日記 (2020 年 4 月 16 日)
4 月 15 日の続き。
前回は、 アローの形式化として型システム
Freyd 圏を定義する準備として、 まずはバイノイダル圏と前モノイダル圏を定義する。
これらは通常のモノイダル圏の定義を弱めたもので、 Power–Robinson†1 によってプログラミング言語の表示的意味論を記述するために導入されたものである。
ここでは、 カルテシアン閉圏
カルテシアン閉圏
バイノイダル圏
モノイダル圏とバイノイダル圏との違いについて述べておこう。
ここでは、 簡単のため
これは、 プログラミング言語の次のような特徴を反映したものであると解釈できる。
計算に副作用を許す場合、 2 つの計算
別の計算との実行順序を変えても全体の計算が変わらないような計算には、 特別な名前が付いている。
カルテシアン閉圏
これだけでは少し分かりづらいので、
カルテシアン閉圏
の対象 が定まっている。⊤ - 各対象
に対して、 中心的な 4 種類のA , B , C の射 が定まっており、 これらがそれぞれ同型なα A B C : 1 → [ ( A ⋈ B ) ⋈ C , A ⋈ ( B ⋈ C ) ] λ A : 1 → [ A , ⊤ ⋈ A ] ρ A : 1 → [ A , A ⋈ ⊤ ] σ A B : 1 → [ A ⋈ B , B ⋈ A ] -豊穣自然変換を定める。
という構造が定まっており、 モノイダル圏と同様の一貫性条件 (五角形図式と三角形図式に対応するもの) を満たすとする。
このとき、
対称前モノイダル関手は、 対称前モノイダル圏の構造を全て保つ関手である。 Freyd 圏を考える上では、 全ての構造を (同型ではなく) 等号として保つ場合のみを考えれば十分なので、 その場合のみの定義を述べる。
カルテシアン閉圏
が等号として成り立つ。J ⊤ = ⊤ は対称前モノイダル圏に定まる 2 種類の演算を等号として保つ。 すなわち、 任意のJ の対象 に対して、A , B が成り立ち、 さらに任意のJ ( A ⋈ B ) = J A ⋈ J B の対象 に対して、 図式A , B がともに可換である。[ A , A ] [ J A , J A ] [ A ⋈ B , A ⋈ B ] [ J A ⋈ J B , J A ⋈ J B ] J A A J A ⋈ B , A ⋈ B ( - ⋉ B ) A A ( - ⋉ J B ) J A , J A [ B , B ] [ J B , J B ] [ A ⋈ B , A ⋈ B ] [ J A ⋈ J B , J A ⋈ J B ] J B B J A ⋈ B , A ⋈ B ( A ⋊ - ) B B ( J A ⋊ - ) J B , J B は対称前モノイダル圏に定まる 4 種類の構造射を等号として保つ。 例えばJ については、 任意のλ の対象 に対して、 図式A は可換である。 それ以外の種類の構造射についても同様の可換図式が成り立つ。⊤ [ ⊤ , ⊤ ⋈ A ] [ ⊤ , ⊤ ⋈ J A ] λ A λ J A J ⊤ , ⊤ ⋈ A
が全て成り立つとき、
さて、 カルテシアン閉圏
カルテシアン閉圏
は対象上恒等写像である。 すなわち、J と の対象は同一であり、 任意の の対象 に対して、A が等号として成り立つ。J A = A の射の像は全ての中心的である。 すなわち、 任意のJ の対象 に対して、A , A の射 は中心的である。J A A : A ⇀ A → [ A , A ]
を満たすとする。
このとき、
Freyd 圏の気持ちを軽く述べておこう。
Freyd 圏を構成する 2 つの圏のうち、
次回はいよいよ Freyd 圏を用いたアローの解釈を行う。
参考文献
- J. Power, E. Robinson (1997) 「Premonoidal categories and notions of computation」 『Mathematical Structures in Computer Science』 7:453–468
- J. Power, H. Thielecke (1997) 「Environments, continuation semantics and indexed categories」 『Theoretical Aspects of Computer Software』 391–414