 月 9 日)
定義 4 です。 ちょっと長いです。
- εὐθεῖα γραμμή ἐστιν, ἥτις ἐξ ἴσου τοῖς ἐφ' ἑαυτῆς σημείοις κεῖται.
- 直線とは、 それ自身の上の点において均一に横たわるものである。
- εὐθεῖαεὐθύς真っ直ぐな|女.単.主 γραμμήγραμμή線|単.主 ἐστινεἰμίである|直.能.現.三単, ἥτιςὅστις不関|女.単.主 ἐξἐξ~から ἴσουἴσος均一な|中.単.属 τοῖςὁ冠|中.複.与 ἐφ'ἐπί~の上の ἑαυτῆςἑαυτοῦそれ自身|女.単.属 σημείοιςσημεῖον点|複.与 κεῖταικεῖμαι横たわる|直.中.現.三単.
1 単語目の εὐθεῖα は、 「真っ直ぐな」 を意味する εὐθύς の女性単数主格形です。 女性系では第 1 変化をしますが、 普通の第 1 変化とは異なり -η ではなく -α で終わっています。 これは、 語幹が ε, ι, ρ で終わる場合に -ᾱ (短音の -α にもなり得る) になるためです [§24]。 曲用は、 曲用語尾の η を全部 ᾱ に変えるだけですが、 単数主格が短音の -α の場合は、 単数主格と単数対格と単数呼格も短音になります。
女 | |
---|---|
単.主 | εὐθεῖ-α |
単.属 | εὐθεί-ᾱς |
単.与 | εὐθεί-ᾱι |
単.対 | εὐθεῖ-αν |
単.呼 | εὐθεῖ-α |
複.主 | εὐθεῖ-αι |
複.属 | εὐθει-ῶν |
複.与 | εὐθεί-αις |
複.対 | εὐθεί-ᾱς |
複.呼 | εὐθεῖ-αι |
4 単語目の ἥτις は、 不定関係代名詞 ὅστις の女性単数主格形です。 不定関係代名詞とは、 英語の whoever や whichever に対応する単語で、 使い方は普通の関係代名詞とほぼ同じです [§64]。 さらに、 この単語は関係代名詞 ὅς と不定代名詞 τις の合成によって作られたものなので、 この 2 つの構成単語を別々に曲用させれば ὅστις の曲用形が得られます。 ということで、 ὅστις の代わりに τις の曲用を載せておきます。 これは、 単数主格形を除いて -ν 幹第 3 変化に準じますが、 ところどころに別形があります [§53]。
男/女 | 中 | |
---|---|---|
単.主 | τις | τι |
単.属 | τινός, του | τινός, του |
単.与 | τινί, τῳ | τινί, τῳ |
単.対 | τινά | τι |
複.主 | τινές | τινά |
複.属 | τινῶν | τινῶν |
複.与 | τισί | τισί |
複.対 | τινάς | τινά |
次の ἐξ ですが、 これは母音の前で使われる ἐκ の別形で、 属格を支配して 「~の中から」 などを表します。 これによって、 続く ἴσου が属格形になっています。
8 単語目の ἐφ' は、 前置詞 ἐπί の最後の ι が母音衝突を避けるために省略された形で、 後続する単語の最初が気音なので、 それに伴って π も φ に変化しています。 ἐπί は後続する単語の格によっていろいろな意味がありますが、 今回は属格を支配して、 「~の上に」 を意味しています。 英語の on です。
9 単語目の ἑαυτῆς は、 再帰代名詞 ἑαυτοῦ の女性単数属格形です。 これは人称代名詞と強意代名詞 αὐτός の合成語なので、 曲用は αὐτός に準じます [§142]。 ということで、 まずは αὐτός の曲用ですが、 関係代名詞と一緒です [§67]。
男 | 女 | 中 | |
---|---|---|---|
単.主 | αὐτός | αὐτή | αὐτό |
単.属 | αὐτοῦ | αὐτῆς | αὐτῶν |
単.与 | αὐτῷ | αὐτῇ | αὐτοῖς |
単.対 | αὐτόν | αὐτήν | αὐτό |
複.主 | αὐτοί | αὐταί | αὐτά |
複.属 | αὐτῶν | αὐτῶν | αὐτῶν |
複.与 | αὐτοῖς | αὐταῖς | αὐτοῖς |
複.対 | αὐτούς | αὐτᾱ´ς | αὐτά |
ἑαυτοῦ の曲用は、 ここに ἑ を付けるだけです。 ただし、 再帰代名詞なので主語として使われることはなく、 したがって主格は存在しません。 そのため、 辞書形としては男性単数属格の ἑαυτοῦ が用いられるようです。
最後の κεῖται は、 「横たわる」 の意味の κεῖμαι の変化形です。 英語の lie ですね。 これは能動相欠如動詞の一種で、 能動相の形が存在せず、 代わりに中動相や受動相で能動の意味を出します [§136]。
直.中.現 | |
---|---|
一単 | κεῖ-μαι |
二単 | κεῖ-σαι |
三単 | κεῖ-ται |
一複 | κεί-μεθα |
二複 | κεῖ-σθε |
三複 | κεῖ-νται |
不 | κεῖ-σθαι |
せっかくなので、 一般的な -ω 動詞の直接法中動相現在の活用形も確認しておきます。 特徴としては、 二人称単数形で活用語尾の σ が落ち、 母音融合を起こすところです [§133]。 -ω 動詞は、 動詞幹に ε (鼻音の前では ο) を加えた形が時称幹になりますが、 能動相では活用語尾と融合して分かりづらかったこの母音が、 中動相では分かりやすくなっています。
直.中.現 | |
---|---|
一単 | παιδεύ-ο-μαι |
二単 | παιδεύ-ῃ (< παιδεύ-ε-σαι) |
三単 | παιδεύ-ε-ται |
一複 | παιδευ-ό-μεθα |
二複 | παιδεύ-ε-σθε |
三複 | παιδεύ-ο-νται |
不 | παιδεύ-ε-σθαι |
文構造を読み取ります。
コンマの前までは良いでしょう。 コンマの直後に ἥτις は、 これが女性単数形であることから先行詞は γραμμή であることが分かり、 さらにこれは主格なので、 関係節内の κεῖται の主語になっていることが分かります。 続く ἐξ ἴσου は副詞句として 「等しく」 や 「均一に」 などとすれば良いと思います。
その後ですが、 τοῖς が与格形なので与格になっている名詞を探すと σημείοις があるので、 τοῖς ἐφ' ἑαυτῆς σημείοις で 1 つの句になっていそうです。 ἐφ' ἑαυτῆς は 「それ自身の上で」 であり、 ここにある ἑαυτῆς は女性単数形なので、 γραμμή を受けていると解釈して良いでしょう。 したがって、 この部分は 「その直線自身の上の点」 と訳せます。 ここは与格になっているので、 「~において」 とすれば良いのかな (もっと適切な訳があるかも)。
まあ、 訳せはしたんですが、 結局何を言ってるんですかね、 これ…。
追記 (2019 年 8 月 11 日)
解釈の誤りがあったので本文を訂正しました。
最初の単語である εὐθεῖα を名詞と解釈していましたが、 これは 「真っ直ぐな」 を意味する εὐθύς の女性単数主格形と見るのが正しそうです。 こうすると、 次の γραμμή を修飾して、 全体で 「直線」 の意味になります。
ただし、 以降は εὐθεῖα γραμμή を省略して εὐθεῖα 単独で 「直線」 の意味で使われているので、 前の解釈が間違っているとも言い難いです。 しかし、 次のような理由で、 こちらの解釈の方が正しそうです。 まず、 『原論』 における定義では、 定義するものの名詞 + ἐστιν + コンマ + 定義内容という文体が多いので、 これに沿っていると仮定すれば εὐθεῖα γραμμή で 1 つの名詞とするのが統一感があります。 また、 定義 7 も同じ問題を抱えていて、 ἐπίπεδος が 「平面」 の意味の名詞なのか 「平らな」 の意味の形容詞なのか曖昧です。 ここで、 定義 15 に ἐπίπεδον という形が出てくるのですが、 これを名詞 ἐπίπεδος の単数対格形と判断すると文意が通らず、 形容詞 ἐπίπεδος の中性単数主格形と解釈するしかありません。 後に ἐπίπεδος が形容詞として使われているので、 定義 7 の ἐπίπεδος も形容詞とするのが良さそうですし、 それに合わせて定義 4 の εὐθεῖα も形容詞とするのが良さそうです。
ちなみに εὐθύς は、 -υς/-εια/-υ 型形容詞で、 曲用の説明はそのうち出てきます。