日記 (2018 年 10 月 28 日)
圏論の概念にエンドとコエンドというのがあり、 これらが極限や余極限を計算するのに非常に便利な道具であるというのは聞いていたのだが、 ちゃんと勉強したことがなかったので少しずつまとめていこうと思う。
まず、 エンドとコエンドを定義するのに必要な概念を準備しよう。
定義 1.
関手 F,G:∘×→ をとる。
の対象 C に対して の射 αC:F(C,C)→G(C,C) が定まっており、 任意の の射 f:C→C に対し、
F(C,C)F(C,C)G(C,C)F(C,C)G(C,C)G(C,C)F(f,id)F(id,f)αCG(id,g)αCG(f,id)
が可換であるとする。
このとき、 α を双自然変換 (dinatural transformation) といい、 α:F⇒G で表す。
定義 2.
関手 F:∘×→ をとる。
の対象 D に対して α:ΔD⇒F の形の双自然変換を、 D における F の楔 (wedge) といい、 α:D→F で表す。
ここで、 ΔD は D に値をもつ定値関手である。
つまり、 D における F の楔とは、 の各対象 C に対する の射 αC:D→P(C,C) の族で、 任意の の射 f:C→C に対し、
DF(C,C)F(C,C)F(C,C)αCαCF(id,f)F(f,id)
が可換であるようなものである。
さて、 これから考えていくエンドとは、 普遍的な楔のことである。
定義 3.
関手 F:∘×→ をとる。
F のある楔 α:D→F が以下の条件を満たすとする。
すなわち、 任意の F の楔 α:D→F に対し、 の射 h:D→D が唯一存在し、 任意の の対象 C について、
DDF(C,C)αCαCh
は可換である。
このとき、 D を F のエンド (end) といい、
D=:C∈F(C,C)
と表す。
コエンドはエンドの双対概念である。
定義はほぼ明白だろうが、 一応述べておこう。
定義 4.
関手 F:∘×→ をとる。
の対象 D に対して α:F⇒ΔD の形の双自然変換を、 D における F の余楔 (cowedge) といい、 α:F→D で表す。
定義 5.
関手 F:∘×→ をとる。
F のある余楔 α:F→D が以下の条件を満たすとする。
すなわち、 任意の F の楔 α:F→D に対し、 の射 h:D→D が唯一存在し、 任意の の対象 C について、
F(C,C)DDαCαCh
は可換である。
このとき、 D を F のコエンド (coend) といい、
D=:C∈F(C,C)
と表す。
以上がエンドとコエンドの最も初等的な定義だが、 これらはそれぞれある図式上の極限と余極限として特徴付けることもできる。
その方法にもいくつかあるのだが、 ここでは捻れた射の圏を用いたものを挙げておく。
定義 6.
圏 に対し、 圏 Tw() を
- Tw() の対象は、 の射とする。
- Tw() の 2 つの対象 f:C→C,g:D→D の間の射は、 の射 h:D→C,k:C→D の組であって、
CDCDfhgk
が可換であるようなものとする。
によって定める。
この圏を の捻れた射の圏 (twisted arrow category) という。
簡単に言ってしまえば、 ここで定義した Tw() は、 関手 Hom:∘×→Set の要素圏 El(Hom) のことである。
命題 7.
関手 F:∘×→ をとる。
関手 F を
F: Tw() ⟶ f ⟼ F(domf,codf)
で定めると、 F のエンドが存在することと F の極限が存在することは同値であり、 これらが存在するならば、
C∈F(C,C)≅limf∈Tw()Ff
が成り立つ。
証明.
F の楔と F の錐がちょうど対応することから従う。
この命題により、 エンドは通常の極限の一種であることが分かったので、 圏論の一般論により、 エンドと極限は交換する。
また、 エンドは極限を保つ関手によって保たれる。
したがって、 特に以下が成り立つ。
命題 8.
関手 F:∘×→ をとる。
任意の の対象 D に対し、 式中の左辺のエンドやコエンドが存在するならば、
Hom(D,C∈F(C,C)( ≅ C∈Hom(D,F(C,C)) Hom(C∈F(C,C),D( ≅ C∈Hom(F(C,C),D)
が成り立つ。
さらに、 この同型は D に関して自然である。
エンドを用いた計算で最も重要になるのが、 以下の公式である。
定理 9.
関手 F,G:→ に対し、
Nat(F,G)≅C∈Hom(FC,GC)
が成り立つ。
証明.
エンドの定義に戻って普遍性を確認することで、 容易に示すことができる。
さて、 この式は要するに、 の各対象 C に対する の射 f:FC→GC たちを集めていけば、 自然変換 γ:F⇒G が得られるということである。
エンドの記号として積分記号を用いるのが、 このことから頷けるだろう。
命題 8 と定理 9 を用いることで、 いろいろな圏論上の概念がエンドやコエンドで表すことができるようになる。
次回はそれについて触れていきたいと思う。
参考文献
- F. Loregian (2015) 『This is the (co)end, my only (co)friend』 arXiv:1501.02503