否定形による否定表現

#SKF.名詞以外

動詞か形容詞か副詞のいずれかとして使われている不定辞の否定形は、 「~ではない」 という否定の意味になる。

duyisat a tel e loc.
私はあなたが好きではない。
dôkes a tel te tazîk e likok aduhap.
私は昨日安くないコップを割った。
kétes a ces e qixov odukosiz.
彼女はパソコンを丁寧でなく置いた。

1duyisat, 2aduhap, 3odukosiz が否定形で、 それぞれ 「好きではない」, 「安くない」, 「丁寧でなく」 という否定の意味をもつ。

#SKV.名詞型不定辞由来の名詞

名詞として使われている名詞型不定辞の否定形は、 「~以外のもの」 という意味になり、 さらに 「そうであるという前提があったときにそこに反論する」 というニュアンスが加わる。

qetet te tazît vo sokul afik a duces.
昨日この部屋にいたのは彼女ではない。

1 は例えば、 その場にいる人に 「昨日この部屋にいたのは彼女だ」 と思われている状況で、 それに反論するときなどに見られる。 そもそも 「昨日この部屋にいたのは彼女だ」 と思われてはいない状況で、 単に彼女以外の人が部屋にいたことに言及したいだけであれば、 否定形である duces が使われるのは稀である。

前提に対する反論というニュアンスを特別出したくない場合には、 zis aqôc ile Szat iqo S などの形が代わりに用いられる。

固有名詞は否定形をもたないので、 「~以外のもの」 を表現するためには、 代わりに zis aqôc ile Szat iqo S などの形が用いられる。

#SKP.動詞型不定辞由来の名詞

名詞として使われている動詞型不定辞の否定形は、 常に 「~しないこと」 の意味になる。 名詞型不定辞の場合とは違い、 「~すること以外のこと」 の意味にはならないことに注意せよ。 すなわち、 動詞型不定辞の名詞用法の否定形は、 否定された動詞の意味を名詞化したものであり、 動詞を名詞化したものの否定ではない。 例えば、 duvilis は常に 「走らないこと」 を意味し、 「走ること以外のこと」 を意味することはない。

動詞型不定辞の名詞用法を用いて 「~すること以外のこと」 を表現するためには、 zel iqo S などの形が用いられる。

部分否定と全部否定

#SKT.否定形による部分否定

否定形は、 否定形になっているその単語の意味のみを否定する。 したがって、 「全て」 の意味合いを含む表現が動詞の否定形とともに用いられると、 全部否定の意味になる。

ducákis a ces ca fêd okôk.
彼は必ずここに来ない。

に含まれている ducákiscákis の意味だけを否定するため、 ducákis で 「来ない」 という意味の表現になる。 その 「来ない」 に 「必ず」 の意味の okôk が係っているため、 全体で 「必ず来ない」 もしくは 「来るということは絶対に起こらない」 という全部否定の意味になる。

一方、 「全て」 の意味合いを含む単語自体が否定形にされた場合は、 部分否定の意味になる。

cákis a ces ca fêd odukôk.
彼が必ずここに来るとは限らない。

2 の場合、 odukôkokôk の意味だけを否定し、 odukôk で 「必ずではない」 すなわち 「そうでない可能性があって」 という意味の表現を作る。 これが cákis という 「来る」 の意味の単語を修飾しているため、 全体で 「そうでない可能性があって来る」 つまり 「必ず来るとは限らない」 の意味になる。

このようにして部分否定の文を作る単語には、 以下のようなものがある。

単語意味
aduves全て~するとは限らない
odukôk必ずしも~するとは限らない
oduvákいつも~するとは限らない
oduvop再び~するとは限らない

#SKD.dil による部分否定

dil は動詞として使われて e 句の補語を否定する役割をもつ。 したがって、 dilos e kin の後に節が続けられると、 その節全体が否定される。 dil のこの性質を用いて部分否定の文が作られることがある。

dilis cákas a ces ca fêd okôk.
彼が必ずここに来るとは限らない。

1 では、 (助動詞的用法によって kin が省略された) kin 節の 「必ずここに来る」 という内容全体が否定され、 「必ずここに来るとは限らない」 という部分否定の意味を作っている。

なお、 dil は助動詞的用法をとることがほとんどである。 助動詞的用法については #SFK を参照せよ。

否定相当語

否定形でなくても否定の意味になる語がいくつかある。 そのような語を 「否定相当語 (negative word)」 という。 例えば、 dus は肯定形で 「0 人の人が~する」 すなわち 「誰も~しない」 という意味をもつ。

keqit a dus e sod afik.
誰もこの家に住まないだろう。

否定相当語には以下のようなものがある。 それぞれ使われる文法的品詞に制約が見られるので、 それも併記する。

意味品詞
dus誰も~しない名詞
dat何も~しない名詞
dolどんなことも~しない名詞
dûdどこも~しない名詞
dakどんな~も~しない形容詞
dûg決して~しない副詞
dum全く~しない副詞

なお、 上記の表の初めの 5 語は代辞の一種である。 代辞については #SBI を参照せよ。

二重否定

否定相当語と否定形が同時に用いられると、 常に強い肯定を表す。 すなわち、 二重否定は否定の強調ではなく肯定の意味になる。

dusalat a dol e asokes.
何も重要でないということはない。

1 では、 「0 個のことが重要でない」 ということから 「全て重要である」 という意味になっている。 また、 二重否定が使われていない salat a zel aves e asokes などの表現よりも、 この文の方が強く 「全てが重要である」 ということを主張する。