日記 (H4735)

現状、 深層形から表層形への変換の際、 子音の直後に現れる弱子音は痕跡を残さずに単に消滅します。 これを変えて、 直前の子音を重子音に変えることにしようかなと考えています。

というのも、 もともとはそこに 2 個子音があって子音 2 個分の発音時間がかかっていたわけなので、 それが弱子音の消失によって子音 1 個分に減るのはちょっと変かなと感じたためです。 代償延長するなり別の子音になるなりして、 音の長さは変わらないような形になっている方が自然な気がします。 また、 弱子音が単に消失することにより、 深層形では許されていない語中の軽音節連続が表層系では出てくることがあります。 例えば、 √к-й-п に由来する用言 кайефе̄п の三人称不定形は ъака̷йефе̄пакефе̄п となり、 аке という軽音節連続が現れます。 これも避けられたらちょっとうれしいかなと思いました。

ということで、 子音の直後の弱子音も消失の際に何らかの変化を引き起こすようにしたいと考えたわけですが、 直前の子音の重子音化が一番良いかなという結論に達しました。 こうすると、 上の例の ъака̷йефе̄паккефе̄п となり、 軽音節連続は出てきません。

この変更を採用したとすると、 目に見える一番の (表層形での) 語形への影響は、 末弱語根の G 型体言でしょう。 この語型では、 赤類主格以外で第 2 根素と第 3 根素が隣接するので、 赤類主格以外の全ての形で今述べた変更の影響を被ります。 また、 これは弱語根に限りませんが、 連体具格で -ва̷ўат-вват のように в も重子音化します。 曲用表は次のようになります。

ке̄те̄ (√к-т-й, G-е 型)
赤.用青.用赤.体青.体
主.不定ке̄те̄ке̄ттоке̄ттевке̄ттов
対.不定ке̄ттаке̄ттаке̄ттавке̄ттав
与.不定ке̄ттеске̄ттоске̄ттеваске̄ттовас
奪.不定ке̄ттезамке̄ттозамке̄ттевзамке̄ттовзам
具.不定ке̄тто̄тке̄ттӯтке̄ттевватке̄ттовват
処.不定ке̄ттӣке̄тте̄ке̄ттеве̄ке̄ттове̄
主.定леке̄те̄леке̄ттолеке̄ттевлеке̄ттов
対.定леке̄тталеке̄тталеке̄ттавлеке̄ттав
与.定леке̄ттеслеке̄ттослеке̄ттеваслеке̄ттовас
奪.定леке̄ттезамлеке̄ттозамлеке̄ттевзамлеке̄ттовзам
具.定леке̄тто̄тлеке̄ттӯтлеке̄ттевватлеке̄ттовват
処.定леке̄ттӣлеке̄тте̄леке̄ттеве̄леке̄ттове̄

結果的に、 赤類主格以外では √к-ъ-т の D3 型体言と同形になります。 ただ、 (弱子音の種類が違うだけのものは除いて) 由来の異なる単語と同形になるのは別に今に始まった問題ではなく、 現行の規則でも今度は √к-ъ-т の G 型体言と同形になっているので、 まあ弱語根である以上仕方ないところです。 むしろ一番頻度の高い G 型同士で同形にならなくなるので、 こっちの方が良いかもしれません。

もう 1 つ影響が大きいのが、 間弱語根の G 型用言です。 活用接頭辞が付くと第 1 根素と第 2 根素が隣接するので、 このときに影響が出ます。

кӣп (√к-й-п, G-е 型)
現.能現.受過.能過.受
三.定.赤кӣпдо̄кке̄пкӣпандо̄кке̄пан
三.定.青кӣподо̄кке̄покӣпнодо̄кке̄пно
三.不定.赤акке̄падо̄кке̄пакке̄панадо̄кке̄пан
三.不定.青акке̄поадо̄кке̄поакке̄пноадо̄кке̄пно
二.赤секке̄пседо̄кке̄псекке̄панседо̄кке̄пан
二.青сокке̄посодо̄кке̄посокке̄пносодо̄кке̄пно
一複.赤бамекке̄пбандо̄кке̄пбамекке̄панбандо̄кке̄пан
一複.青бамокке̄побандо̄кке̄побамокке̄пнобандо̄кке̄пно
一単.赤икке̄пидо̄кке̄пикке̄панидо̄кке̄пан
一単.青икке̄поидо̄кке̄поикке̄пноидо̄кке̄пно
分.赤кӣрапдо̄кке̄рапкӣрпандо̄кке̄рпан
分.青кӣрподо̄кке̄рпокӣрпанодо̄кке̄рпано

活用接頭辞が付く形で √к-ъ-п の D1 型用言と同形になります。 ただこれは、 現行の規則では同形になる別タイプが存在しません。 したがって、 弱子音の規則を変えることで、 新たに同形になるパターンが増えることになります。

他にも細々とした影響はあります。 例えば、 D2 型体言の具格では ке̄ттапа̷ўатке̄ттапат だったのが ке̄ттаппат になったり、 頭弱語根の D2 型用言の一人称複数で баме̷йатте̄пбаматте̄пбамматте̄п になったり、 他にもいろいろあったりします。

問題点を上げるのであれば、 弱子音が絡んだときの語形変化に見た目上の不規則性が増えすぎるところかなと思っています。 この辺りのバランスを取るのは、 フェンナ語を作り始めた頃からずっと主要な課題ですね。

追記 (H4739)

この案にはちょっと微妙な点がありました。 -каъе̄--ке̄- に変換され -къе̄--кке̄- に変換されることになるので、 深層形では短い語形の方が表層形では長くなるという現象が起きてしまいます。 この対比は、 каъе̄п 型用言 (間弱語根の用言 G 型) の活用や ҫеъе̄тап 型体言 (頭弱語根の体言 G 型語型接辞) の曲用で出てくるので、 まあまあ目立ちます。