日記 (2020 年 1 月 10 日)
七十人訳聖書 (旧約聖書のギリシャ語訳) の 『創世記』 を読みます。 前に 『原論』 を読んだときとは違い、 活用形や文解釈に関する解説は最低限に留めます。
- ἐν ἀρχῇ ἐποίησεν ὁ Θεὸς τὸν οὐρανὸν καὶ τὴν γῆν.
- 初めに、 神は天と地を作った。
- ἐνἐν~のときに ἀρχῇἀρχή初め|単.与 ἐποίησενποιέω作る|直.能.ア1.三単 ὁὁ冠|男.単.主 ΘεὸςΘεός神|単.主 τὸνὁ冠|男.単.対 οὐρανὸνοὐρανός天|単.対 καὶκαίと τὴνὁ冠|女.単.対 γῆνγῆ地|単.対.
ἀρχῇ < ἀρχή 「初め」。 これは英単語の archaic や archeology などの arch- として残っています。
οὐρανὸν < οὐρανός 「天」。 英単語 Uranus 「天王星」 の直接的な語源です。
γῆν < γῆ 「地」。 geometry や geology の geo- として残っていますね。
- ἡ δὲ γῆ ἦν ἀόρατος καὶ ἀκατασκεύαστος, καὶ σκότος ἐπάνω τῆς ἀβύσσου, καὶ πνεῦμα Θεοῦ ἐπεφέρετο ἐπάνω τοῦ ὕδατος.
- 地は見えず準備できておらず、 闇が深い淵の上にあり、 神の霊が水の上を覆っていた。
- ἡὁ冠|女.単.主 δὲδέそして γῆγῆ地|単.主 ἦνεἰμίである|直.能.未完.三単 ἀόρατοςἀόρατος見えない|女.単.主 καὶκαίそして ἀκατασκεύαστοςἀκατασκεύαστος準備できていない|女.単.主, καὶκαίそして σκότοςσκότος闇|単.主 ἐπάνωἐπάνω上に τῆςὁ冠|女.単.属 ἀβύσσουἄβυσσος深い淵|単.属, καὶκαίそして πνεῦμαπνεῦμα霊|単.主 ΘεοῦΘεός神|単.属 ἐπεφέρετοἐπιφέρω上を覆う|直.中.未完.三単 ἐπάνωἐπάνω上に τοῦὁ冠|中.単.属 ὕδατοςὕδωρ水|単.属.
ἀόρατος 「見えない」。 ὁρατός 「見える」 に ἀ- (否定の接頭辞) が合成されたもので、 ὁρατός は動詞の ὁράω 「見る」 から作られた動形容詞です。
ἀκατασκεύαστος 「準備できていない」。 ἀ- (否定) と κατα- 「完全に」 と σκεύαστος 「準備できている」 の合成語になっていて、 σκεύαστος は σκευάζω 「準備する」 の動形容詞です。 ギリシャ語はこのような合成語を結構どんどん作るっぽいので、 パッと分解できるようになりたいものです。 ちなみに、 動形容詞は受動相アオリスト時制に出てくる語幹の形に -τος/-τη/-τον を付けて作られますが、 σκευάζω の受動相アオリスト時制形は ἐσκευάσθην なので、 σκεύαστος という形になっています。
σκότος 「闇」。 これははちょっと変わった単語で、 男性名詞のときは第 2 変化をし、 中性名詞のときは第 3 変化をします。 ここだけではどっちか判断できませんが、 1.4 で σκότους という第 3 変化の属格形が出てくるので、 『創世記』 では中性名詞として扱うようです。
πνεῦμα 「霊」。 これ以外にも 「空気」 や 「呼吸」 の意味があり、 この単語由来の英語の pneumo- は空気や肺を表す接頭語になっています。
ὕδατος < ὕδωρ 「水」。 hydrogen などの hydro- ですね。 単数主格形が ὕδωρ であることを除けば、 語幹が ὕδατ- の第 3 変化中性名詞の曲用をします。
ἐπεφέρετο < ἐπιφέρω 「上を覆う」。 これは ἐπι- 「上に」 が φέρω 「運ぶ, もたらす」 に合成されたものです。 φέρω は形が全く異なる 3 つの語幹をもっていて、 以下の表のようななかなかアクロバティックな活用をします。 現在時制形の φέρω は transfer や periphery などにある -fer や -phery の部分と語源関係があり、 未来時制形の οἴσω は use と語源関係があるようです。
直.能.現 | φέρω |
---|---|
直.能.未 | οἴσω |
直.能.ア1 | ἤνεγκα |
直.能.完2 | ἐνήνοχα |
直.中.完 | ἐνήνεγμαι |
直.受.ア1 | ἠνέχθην |
- καὶ εἶπεν ὁ Θεός· γενηθήτω φῶς· καὶ ἐγένετο φῶς.
- そして、 神は言った。 「光あれ。」 と。 すると光があった。
- καὶκαίそして εἶπενλέγω言う|直.能.ア2.三単 ὁὁ冠|男.単.主 ΘεόςΘεός神|単.主· γενηθήτωγίγνομαι生まれる|命.受.ア1.三単 φῶςφῶς光|単.主· καὶκαίそして ἐγένετογίγνομαι生まれる|直.中.ア.三単 φῶςφῶς光|単.主.
εἶπεν < λέγω 「言う」。 λέγω も全く異なる 3 つの語幹をもっている上に、 1 つの時制に形が 2 つあったりします。 かわいいよね (やめてほしいけど)。
直.能.現 | λέγω |
---|---|
直.能.未 | λέξω, ἐρῶ |
直.能.ア | ἔλεξα, εἶπον |
直.能.完1 | εἴρηκα |
直.中.完 | λέλεγμαι, εἴρημαι |
直.受.ア1 | ἐλέχθην, ἐρρήθην |
γενηθήτω, ἐγένετο < γίγνομαι 「生まれる」。 これは能動相欠如動詞で、 アオリスト時制を除いて中動相と受動相の活用形のみをもちます。 これ原形が全然分からなくて泣いてました。 ちなみに、 英語の genesis や generate などの gen- と語源関係があります。
直.中.現 | γίγνομαι |
---|---|
直.中.未 | γενήσομαι |
直.中.ア | ἐγενόμην |
直.能.完2 | γέγονα |
直.中.完 | γεγένημαι |
直.受.ア1 | ἐγενήθην |