概要
『Alice’s Adventures in Wonderland』 のシャレイア語訳の文法的な解説です。 それぞれの文に対し、 直訳に近い日本語訳とグロスを付け、 さらに簡単な解説もしてあります。
文章全体はこちらで読むことができます。
目次
第 1 段落
1-1
- a ʻalis, pôzac ebam e’n déqat a’s ca zehrisis vo fîc ica hinof, lo kavat a’s e dat dozat lesas e a’s.
- アリスは、 お姉さんの近くで堤防の上に座ることにうんざりしていた上に、 しなければならないことが何もなかった。
- a主 ʻalisアリス pôz-a-cうんざりする-現-経.常 e-bam述-とても e対 déq-a-t座る-現-継.常 a主 ’s彼女 ca与 zehrisis堤防 vo~の場所で fîc近く i-ca非動-与 hinof姉 loそして kav-a-tもつ-現-継.常 a主 ’s彼女 e対 dat何もない doz-a-tしなければならなくする-現-継.常 les-a-sする-現-無.常 e対 a主 ’s彼女
a ʻalis の部分は、 本来なら pôzac ebam の直後に置かれるはずだが、 ʻalis はこの物語の主人公なので、 一番最初に主題として強調するために文頭に倒置されている。 三人称視点の物語では、 主人公を明示するためにこのように 1 文目の文頭に置かれることが多い。
この文の主節の動詞である pôzac は現在時制になっているが、 これは 「叙述の現在時制」 と呼ばれ、 物語に特有の時制の使い方である。 シャレイア語で物語を描写するときは、 過去に起こった話として記述するというより、 物語の進行と並行して記述していくというイメージがあるので、 現在時制を使うのである。
dozat lesas の部分は doz が助動詞的用法になっている。 もともとは dozat e kin lesas という形で、 e kin の部分が省略されている。
1-2
- zesqikas a ces la tal al’atis é al’aqec e xoq lîdac e a hinof, dà dukavat a cit e qinat o lek.
- 彼女は 1 度か 2 度お姉さんの読んでいる本を覗いたが、 それには絵も会話もなかった。
- zesqik-a-s覗く-現-無.常 a主 ces彼女 la~の量で tal回 al’個の a-tis形-1 éまたは al’個の a-qec形-2 e対 xoq本 lîd-a-c読む-現-経.常 e対 a主 hinof姉 dàしかし du-kav-a-t否-もつ-現-継.常 a主 citそれ e対 qinat絵 oと lek会話
tal は 「~回」 を表す単語だが、 これは単位名詞ではないので後ろに数詞を直接置くことはできない。 したがって、 tal atis などとするのは不自然で、 tal al’atis とする必要がある。
1-3
- lo, revas a ces.
- そして、 彼女は思った。
- loそして rev-a-s思う-現-無.常 a主 ces彼女
1-4
- pa salot e pil a sokus i xoq ide qinat o lek?
- 絵も会話もない本の価値とは何なのだろうか?
- pa疑 sal-o-tである-通-継.常 e対 pil何 a主 sokus価値 i-∅非動-~の xoq本 i-de非動-~なしで qinat絵 oと lek会話
「絵も会話もない」 において 「絵」 と 「会話」 を繋ぐ接続詞には o を使う。 英語ではこのような場面では or が使われているので、 それに引きづられて é を使わないように注意。
第 2 段落
2-1
- ce, soxas a ces qi soxot — duqifat lîgifas a’s e cal, vade meberad o folnasad ebam a’s li zalnat — e’n kavat á dulat e sokos a kin hitis a’s ce dehisis a’s e lissod so qikis a’s e lîs zi met.
- そして、 彼女は頭の中で考えた――暑さが彼女をとても眠くさせぼーっとさせていたので、 それに集中することはできなかった――立ち上がってヒナギクの輪を作るためにヒナギクを拾うことに価値があるのかどうかを。
- ceそして sox-a-s考える-現-無.常 a主 ces彼女 qi~で soxot理性 du-qif-a-t否-できるようにする-現-継.常 lîgif-a-s集中する-現-無.常 a主 ’s彼女 e対 calそのこと vade~なので meber-a-d眠くなる-現-継.補 oそして folnas-a-dぼーっとする-現-継.補 e-bam述-とても a主 ’s彼女 li能 zalnat熱気 e対 kav-a-tもつ-現-継.常 du-l-a-t否-する-現-継.常 e対 sokos価値 a主 kin補 hit-i-s立つ-未-無.常 a主 ’s彼女 ceそして dehis-i-s拾う-未-無.常 a主 ’s彼女 e対 lissodヒナギク so~するために qik-i-s作る-未-無.常 a主 ’s彼女 e対 lîs輪 zi奪 metそれ
全体の文構造としては、 主節の動詞が soxas であり、 そこに a ces, qi soxot, e’n 以下という 3 つの助詞句が係っていて、 2 つ目の qi soxot と 3 つ目の e’n 以下の間に、 タデックロットで囲まれた長い節が挿入されている。 タデックロットは、 日本語や英語のダッシュに相当する記号で、 このような長めの挿入句の前後に用いられる記号である。
qi soxot は直訳すれば 「理性を使って」 だが、 これは、 口に出したり紙に文字を書いたりなどをせずに頭の中で行うことを表す慣用表現である。
挿入部の直後にある kin 節内は間接疑問表現であり、 kavat á dulat の部分が疑問表現を作っている。 この dulat は dukavat の代わりで、 kavat á dulat で 「(価値が) あるのかないのか」 という肯定か否定かの選択疑問表現になっている。 á dulos は間接諾否疑問の定型表現である。
文末にある met は lissod の代わりをしていて、 同じ単語が繰り返されるのを防いでいる。
2-2
- te cal, cákas obâl cife vilis ca fîc ica ces a hapet axac kavat a e lisaz ahafas.
- そのとき、 ピンクの目をもつ白いウサギが突然走りながら彼女の近くにやって来た。
- te~するとき calそのこと cák-a-s来る-現-無.常 o-bâl副-突然 cife~しながら vilis走ること ca与 fîc近く i-ca非動-与 ces彼女 a主 hapetウサギ a-xac形-白い kav-a-tもつ-現-継.常 a主 e対 lisaz目 a-hafas形-ピンクの
te cal における te は助詞として使われているが、 後続する名詞である cal がコトを表すものなので、 意味的には接続詞になっている。 したがって、 「cal が起こったのと同じ時間に」 という意味になる。
cife vilis における cife も同様で、 本来は接続詞としての用法しかないが、 後続する名詞が vilis というコト名詞なので、 接続詞の意味で助詞として用いられている。 この cife vilis という表現は、 cife vilisac a cit という接続詞節における vilisac a cit の部分が、 動辞の名詞用法によって vilis だけに置き換えられた形であると解釈できる。
第 3 段落
3-1
- dusalat a cal e aniszaz ebam.
- そのことはとても驚くべきことではなかった。
- du-sal-a-t否-である-現-継.常 a主 calそのこと e対 a-niszaz形-驚くべき e-bam述-とても
3-2
- revas ocavas a ʻalis e’n dusalat e atùk ebam — fedakis a’s e’n salet a cal e aduvekos te soxis a’s loke cal te càd, dà salat te cal a zel aves e analef ekoz itazi ces — a kin tufosas a hapet acik.
- さらに、 アリスはとても異常なことだとも思わなかった――後でそれについて考えたときにはそれが普通でないと気づいたが、 そのときは全てのことが彼女にとってまさに自然だった――そのウサギが呟いたことを。
- rev-a-s思う-現-無.常 o-cavas副-さらに a主 ʻalisアリス e対 du-sal-a-t否-である-現-継.常 e対 a-tùk形-異常な e-bam述-とても fedak-i-s気づく-未-無.常 a主 ’s彼女 e対 sal-e-tである-過-継.常 a主 calそのこと e対 a-du-vekos形-否-普通の te~するとき sox-i-s考える-未-無.常 a主 ’s彼女 loke~について calそのこと te~のときに càd後 dàしかし sal-a-tである-現-継.常 te~するとき calそのこと a主 zelこと a-ves形-全ての e対 a-nalef形-自然な e-koz述-まさに i-tazi非動-~にとって ces彼女 a主 kin補 tufos-a-s呟く-現-無.常 a主 hapetウサギ a-cik形-その
2 段落 1 文目と同様に、 タデックロットで囲まれた節が途中に挿入されている。 kin 節内の動詞である dusalat には、 直後にある e adùk ebam と挿入部の後の a kin 以下という 2 つの助詞句が係っている。
文の最後にある kin 節の動詞である tufosas は、 「呟く」 という意味であり、 e 句によって呟いた内容が明示されるのが普通である。 しかし、 この文では a hapet acik という 1 つの助詞句しか係っておらず、 e 句は存在しない。 このような場合、 後続する文全体が e 句として置かれているものとして解釈されることがあり、 今回はこのパターンである。
3-3
- â, pa savat e pil?
- ああ、 どうするのが良いのだろう?
- âああ pa疑 sav-a-tする方が良くする-現-継.常 e対 pilどんなこと
3-4
- melosaf a tel!
- 私は遅れている!
- melos-a-f遅れる-現-開.常 a主 tel私!
3-5
- fotaqas onás a hapet acik zi cikot i sevlat e sokiq, ce licas a cit e sokiq acik, ce fôcas vilisas ovop ofev a’t.
- そのウサギはチョッキのポケットから懐中時計を実際に取り出し、 その時計を見て、 またすぐに走り始めた。
- fotaq-a-s取り出す-現-無.常 o-nás副-実際 a主 hapetウサギ a-cik形-その zi奪 cikotポケット i-∅非動-~の sevlatチョッキ e対 sokiq懐中時計 ceそして lic-a-s見る-現-無.常 a主 citそれ e対 sokiq懐中時計 a-cik形-その ceそして fôc-a-s始める-現-無.常 vilis-a-s走る-現-無.常 o-vop副-再び o-fev副-すぐに a主 ’tそれ
3-6
- vade kebatas e ʻalis ca kin vomes licos a’s cate sot e hapet adak kômat a e sevlat o vîticas a e sokiq, cataf a ces.
- アリスは、 チョッキを着て時計を一瞥するウサギをそのときまで見たことがなかったことに気づいたので、 歩き始めた。
- vade~なので kebat-a-s気づかせる-現-無.常 e対 ʻalisアリス ca与 kin補 vom-e-s繰り返す-過-無.常 lic-o-s見る-通-無.常 a主 ’s彼女 cate~まで sot今 e対 hapetウサギ a-dak形-どんな~もない kôm-a-t着る-現-継.常 a主 e対 sevlatチョッキ oそして vîtic-a-s一瞥する-現-無.常 a主 e対 sokiq懐中時計 cat-a-f歩く-現-開.常 a主 ces彼女
kebatas に係る kin 節句では、 vomes licos という反復表現が用いられている。 ここを反復表現にしなくとも 「見たことがない」 という意味にはなるが、 あえて反復表現にすることで、 「見ないということを何度も繰り返した」 という意味を出し、 一度も見たことがないというニュアンスを強めている。
sot は通常 「今」 の意味だが、 より正確にはその節で現在時制が表す時間を意味するので、 この場合は 「気づいた」 が行われた時間を指すことになる。 日本語では 「そのとき」 とするのが適切だろう。
hapet adak には、 kômat a e sevlat と vîticas a e sokiq という 2 つの限定節が修飾していることに注意。
3-7
- fa delizac a ces zi caxel, dilsizas a’s e nalvaf so zizetis a’s ca cit.
- 彼女は好奇心に従って、 それを追うために野原を横切った。
- fa~しながら deliz-a-c従う-現-経.常 a主 ces彼女 zi奪 caxel好奇心 dilsiz-a-s横切る-現-無.常 a主 ’s彼女 e対 nalvaf野原 so~するために zizet-i-s追う-未-無.常 a主 ’s彼女 ca与 citそれ
3-8
- onistecaf, qifat licas a ces e’n kûvas a cit ca filotsodvaf avâc i hapet ivo fîcdem izi nátalkìd.
- 幸運にも、 彼女は生け垣の下の大きなウサギの巣穴にそれが入るのを見ることができた。
- o-nistecaf副-幸運にも qif-a-tできるようにする-現-継.常 lic-a-s見る-現-無.常 a主 ces彼女 e対 kûv-a-s入る-現-無.常 a主 citそれ ca与 filotsodvaf巣穴 a-vâc形-広い i-∅非動-~の hapetウサギ i-vo非動-~の場所の fîcdem下 i-zi非動-奪 nátalkìd生け垣
第 4 段落
4-1
- te tesil acál, fodlisas a ʻalis ca filot acik, fa vomac soxos odum a ces e kin fovalis qi pil a’s zi cêd.
- 次の瞬間、 彼女はどうやってそこから出るのか全く考えずに、 アリスは穴に飛び込んだ。
- te~のときに tesil瞬間 a-cál形-次の fodlis-a-s飛び込む-現-無.常 a主 ʻalisアリス ca与 filot穴 a-cik形-その fa~しながら vom-e-s繰り返す-過-無.常 sox-o-s考える-通-無.常 o-dum副-全く~しない a主 ces彼女 e対 kin補 foval-i-s出る-未-無.常 qi~することで pilどんなこと a主 ’s彼女 zi奪 cêdそこ