概要

フェンナ語は、 現実世界のセム諸語のように語根と語型による単語派生システムをもつ。 また、 動詞は時制や相や人称に従って活用し、 名詞や形容詞も性や格に従って曲用するなど、 (特にシャレイア語と比べれば) 複雑な語形変化を見せる。

古語からの音変化という設定が導入されており、 現代語の綴りは古語の綴りを一定の規則に基づいて変化したものとして決められている。 古語においては活用や曲用がほぼ規則的だが、 この音変化を経ることによって、 現代語においては変化パターンが複数あるように見えたり不規則な変化をしているように見えたりする。

正式な言語名は以下の通りである。

正式表記
日本語フェンナ語
英語Fennese (language)
スペイン語(idioma) fennés

音韻論

音素と正書法

古語

古語の音素目録は以下の通りで、 31 音素を区別する。 正書法にはキリル文字が用いられ、 一部の音素はアクセント付きの文字で表される。

文字発音
К к/k/
Г г/ɡ/
Х х/x/
Ҕ ҕ/ɣ/
Т т/t/
Д д/d/
С с/θ/
З з/ð/
П п/p/
Б б/b/
Ф ф/ɸ/
В в/β/
文字発音
Ҫ ҫ/s/
Ҙ ҙ/z/
Ш ш/ʃ/
Ж ж/ʒ/
Ц ц/t͡s/
Ӟ ӟ/d͡z/
Ч ч/t͡ʃ/
Ӝ ӝ/d͡ʒ/
文字発音
Ӈ ӈ/ŋ/
Н н/n/
М м/m/
Л л/l/
Р р/ɾ/
Й й/j/
Ў ў/w/
Ъ ъ/ʕ/
文字発音
А а/a/
Е е/e/
О о/o/
Е̄ е̄/eː/
О̄ о̄/oː/

重子音は子音字を重ねることで表される。

現代語

古語の音素目録から、 微妙な音の変化を除いて以下の 4 つの大きな変化が生じた。 詳細は次のセクションで後述する。

結果として、 現代語での音素目録は以下のようになり、 全部で 26 音素となった。 文字の上では、 古語の正書法においてアクセント付きの文字だったものがアクセントなしの文字に合流したと見なせる (というよりそう見なせるように古語の正書法が制定されている)。

文字発音
К кک/k/
Г гݢ/ɡ/
Х хخ/x/
Ҕ ҕغ/ɣ/
Т тط/t/
Д дد/d/
П пپ/p/
Б бب/b/
Ф фف/f/
В вڤ/v/
文字発音
С сس/s/
З зز/z/
Ш шش/ʃ/
Ж жژ/ʒ/
Ц цڅ/t͡s/
Ч чچ/t͡ʃ/
文字発音
Ӈ ӈڠ/ŋ/
Н нن/n/
М мم/m/
Л лل/l/
Р рر/ɾ/
/j/
/w/
文字発音
А аـَ/a/
Е еـِ/ɛ/
О оـُ/ɔ/
И иـٍ/i/
У уـٌ/u/
А̄ а̄ـَا/aː/
Е̄ е̄ـِي/ɛː/
О̄ о̄ـُو/ɔː/
Ӣ ӣـٍي/iː/
Ӯ ӯـٌو/uː/

キリル文字正書法においては、 重子音は子音字を重ねることで表される。

アラビア文字正書法においては、 重子音はシャッダによって表され、 このシャッダは省略されることがない。 一方、 母音を表すハラカは任意であり、 母音記号がないと文意が曖昧になると思われる場合にのみ使用される。 音節が母音で始まる場合は、 その母音の長音を表す字母を代わりに置き、 必要であればハラカを附す。

/j/ と /w/ は、 連続した母音の間に挿入される渡り音としてのみ現れ、 文字では表記されない。 その実現は人によって様々で、 /j/ は [j], [ʝ], [ʒ] などの間で揺れ、 /w/ は [w], [ʋ], [β] などの間で揺れる。 挿入の規則については、 以下の 「音変化」 のセクションで述べる。

音節構造

音節構造は (C)V(C) であり、 1 つの音節で子音が 2 個以上連続することはない。

構成する母音が短母音であるような開音節は 「軽音節」 と呼ばれる。 それ以外の音節は 「重音節」 と呼ばれる。

アクセント

アクセントは強弱によって示され、 基本的に主要母音に置かれる。 ただし、 アクセント位置には次のような規則があり、 主要母音の位置がこれに従わない場合は、 この規則に合致するまでアクセント位置が後ろに移動する。

音変化

連続軽音節の回避

а は、 積極的に脱落した。 すなわち、 その а が脱落しても不可能な音節が生じないのであれば、 その а は脱落した。 ここで、 а の軽音節が連続している場合は、 前から優先して脱落する。

ео は、 語末以外で連続する軽音節の 2 つ目の母音として現れた場合に脱落した。

隣接子音の変化

音節間で子音が連続した場合、 以下の変化が起こった。 空欄になっている箇所では、 変化は起こっていない。

-п
к-ггххҕҕӈӈ
г-ккххҕҕӈӈ
х-ккггҕҕӈӈ
ҕ-ккггххӈӈ
т-ддссззццӟӟччӝӝццӟӟччӝӝнн
д-ттссззццӟӟччӝӝццӟӟччӝӝнн
с-ттддззццӟӟччӝӝццӟӟччӝӝнн
з-ттддссццӟӟччӝӝццӟӟччӝӝнн
п-ббффввмм
б-ппффввмм
ф-ппббввмм
в-ппббффмм
ҫ-ҙҙшшжж
ҙ-ҫҫшшжж
ш-ҫҫҙҙжж
ж-ҫҫҙҙшш
ц-ццӟӟччӝӝӟӟччӝӝ
ӟ-ццӟӟччӝӝццччӝӝ
ч-ццӟӟччӝӝццӟӟӝӝ
ӝ-ццӟӟччӝӝццӟӟчч
ӈ-нтнднснзмпмбмфмвнҫнҙншнжнцнӟнчнӝннмм
н-ӈкӈгӈхӈҕмпмбмфмвӈӈмм
м-ӈкӈгӈхӈҕнтнднснзнҫнҙншнжнцнӟнчнӝӈӈнн

弱子音の消失

й, ў, ъ を総称して 「弱子音」 と呼ぶ。 弱子音は音変化の過程で消失したが、 その際に周囲の母音に影響を与えた。

弱子音が母音の直後に現れたり母音に挟まれていた場合、 その前後の母音と融合して新たな母音を形成して、 弱子音自身は消失した。 融合によって生じる母音は以下の通りである。 なお、 もともと前後にあった母音の長短によらず融合によって生じる母音は一定なので、 以下の表では短母音の場合のみ表示してある。

-
ай-е̄е̄ӣе̄
ей-ӣӣӣӣ
ой-е̄е̄ӣе̄
-
аў-о̄о̄о̄ӯ
еў-о̄о̄о̄ӯ
оў-ӯӯӯӯ
-
аъ-а̄а̄е̄о̄
еъ-е̄е̄ӣо̄
оъ-о̄о̄е̄ӯ

弱子音が語頭に現れていた場合は、 上記の場合の弱子音消失が起こった後に、 以下のように直後の母音と融合した。 なお、 もともと直後にあった母音の長短は保たれる。

й-ииииу
ў-уууиу

弱子音が子音の直後に現れていた場合は、 周囲に痕跡を残さずに単に消失した。

子音の合流

古語の正書法でアクセント記号によって区別されていた音素同士の区別がなくなった。 すなわち、 次のような合流が起こった。

半母音の挿入

弱子音の消失によって母音が連続するようになった場合、 その間に半母音が挿入されて発音されるようになった。 挿入される半母音は以下の通りである。 なお、 これは前後の母音の長短によらないので、 以下の表では短母音の場合のみ表示してある。

, ,
а-/j//w/
е-, и-/j//j//j/
о-, у-/w//w//w/

形態論

語型

原則として、 全ての (外来語を除く) 内容語は、 それが用言か体言かに応じて 4 種類の語型のうちいずれかの語型をもつ。 G 型では、 3 つの根素全てが単子音として現れる。 D 型では、 3 つの根素のうち 1 つが重子音として現れ、 どの根素が重子音になるかによって 3 種類に分けられる。

語型には、 単語によって е または о になる母音が含まれる。 これを 「幹母音」 と呼び、 以降 ө で表す。

用言体言
G 型КаТө̄ПКө̄ТаП
D2КаТТө̄ПКө̄ТТаП
D3КаТө̄ППеКө̄ТаППе
D1аККaТө̄ПаККө̄ТаП

なお、 D3 型の最後にある е は、 活用や曲用などにより母音から始まる接尾辞が付加される際に消失する。 また、 D1 型の最初にある а も同様に、 母音で終わる接頭辞が付加される際に消失する。

一部の内容語には、 上記の語型に加えて貫通接辞が付加されている。 この貫通接辞は 「語型接辞」 と呼ばれる。

用言の活用

規則活用

用言は、 態, 時制, 人称, 性に従って以下に示す接辞を語幹に加えることによって活用する。 三人称には定性の区別もある点に注意せよ。

能動態 (∅), 受動態 (до̄-)
時制
現在時制 (∅), 過去時制 (-ан)
人称
三人称定 (∅), 三人称不定 (ъа-), 二人称 (с-), 一人称複数 (бам-), 一人称単数 (й-)
赤性 (), 青性 ()

過去時制を表す -ан は、 ともに語幹の後ろに付加される。 態と人称を表す接辞は、 ともに語幹の前に付加され、 両方が付加される場合は人称を表す接辞の方が前に置かれる。 性を表す は、 三人称不定以外の人称を表す接辞の直後に付加されるのに加え、 青性の場合は語幹の最後にも付加される。

用言はさらに分詞の形をもつ。 分詞の形では、 分詞であることを表す -ар- に加え、 定形活用と同様の接辞が時制, 態, 性に従って付加され、 さらに体言と同様の活用接辞が付加される。 分詞を表す -ар- は、 第 1 根素と第 2 根素の間にある а の直前に挿入される。

参考として、 G 型での活用パラダイムの全容と、 それを語根 √к-т-п に適用した形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。 なお、 分詞は格や定性等による曲用ももつが、 以下の表では連用不定主格での形のみを示した。

G 型
現.能現.受過.能過.受
三.定.赤КаТө̄Пдо̄Ка̷Тө̄ПКаТө̄Пандо̄Ка̷Тө̄Пан
三.定.青КаТө̄Подо̄Ка̷Тө̄ПоКаТө̄Па̷нодо̄Ка̷Тө̄Па̷но
三.不定.赤ъаКа̷Тө̄Пъадо̄Ка̷Тө̄ПъаКа̷Тө̄Панъадо̄Ка̷Тө̄Пан
三.不定.青ъаКа̷Тө̄Поъадо̄Ка̷Тө̄ПоъаКа̷Тө̄Па̷ноъадо̄Ка̷Тө̄Па̷но
二.赤сеКа̷Тө̄Пседо̄Ка̷Тө̄ПсеКа̷Тө̄Панседо̄Ка̷Тө̄Пан
二.青соКа̷Тө̄Посодо̄Ка̷Тө̄ПосоКа̷Тө̄Па̷носодо̄Ка̷Тө̄Па̷но
一複.赤бамеКа̷Тө̄Пбаме̷до̄Ка̷Тө̄ПбамеКа̷Тө̄Панбаме̷до̄Ка̷Тө̄Пан
一複.青бамоКа̷Тө̄Побамо̷до̄Ка̷Тө̄ПобамоКа̷Тө̄Па̷нобамо̷до̄Ка̷Тө̄Па̷но
一単.赤йеКа̷Тө̄Пйедо̄Ка̷Тө̄ПйеКа̷Тө̄Панйедо̄Ка̷Тө̄Пан
一単.青йоКа̷Тө̄Пойодо̄Ка̷Тө̄ПойоКа̷Тө̄Па̷нойодо̄Ка̷Тө̄Па̷но
分.赤Кара̷Тө̄Пдо̄Ка̷рaТө̄ПКара̷Тө̄Пандо̄Ка̷рaТө̄Пан
分.青Кара̷Тө̄Подо̄Ка̷рaТө̄ПоКара̷Тө̄Па̷нодо̄Ка̷рaТө̄Па̷но
кате̄п (√к-т-п, G-е 型)
現.能現.受過.能過.受
三.定.赤кате̄пдо̄кте̄пкате̄пандо̄кте̄пан
三.定.青кате̄подо̄кте̄покате̄пнодо̄кте̄пно
三.不定.赤акте̄падо̄кте̄пакте̄панадо̄кте̄пан
三.不定.青акте̄поадо̄кте̄поакте̄пноадо̄кте̄пно
二.赤секте̄пседо̄кте̄псекте̄панседо̄кте̄пан
二.青сокте̄посодо̄кте̄посокте̄пносодо̄кте̄пно
一複.赤бамекте̄пбандо̄кте̄пбамекте̄панбандо̄кте̄пан
一複.青бамокте̄побандо̄кте̄побамокте̄пнобандо̄кте̄пно
一単.赤икте̄пидо̄кте̄пикте̄панидо̄кте̄пан
一単.青икте̄поидо̄кте̄поикте̄пноидо̄кте̄пно
分.赤карте̄пдо̄крaте̄пкарте̄пандо̄крaте̄пан
分.青карте̄подо̄крaте̄покарте̄пнодо̄крaте̄пно

不規則活用

е̄к の活用は、 語根 √ҫ-ъ-к の G-е 型活用に由来するが、 第 1 根素の ҫ が落ちている。 また、 助動詞として用いられるときは、 第 3 根素の к と性を表す接尾辞が落ちた形も見られる。 なお、 受動態はもたない。

е̄к
現.能過.能
三.定.赤е̄ке̄кан
三.定.青е̄кое̄кно
三.不定.赤е̄ке̄кан
三.不定.青е̄кое̄кно
二.赤сӣксӣкан
二.青се̄косе̄кно
一複.赤баме̄кбаме̄кан
一複.青баме̄кобаме̄кно
一単.赤ӣкӣкан
一単.青ӣкоӣкно
分.赤ре̄кре̄кан
分.青ре̄коре̄кно
助動詞 е̄к
現.能
三.定.赤е̄
三.定.青е̄
三.不定.赤е̄
三.不定.青е̄
二.赤сӣ
二.青се̄
一複.赤бамӣ
一複.青баме̄
一単.赤ӣ
一単.青ӣ

вӣд は規則動詞だが、 助動詞として用いられるときに、 第 3 根素の д と性を表す接尾辞が落ちた形が見られる。

助動詞 вӣд
現.能
三.定.赤вӣ
三.定.青вӣ
三.不定.赤аве̄
三.不定.青аве̄
二.赤севе̄
二.青сове̄
一複.赤бамеве̄
一複.青бамове̄
一単.赤иве̄
一単.青иве̄

体言の曲用

規則曲用

体言は、 属, 定性, 性, 格に従って、 接尾辞を語幹に加えることによって活用する。

連用 (∅), 連体 (/-ва), 接続
定 (лө-), 不定 (∅)
赤性 (∅/), 青性 ()
主格 (∅), 対格 (), 与格 (), 奪格 (-ўам), 具格 (-ӟат), 処格 ()

定を表す лө- は、 語幹の前に付加される。 属, 性, 格を表す接尾辞は、 語幹の後ろに付加され、 以下の通りである。

赤.用青.用赤.体青.体赤.接青.接
-ев-ов
-ав-ав
-еҫ-оҫ-еваҫ-оваҫ
-еўам-оўам-еваўам-оваўам
-еӟат-оӟат-еваӟат-оваӟат
-ей-ой-евай-овай

参考として、 G 型での曲用パラダイムの全容と、 それを語根 √к-т-п に適用した形を列挙する。 連続軽音節を回避するために消失する母音にはストローク符号を付けた。

G 型
赤.用青.用赤.体青.体
主.不定Кө̄ТаПКө̄Та̷ПоКө̄Та̷ПевКө̄Та̷Пов
対.不定Кө̄Та̷ПаКө̄Та̷ПаКө̄Та̷ПавКө̄Та̷Пав
与.不定Кө̄Та̷ПеҫКө̄Та̷ПоҫКө̄Та̷ПеваҫКө̄Та̷Поваҫ
奪.不定Кө̄Та̷ПеўамКө̄Та̷ПоўамКө̄Та̷Пева̷ўамКө̄Та̷Пова̷ўам
具.不定Кө̄Та̷ПеӟатКө̄Та̷ПоӟатКө̄Та̷Пева̷ӟатКө̄Та̷Пова̷ӟат
処.不定Кө̄Та̷ПейКө̄Та̷ПойКө̄Та̷ПевайКө̄Та̷Повай
主.定лөКө̄ТаПлөКө̄Та̷ПолөКө̄Та̷ПевлөКө̄Та̷Пов
対.定лөКө̄Та̷ПалөКө̄Та̷ПалөКө̄Та̷ПавлөКө̄Та̷Пав
与.定лөКө̄Та̷ПеҫлөКө̄Та̷ПоҫлөКө̄Та̷ПеваҫлөКө̄Та̷Поваҫ
奪.定лөКө̄Та̷ПеўамлөКө̄Та̷ПоўамлөКө̄Та̷Пева̷ўамлөКө̄Та̷Пова̷ўам
具.定лөКө̄Та̷ПеӟатлөКө̄Та̷ПоӟатлөКө̄Та̷Пева̷ӟатлөКө̄Та̷Пова̷ӟат
処.定лөКө̄Та̷ПейлөКө̄Та̷ПойлөКө̄Та̷ПевайлөКө̄Та̷Повай
ке̄тап (√к-т-п, G-е 型)
赤.用青.用赤.体青.体
主.不定ке̄тапке̄тпоке̄тпевке̄тпов
対.不定ке̄тпаке̄тпаке̄тпавке̄тпав
与.不定ке̄тпеске̄тпоске̄тпеваске̄тповас
奪.不定ке̄тпо̄мке̄тпӯмке̄тпевамке̄тповам
具.不定ке̄тпезатке̄тпозатке̄тпевзатке̄тповзат
処.不定ке̄тпӣке̄тпе̄ке̄тпеве̄ке̄тпове̄
主.定леке̄таплеке̄тполеке̄тпевлеке̄тпов
対.定леке̄тпалеке̄тпалеке̄тпавлеке̄тпав
与.定леке̄тпеслеке̄тпослеке̄тпеваслеке̄тповас
奪.定леке̄тпо̄млеке̄тпӯмлеке̄тпевамлеке̄тповам
具.定леке̄тпезатлеке̄тпуозатлеке̄тпевзатлеке̄тповзат
処.定леке̄тпӣлеке̄тпе̄леке̄тпеве̄леке̄тпове̄

前置型曲用

体言の中には、 形容詞として使われたときに被修飾語に前置されるものがある。 そのときは、 以下のように末子音が脱落して直前の母音が長音化した形で現れる。 この曲用では、 属の区別はない。

-е̄-о̄
-е̄-о̄
-е̄-о̄
-еўе̄-оўо̄
-еӟе̄-оӟо̄
-е̄-о̄

接尾斜格人称代名詞

動詞の斜格が人称代名詞の場合、 独立人称代名詞の斜格形が使われる代わりに、 以下の接尾斜格人称代名詞が用いられることがある。

-ъе̄-ъо̄
-ше̄-шо̄
一複-баме̄-бамо̄
一単-це̄-цо̄

独立人称代名詞

三人称の ха̄е, 二人称の сашше, 一人称複数の бамме, 一人称単数の ицце がある。 бамме 以外はそれぞれ長形と短形と前置形をもち、 бамме は長形と前置形をもつ。 長形は 2 つの根素を両方保った本来の形で、 短形は第 1 根素が落ちた形である。

連用主格形と連用対格形は短形をもたず、 長形のみが用いられる。 逆に、 連体形には短形のみがあり、 長形はない。

ха̄е 「彼, 彼女, それ」
赤.用青.用赤.体青.体
長.主ха̄еха̄о
長.対ха̄аха̄а
長.与ха̄есха̄ос
長.奪ха̄о̄мха̄о̄м
長.具ха̄езатха̄озат
長.処ха̄ӣха̄е̄
短.主евов
短.対авав
短.与есосевасовас
短.奪о̄мӯмевамовам
短.具езатозатевзатовзат
短.処е̄о̄
前.主е̄о̄
前.対е̄о̄
前.与е̄о̄
前.奪о̄ӯ
前.具езе̄озо̄
前.処е̄о̄
сашше 「あなた」
赤.用青.用赤.体青.体
長.主сашшесашшо
長.対сашшасашша
長.与сашшессашшос
長.奪сашшо̄мсашшо̄м
長.具сашшезатсашшозат
長.処сашшӣсашше̄
短.主шевшов
短.対шавшав
短.与шесшосшевасшовас
短.奪шо̄мшӯмшевамшовам
短.具шезатшозатшевзатшовзат
短.処ше̄шо̄ше̄вшо̄в
前.主ше̄шо̄
前.対ше̄шо̄
前.与ше̄шо̄
前.奪шо̄шӯ
前.具шезе̄шозо̄
前.処ше̄шо̄
ицце 「私」
赤.用青.用赤.体青.体
長.主иццеиццо
長.対иццаицца
長.与иццесиццос
長.奪иццо̄миццӯм
長.具иццезатиццозат
長.処иццӣицце̄
短.主цевцов
短.対цавцав
短.与цесцосцевасцовас
短.奪цо̄мцӯмцевамцовам
短.具цезатцозатцевзатцовзат
短.処це̄цо̄це̄вцо̄в
前.主це̄цо̄
前.対це̄цо̄
前.与це̄цо̄
前.奪цо̄цӯ
前.具цезе̄цозо̄
前.処це̄цо̄
бамме 「あなた」
赤.用青.用赤.体青.体
長.主баммебаммобаммевбаммов
長.対баммабаммабаммавбаммав
長.与баммесбаммосбаммевасбаммовас
長.奪баммо̄мбаммо̄мбаммевамбаммовам
長.具баммезатбаммозатбаммевзатбаммовзат
長.処баммӣбамме̄баммеве̄баммове̄
前.主баме̄бамо̄
前.対баме̄бамо̄
前.与баме̄бамо̄
前.奪баме̄бамо̄
前.具банзе̄банзо̄
前.処баме̄бамо̄

主語の人称は動詞の活用によって示されるため、 連用主格形が使われるのは稀で、 主語の強調の目的がある場合にのみ現れる。 同様に、 目的語の人称は接尾斜格人称代名詞で示されるため、 連用対格形も使われるのは稀である。 主格と対格以外の連用形は、 前置詞の後では短形が好まれ、 単独では長形が好まれる。 また、 前置形は所有形容詞として用いられ、 修飾する名詞の直前に置かれる。

指示詞

遠称の хесо̄к, 中称の сесо̄к, 近称の исо̄к の 3 種類がある。 それぞれ長形と前置形をもつ。 長形は со̄к との合成語に由来し、 短形は前置型曲用をする。

хесо̄к 「あの」
赤.用青.用赤.体青.体
長.主хесо̄кхосо̄кохесо̄кевхосо̄ков
長.対хасо̄кахасо̄кахасо̄кавхасо̄кав
長.与хесо̄кесхосо̄кесхесо̄кевасхосо̄кевас
長.奪хесо̄ко̄мхосо̄кӯмхесо̄кевамхосо̄ковам
長.具хесо̄кезатхосо̄козатхесо̄кевзатхосо̄ковзат
長.処хесо̄кӣхосо̄ке̄хесо̄кеве̄хосо̄кове̄
前.主хе̄хо̄
前.対хе̄хо̄
前.与хе̄хо̄
前.奪хо̄хӯ
前.具хезе̄хозо̄
前.処хе̄хо̄
исо̄к 「この」
赤.用青.用赤.体青.体
長.主исо̄кисо̄коисо̄кевисо̄ков
長.対исо̄каисо̄каисо̄кависо̄кав
長.与исо̄кесисо̄косисо̄кевасисо̄ковас
長.奪исо̄ко̄мисо̄кӯмисо̄кевамисо̄ковам
長.具исо̄кезатисо̄козатисо̄кевзатисо̄ковзат
長.処исо̄кӣисо̄ке̄исо̄кеве̄исо̄кове̄
前.主ӣӣ
前.対ӣӣ
前.与ӣӣ
前.奪ӣӯ
前.具изе̄изо̄
前.処ӣӣ

長形は常に名詞として用いられる。 前置形は常に形容詞として用いられ、 修飾する名詞の直前に置かれる。

関係詞

関係詞は тев で、 通常の体言の連体形と同じ活用をする。

тев
тевтов
тавтав
тевастовас
тевамтовам
тевзаттовзат
теве̄тове̄

関係詞の性は先行詞と一致し、 格は関係節内における関係詞の役割によって決まる。

合成語

合成語は、 最後の要素以外は全て接続形になり、 最後の要素のみが属に応じて曲用する。 最初以外の要素が D1 型の場合、 語頭に付加されている а は脱落する。

合成語は、 綴りの上では、 1 つの単語と見なされて分かち書きせずに書かれる。 しかし、 発音の上では、 複数の単語が単に並んでいるものとされ、 それぞれの合成要素が個別にアクセントをもつ。 そのため、 古語からの音変化は、 各合成要素の内部でのみ起こり合成要素間では起こらない。

統語論

基本語順

節には主動詞が必ず含まれ、 その動詞は節の先頭に置かれ、 その後にその動詞に係る要素が続く。 ただし、 話題となる要素 1 つが主動詞の前に置かれ、 動詞が 2 番目の要素になることも多い。 このとき、 主動詞の前に置かれる要素は、 必ず定である。

修飾語句は被修飾語の後ろに置かれる。

相の表現

動詞は単独では相を明示せず、 進行相的な 「~している」 を意味するのか完結相的な 「~する」 を意味するのかなどは文脈によって変わる。 しかし、 〈е̄к, вӣд + 分詞〉 の形により、 それぞれ進行相と完結相を明示することができる。 この形で現れる動詞は 「助動詞」 と呼ばれる。

この形において、 時制と態を表す役割は分詞の方が担い、 助動詞は常に現在時制能動態の形をとる。 人称を表す役割は助動詞が担う。 性は助動詞と分詞の双方が一致する形で示される。 ただし、 助動詞は性を表す接尾辞 (と語幹の一部) が脱落した短い形になるのが普通なので、 結果的に性は分詞のみによって示される。

基本語彙

数詞

12 進法が用いられる。 35 までの数詞は以下のように構成される。

0~12
単純語
13~21
単純数詞 + нӣч 「次の」
22, 23
по̄ннат 「24」 + жоге̄дас, же̄дас
24
単純語
25~35
по̄ннат 「24」 + и + 単純数詞
36~
単純数詞 + цӯт (+ и + 単純数詞)

以下に主要な数詞を列挙する。 12 進法での数の表記には 「z」 を付加してある。 なお、 22 と 34 の違いおよび 23 と 35 の違いに注意せよ。

意味単語
0*
1ле̄т
2бе̄вас
3то̄сар
4зе̄макке
5ассе̄мар
6до̄ччаф
7ӈо̄чо̄е
8аххе̄ват
9дого̄ччаф
10жоге̄дассе
11же̄дассе
意味単語
12 (10z)цӯт
13 (11z)ле̄тенӣч
14 (12z)бе̄всенӣч
15 (13z)то̄сренӣч
16 (14z)зе̄маккенӣч
17 (15z)ассе̄мренӣч
18 (16z)до̄ччафенӣч
19 (17z)ӈо̄чо̄енӣч
20 (18z)аххе̄втенӣч
21 (19z)дого̄ччафенӣч
22 (1z)по̄ннатежоге̄дас
23 (1z)по̄ннатеже̄дас
意味単語
24 (20z)по̄ннат
25 (21z)по̄ннатиле̄т
26 (22z)по̄ннатибе̄вас
27 (23z)по̄ннатито̄сар
28 (24z)по̄ннатизе̄макке
29 (25z)по̄ннатиссе̄мар
30 (26z)по̄ннатиде̄ччаф
31 (27z)по̄ннатиӈо̄чо̄е
32 (28z)по̄ннатиххе̄ват
33 (29z)по̄ннатидого̄ччаф
34 (2z)по̄ннатижоге̄дассе
35 (2z)по̄ннатиже̄дассе
意味単語
36 (30z)то̄срецӯт
48 (40z)зе̄маккецӯт
60 (50z)ассе̄мрецӯт
72 (60z)до̄ччафецӯт
84 (70z)ӈо̄чо̄ецӯт
96 (80z)аххе̄втецӯт
108 (90z)дого̄ччафецӯт
120 (0z)жоге̄дассецӯт
132 (0z)же̄дассецӯт

数詞は、 形容詞としても名詞としても使われ、 名詞として使われるときは青性として扱われ青性形をとる。

サンプルテキスト

キリル文字正書法

Леце̄нте̄ са̄о̄ко лефе̄но фе̄ххата и во̄нца. Лово̄нцо е̄ко дожо̄зло и жӯаво, и асо̄ко жо̄бӈо це бо̄ӈҕе̄, и ахалле̄фо анне̄хмо лефе̄нов це рӣсӣ. Лефе̄но т’ аре̄шо. «Бо̄ асо̄к шо̄лах Асо̄к та шо̄лах. Лефе̄но ласе̄ лошо̄лха и шабе̄ке̄ ре̄ка ӣрфа. Хавво̄то та лошо̄лха ложо̄бӈӯм. Лефе̄но удде̄мо лошо̄лха а ке̄шарра и ложо̄бӈа а ле̄касса. Асо̄ко зе̄ммаво, асо̄к та се̄ххас. Е̄к ке̄шшар це̄нат.

アラビア文字正書法

لڅينطي ساووک لفين فيخّط ي ڤونڅ.‏ لڤونڅ ييک دژوزل ي ژواڤ، ي اسوک ژوبڠ څ بوڠغي، ي اخلّيف انّيخم لفينڤ څ ريسي.‏ لفين ط اريش.‏ بو اسوک شولخ.‏ اسوک ط شولخ.‏ لفين لسي لشولخ ي شبيکي ريک ييرف.‏ خڤّوط ط لشولخ لژوبڠوم.‏ لفين ودّيم لشولخ ا کيشرّ ي لژوبڠ ا ليکسّ.‏ اسوک زيمّب، اسوک ط سيخّس.‏ ييک کيشّر څينط.‏