日記 (2019 年 8 月 2 日)
前回は、 景 (,J) に対して、 前層から層を作る関手 a:PSh()→ShJ() を定義した。
今回は、 これが包含関手 i:ShJ()↪PSh() の左随伴になっていることを示す。
定義 3.1.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set と対象 C に対し、 射 ηPC:PC→P+C を、 合成
PCHom(yC,P)Hom(⊤C,P)colimSHom(S,P)P+CyPCi⊤C
として定める。
ここで、 yPC は Yoneda の定理による同型射で、 i⊤C は余極限に定まる構造射の 1 つである。
これが定める自然変換を ηP:P→P+ とする。
層化関手の随伴性の証明に直接は関係してこないが、 ηP が単射もしくは同型射かどうかは P が分離前層になるか層になるかに密接に関わるので、 ここで証明しておく。
命題 3.2.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set に対し、 P が分離前層であることと ηP:P→P+ が単射であることは同値である。
証明.
ηP:P→P+ が単射であるとは、 任意の対象 C に対して ηPC:PC→P+C が単射であるということである。
ここで、 各対象 C に対し、 定義から ηPC=i⊤C∘yPC であって yPC は同型射だから、 ηPC が単射であることと i⊤C が単射であることは同値である。
したがって、 P が分離前層であることと、 任意の対象 C に対して i⊤C:Hom(⊤C,P)→P+C が単射であることが同値になることを示す。
P が分離前層であると仮定する。
任意の対象 C をとり、 射 a,a:⊤C→P が i⊤Ca=i⊤Ca を満たすとする。
これは、 P+C を定める同値関係において a,a が同値であるということなので、 ある被覆篩 S∈JC が存在して a∘S=a∘S が成り立つ。
仮定から P は分離前層なので -∘S は単射であるから、 これより a=a を得る。
以上で、 i⊤C は単射である。
逆に、 任意の対象 C に対して i⊤C が単射であると仮定する。
任意の被覆篩 S∈JC に対し、
Hom(⊤C,P)P+CHom(S,P)i⊤C-∘SiS
は可換であるが、 仮定から i⊤C は単射なので -∘S も単射である。
よって、 P は分離前層である。
命題 3.3.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set に対し、 P が層であることと ηP:P→P+ が同型射であることは同値である。
証明.
命題 3.2 のときと同様に、 P が層であることと、 任意の対象 C に対して i⊤C:Hom(⊤C,P)→P+C が全単射であることが同値になることを示す。
P が層であると仮定する。
任意の対象 C をとる。
元 α∈P+C をとり、 これがある被覆篩 S∈JC に対して a:S→P で代表されるとすると、 α=iSa である。
仮定から P は層なので -∘S は全単射であるから、 ある a:⊤C→P が存在して a=a∘S が成り立つ。
したがって α=iS(a∘S)=i⊤Ca であるから、 i⊤C が全射であることが示された。
命題 3.2 によって i⊤C はすでに単射なので、 i⊤C は全単射である。
逆に、 任意の対象 C に対して i⊤C が全単射であると仮定する。
任意に被覆篩 S∈JC をとり、 さらに射 a:S→P をとる。
仮定から i⊤C が全単射なので、 ある a:⊤C→P が存在して iSa=i⊤Ca が成り立つ。
これは、 P+C において a,a が同値であるということなので、 ある被覆篩 T∈JC が存在し、 T⊆S であって、
STP⊤Caa
が可換である。
ここで、 任意の射 f∈S:D→C に対し、 図式
f∗TyDSPTyDyD⊤CPyCf∘-f∘-af∘-f∘-a
を考えると、 左の四角形は f∗T の定義によって可換であり、 上下の三角形は明らかに可換で、 折れ曲がった長方形は上の図式と同じものなので可換である。
したがって、 横に長い長方形も可換である。
ここで、 命題 3.2 によって P が分離前層であることは分かっているので、 写像
-∘f∗T:Hom(yD,P)→Hom(f∗T,P)
は単射である。
この事実と上の図式の可換性を踏まえると、
SyDP⊤Cf∘-f∘-aa
が可換であることが分かる。
この図式において idD の行き先を見ることで、 aDf=aDf が得られる。
f は S に属する任意の射であったから、 これによって a=a∘S が得られ、 -∘S が全射であることが示された。
命題 3.2 によって -∘S はすでに単射なので、 -∘S は全単射となり、 P は層である。
前層 P に対して定義した射 ηP:P→P+ は、 層への射に関して普遍性をもつ。
これが随伴性の鍵となる。
命題 3.4.
景 (,J) をとる。
前層 P:∘→Set と層 F:∘→Set に対し、 任意の自然変換 φ:P→F は、
PP+FηPφφ
を可換にする自然変換 φ によって、 ηP を通して一意的に分解される。
証明.
任意の対象 C とそれ上の被覆篩 S∈JC をとる。
F は層であるから、 包含射による写像
-∘S:Hom(yC,F)→Hom(S,F)
は全単射であり、 したがって逆写像をもつ。
これを用いて、 合成
Hom(S,P)Hom(S,F)Hom(yC,F)FCφ∘-(-∘S)−1yFC−1
を考えると、 これらは関手 Hom(-,P):JC∘→Set の余錐となる。
したがって、 この余極限である P+C からの一意的な射 φC:P+C→FC が存在する。
これは C に関して自然なので、 自然変換 φ:P+→F が得られる。
さて、 定義によって、 各対象 C に対し、
Hom(S,P)P+CHom(S,F)Hom(yC,F)FCφ∘-iSφC(-∘S)−1yFC−1
は可換である。
ここで特に S=⊤C とおけば、 図式
PCHom(⊤C,P)P+CFCHom(yC,F)FCyPCφCi⊤Cφ∘-φCyFCyFC−1
の右側の四角形の可換性が得られるが、 この左側の四角形も明らかに可換なので、 全体も可換である。
これはすなわち、 ここで構成した φ:P+→C が命題の主張の図式を可換にしていることを意味する。
φ の一意性は、 余極限が誘導する射の一意性から従う。
定理 3.5.
景 (,J) をとる。
関手の随伴
PSh()ShJ()ShJ()ai⊣
が成立する。
すなわち、 ShJ() は PSh() の反射的部分圏である。
証明.
前層 P:∘→Set に対し、 合成
PP+P++ηPηP+
を ηP とおく。
命題 3.4 を 2 回使うことで、 任意の層 F:∘→Set への自然変換 φ:P→F は、
PaPFηPφφ
を可換にする自然変換 φ によって、 ηP を通して一意的に分解される。
これは、 定理の主張にある随伴が、 η を単位として成立することを意味する。
以上で、 層化関手をプラス構成を経由して定義し、 それが包含関手の左随伴になっていることを証明した。
MacLane–Moerdijk†? ではこれを行うのに適合族やその融合を陽に扱っていたが、 この日記では試しにそれを避けてみた。
本当なら、 プラス構成で用いた余極限の具体的な表示を使わずに、 全て射だけの言葉で証明したかったが、 あまりうまくいかず、 中途半端な感じになってしまった。
この辺りの議論はもうちょっとシンプルにやりたい。
次回は、 層の圏 ShJ() の極限と余極限について触れる。
参考文献
- S. MacLane, I. Moerdijk (1992) 『Sheaves in Geometry and Logic』 Springer