人称代詞

人称を明示する代詞は 「人称代詞 (personal proform)」 と呼ばれ、 以下の通りである。

三人称二人称一人称複数一人称単数
長形хе̂е, хо̂ете̂шшебе̂ммеи̂цце
短形ехшехбамехцех
前置形ѐшѐбамѐцѐ

人称代詞は、 各人称に対して長形と短形と前置形という 3 つの形態をもつ。 また、 三人称代詞の長形に限り、 さらに 2 種類の形態をもつ。 形態に応じて用法が異なり、 その使い分けについては #TTY で詳しく述べる。

なお、 長形の人称代詞は、 短形や前置形と異なり独立したアクセントをもつため、 「独立人称代詞 (independent personal proform)」 と呼ばれることがある。

人称代詞の種類別用法

#TTU.三人称

三人称代詞は、 送り手と受け手を除くあらゆるものを指す。 三人称代詞自身の類は、 それが指す対象の類に一致する。

三人称代詞の長形には хе̂ехо̂е という 2 種類の形があり、 хе̂е は人を表し хо̂е は人以外を表す。

#TDS.二人称, 一人称単数

二人称代詞は受け手を指し、 一人称単数代詞は送り手を指す。 ともに代詞自身の類は、 それが指す受け手もしくは送り手の類に一致する。

#TDZ.一人称複数

一人称複数代詞は、 送り手を含む複数のものを指す。 包括と除外の区別はなく、 一人称複数代詞が受け手を含んでいることも含んでいないこともあり、 どちらであるかは文脈で判断される。 代詞自身の類は、 常に送り手の類に一致する。 そのため例えば、 送り手が青類であれば、 それ以外に赤類の人が何人いようとも、 その全体を表す一人称複数代詞は青類形になる。

人称代詞の形態別用法

#TTA.長形

人称代詞の長形は、 常に名詞として用いられ、 短形が用いられる場所以外で現れる。 具体的には、 人称代詞が動詞等の目的語ではない場合や、 人称代詞が被修飾語の直後にはない場合などに、 長形が用いられる。

Не̂с зе̂хан те̂шшу̀т лесри̂сес?
誰があなたと一緒に川へ行ったのですか?
Бо̀ сесеххо̂з ро хе̂е.
彼がいるところで待っていてください。

12 では、 それぞれ 「あなたと (一緒に)」 と 「彼のところで」 が動詞の目的語とは言えないので、 ともに動詞の直後ではあるが長形が用いられている。 特に、 動詞の目的語が前置詞を伴うことは稀なので、 前置詞の直後では 2 のように基本的に長形が用いられる。

人称代詞の短形には主格形が存在しないので、 主格では常に長形が用いられる。 ただし、 動詞の主語の人称は活用から分かるため、 人称代詞の主格形が明示的に使われることは少なく、 強調や対比の目的があるときにのみ使われる。

Те̂шше бо̀ тезе̂х лодду̂алос, и и̂цце г’ ажжо̂ч.
あなたが学校に行ってください、 私は行きません。

4 では、 「あなた」 と 「私」 が対比されており、 それを特に示すために те̂шшеи̂цце がともに長形で使われている。

人称代詞の主格以外の長形も、 動詞の直後で目的語を示す場合であっても、 強調の目的があれば短形の代わりに用いられることがある。

人称代詞の長形は、 返答などで人称代詞のみを述べるときにも使われる。

Не̂со е̂ко ʻлефе̂хто? / И̂ццо.
誰がフィーフトですか? / 私です。

#TTH.短形

人称代詞の短形は、 常に名詞として用いられ、 動詞の直後でその目的語を示す。 動詞の目的語が人称代詞である場合は、 それが動詞の直後で示されるのが普通であり、 このときに短形が用いられるのである。 しかし、 動詞の直後以外の場所で人称代詞の目的語が示される場合は、 短形ではなく長形が用いられることに注意せよ。

Бо̂ тесое̂г ех шѐ лехо̂кес.
それをあなたの親に渡してください。
Ичаҕҕо̂с ос лефе̂ннѐлу̂рашша.
私が彼にフェンナ語を教えます。
Су̂ган ех шес.
彼女はそれを私にくれた。

1 では ех が動詞の直後に置かれて直接目的語を表しており、 2 では ос が間接目的語を表している。 3 は複数の人称代詞が同時に使われている例で、 ехшес が動詞の直後に並べられている。

#TTE.前置形

人称代詞の前置形は、 常に形容詞として用いられ、 他の名詞に前置されて所有を表す。 このときの人称代詞の前置形の類は、 被修飾語と一致する。 人称代詞自身が表すものの類と一致するわけではないことに注意せよ。

И̂с но̀к е̂к тѐ де̂сак?
これはあなたのペンですか?

では、 тѐ が赤類形になっているが、 これは被修飾語の де̂сак が赤類名詞であるためである。 тѐ 自身が指す 「あなた」 が赤類であるとは限らない。