日記 (2018 年 9 月 4 日)
前回は、 通常の圏と同様の形式の極限として、 2-圏の錐状極限について触れた。
そこでは、 2-極限における重みとして 1 への定値関手を用いた。
今度は、 2-極限を考える関手の定義域となる圏が 1 である場合を考えてみよう。
ここで 1 は、 対象として ⋆ のみをもち、 1-射と 2-射として恒等射のみをもつとすれば、 2-圏になることに注意してほしい。
2-圏 に対して、 2-関手 F:1→ を考える。
普通の関手と同様に、 F は ⋆ の像だけで定まるので、 ある の対象 F と同一視できる。
同様に、 2-関手 W:1→Cat もある圏 W と同一視できる。
この F と W によって定まる極限は、 以下に定義するように余テンソル対象と呼ばれる。
定義 6.1.
2-圏 に対し、 2-関手 F:1→,W:1→Cat があるとする。
上記の通り F と W を定めたとき、 limWF を F と W の余テンソル対象 (cotensor object) といい、 W⋔F で表す。
余極限の場合も同様である。
このとき、 重みとして W:1→Cat の代わりに W:1op→Cat を考える必要があるが、 1 と 1op は全く同じ 2-圏なので、 この違いを意識する必要はない。
定義 6.2.
2-圏 に対し、 2-関手 F:1→,W:1→Cat があるとする。
上記の通り F と W を定めたとき、 colimWF を F と W のテンソル対象 (tensor object) といい、 W⊙F で表す。
極限で定義される方が余テンソル対象で、 余極限で定義される方がテンソル対象である。
非常にややこしいが、 おそらく歴史的事情なので諦めよう。
なお、 余テンソル対象を冪対象といい、 テンソル対象を余冪対象という流儀もある。
こちらの用語が余計な混乱を招かなくて良いのだが、 積の右随伴として定義される冪対象と紛らわしくなるので、 この日記シリーズでは使わないことにした。
この定義によって、 F と W の余テンソル対象とは、 任意の の対象 A に対し、 圏の同型
[A,W⋔F] ≅ ⟦W,[A,F-]⟧1→Cat ≅ [W,[A,F]]Cat
が A に関して自然に成り立つものだと述べることもできる。
同様にして、 テンソル対象については、 圏の同型
[W⊙F,A]≅[W,[F,A]]Cat
が A に関して自然に成り立つものである。
さて、 テンソル対象に関する重要な命題の 1 つとして、 2 とのテンソル積をもつ 2-圏では、 柱の 2 次元的普遍性が 1 次元的普遍性から自動的に成り立つというものを挙げておこう。
ここで 2 とは、 対象として ⋆0,⋆1 の 2 つをもち、 恒等射以外の射として !:⋆0→⋆1 のみをもつ通常の圏とする。
2 は以下のような性質をもつ。
補題 6.3.
通常の関手
HomCat(2,-): Cat ⟶ Set ⟼ HomCat(2,)
は同型射を反射する。
証明.
関手 S:→ に対し、 写像 S∘-:Hom(2,)→Hom(2,) が全単射であるとする。
このとき、 S が同型射になることを示せば良い。
そのために、 S の逆射 T:→ を構成する。
任意の の射 f:X→Y に対して、 関手 f:2→ を
f⋆0:=Xf⋆1:=Yf!:=f
によって定める。
S∘- は全単射だから、 関手 Uf:2→ であって S∘Uf=f となるものが一意に存在する。
そこで、 の射 Uf!:Uf⋆0→Uf⋆1 を Tf とおけば、 これによって T の対象と射の対応が定まる。
この対応が関手になることは容易に確かめることができ、 補題が示された。
定理 6.4.
2-小圏 と 2-圏 および 2-関手 F:→,W:→Cat に対し、 柱 η:W⇒[L,F-] を考える。
2 条件
- η は 1 次元的普遍性を満たす。
- 任意の の対象 A に対して 2⊙A が存在する。
がともに成り立つとすると、 η は 2 次元的普遍性も満たす。
証明.
η が 1 次元的普遍性を満たすとは、 任意の の対象 A に対して、 集合の間の写像
T: [A,L]0 ⟶ ⟦W,[A,F-]⟧0 f ⟼ f∗∘η♤
が A に関して自然な全単射になっているということであった。
添字の 0 は、 それが圏ではなく (対象だけを考えて) 集合であることを意味している。
この写像は、 関手
T: [A,L] ⟶ ⟦W,[A,F-]⟧ f ⟼ f∗∘η α ⟼ α∗∗η
に拡張できる。
ここで、 f∗ や α∗ は 8 月 30 日で定義したものと同じである。
この拡張した T が同型射であることが η が 2 次元的普遍性を満たすということなので、 これを示す。
Set における図式
[2,[A,L]]0[2,⟦W,[A,F-]⟧]0⟦W,[2,[A,F-]]⟧0[2⊙A,L]0⟦W,[2⊙A,F-]⟧0T∘-
を考える。
ここで、 左の垂直な射と右下の垂直な射は、 2⊙A の定義にある同型が定める射である。
また、 下の水平な射は同型射 ♤ そのものであり、 右上の垂直な射は自然に定まる同型射である。
すなわち、 この図式において、 上の水平な射以外は全て同型射である。
さらに、 具体的に対象の行き先を調べることで、 この図式は可換であることが示せる。
以上により、 図式中の T∘- も同型射となり、 補題 6.3 によって T 自身も同型射になる。
参考文献
- G. M. Kelly (1989) 「Elementary observations on 2-categorical limits」 『Bulletin of the Australian Mathematical Society』 39:301–317