概要

これは、 ざすろん氏によって作成された 『リンゴを食べたい 58 文』 をシャレイア語に翻訳したものである。 58 文の一覧はここで見ることができる。

リンゴ文の各文に対し、 もともとの日本語の文とそのシャレイア語訳に加え、 グロスと簡単な解説を付した。 グロスで使われる略号は、 こちらを参照すること。

翻訳

1

vomac sôdos a tel e sakil.
私はリンゴを食べる。
vom-a-c繰り返す--. sôd-o-s食べる--. a tel e sakilリンゴ.

「食べる」 を単純に現在時制無相とすることはできない。 これは、 現在という幅のない一瞬のうちに 「食べる」 という行為全体を行うことはあり得ないためである。 したがって、 ここでは 「リンゴを食べる」 というのが現在も続いている習慣であると考え、 反復表現で翻訳した。 直訳すると、 「私はリンゴを食べることを何度か繰り返すことの途中である」 となる。 なお、 時制と相に関する詳しい説明はここを参照すること。

2

sôdes a tel e sakil.
私はリンゴを食べた。
sôd-e-s食べる--. a tel e sakilリンゴ.

「食べる」 という意味の単語 sôd を過去時制にしている。 過去は幅のある時間なので、 上の文で述べたことは問題にはならない。

3

sôdac a ces e sakil.
彼はリンゴを食べている。
sôd-a-c食べる--. a ces e sakilリンゴ.

日本語の 「リンゴを食べている」 は、 食べるという行為が完了する (リンゴが口の中に入れられて全て飲み込んでしまう瞬間) 前の状態を表すと解釈するのが自然なので、 経過相を用いた。

4

sôdat a ces e sakil.
彼女はリンゴを食べ終わっている。
sôd-a-t食べる--. a ces彼女 e sakilリンゴ.

日本語の 「リンゴを食べ終わっている」 は、 食べるという行為が完了した後の状態を指すので、 継続相を用いている。 なお、 終了相は行為の後の状態が途切れる瞬間を表すので、 「食べ終わっている」 という表現に引きずられて終了相にするのは誤りである。

シャレイア語では、 指示代名詞を性別で区別しないので、 「彼」 も 「彼女」 もともに ces で訳すことになる。

5

sôdet a ces e sakil.
彼女はリンゴを食べ終わっていた。
sôd-e-t食べる--. a ces彼女 e sakilリンゴ.

上の文を過去時制にするだけで良い。

6

sôdes a yéf i tel e sakil.
私の妻はリンゴを食べたことがある。
sôd-e-s食べる--. a yéf i-非動-~の tel e sakilリンゴ.
zikolat a yéf i tel e’n sôdes a’s e sakil.
私の妻はリンゴを食べたことがある。
zikol-a-t経験する--. a yéf i-非動-~の tel e sôd-e-s食べる--. a ’s彼女 e sakilリンゴ.

「~したことがある」 という経験は、 単に 「~した」 と考えて、 最初の例文のように過去時制無相を用いて表現することが多い。 そのような経験があることを特に強調したい場合は、 「~したという経験をしている」 だと考えて、 2 つ目の例文のように 「経験する」 という意味の zikol を用いる。

「私の妻」 のような名詞修飾には、 非動詞修飾を表す活用接尾辞 i をゼロ助接詞 (語幹が空の助接詞) に付けた i を用いる。 シャレイア語は後置修飾する言語なので、 「私の妻」 を訳すときは、 「私」 を意味する tel が 「妻」 を意味する yéf の後ろに置かれる。

7

vomac sôdos a yéf i tel e sakil te taq atov.
私の妻はリンゴを毎日食べる。
vom-a-c繰り返す--. sôd-o-s食べる--. a yéf i-非動-~の tel e sakilリンゴ te~の時刻に taq a-tov-それぞれの.

「リンゴを食べる」 という行為の繰り返しを意味するので、 反復表現を用いている。 反復を表す vom は省略できない。 構文的には 1 番目の文と同じである。

8

sôdes a tel o yéf i tel e sakil te tazît.
私と私の妻は昨日リンゴを食べた。
sôd-e-s食べる--. a tel o yéf i-非動-~の tel e sakilリンゴ te~の時刻に tazît昨日.

語句を並列して接続するには、 連結詞の o を用いる。

9

sôdes a tel o yéf i tel e sakil te zîk ile lattaq aric.
私と私の妻は 6 日前にリンゴを食べた。
sôd-e-s食べる--. a tel o yéf i-非動-~の tel e sakilリンゴ te~の時刻に zîk i-le非動-~の数量分の lattaq1 日 a-ric-6.

「6 日前」 は 「6 日分だけ以前」 と考えて、 「以前」 を表す zîk に、 被修飾語の程度を数量で説明する役割をもつ ile 句を修飾させて訳出する。 ここでは、 6 日分だけ以前のことについて表現したいので、 ile lattaq aric としている。 数詞は常に形容詞として用いる。 なお、 具体的な日を表すには taq を用いる (7 番目の文で用いている) が、 単位としての 1 日を表すには lattaq という別の単語を用いるので、 注意すること。

10

sôdis a ces e sakil te tacál.
彼らは明日リンゴを食べる。
sôd-i-s食べる--. a ces彼ら e sakilリンゴ te~の時刻に tacál明日.
sôdis a ces avéf e sakil te tacál.
彼らは明日リンゴを食べる。
sôd-i-s食べる--. a ces a-véf-たち e sakilリンゴ te~の時刻に tacál明日.

未来に起こるだろうことを表現しているので、 動詞は未来時制にする。

シャレイア語では単数と複数を構文的に区別しないので、 ces は単数の 「彼」 も複数の 「彼ら」 も表し得る。 特に複数であることを明示したい場合は、 被修飾語が複数であることを意味する véf を用いれば良い。 なお、 以降 「彼ら」 や 「彼女ら」 が含まれる文を訳出する際は、 ces を単独で用いた文のみを挙げ、 ces avéf という形を用いた文を追加で挙げることはしない。

11

sôdis a ces e sakil te carip ile lattaq aric.
彼らは 6 日後にリンゴを食べる。
sôd-i-s食べる--. a ces彼ら e sakilリンゴ te~の時刻に carip i-le非動-~の数量分の lattaq1 日 a-ric-6.

構文的には 9 番目の文と同じである。 ここでは 6 日分だけ以後のことについて言及したいので、 「以前」 の意味の zîk の代わりに 「以後」 の意味の carip を用いている。

12

vomac sôdos a ces e sakil teku taq al’ayos.
彼女らは 3 日間リンゴを食べている。
vom-a-c繰り返す--. sôd-o-s食べる--. a ces彼女ら e sakilリンゴ teku~の間 taq al’~個の a-yos-3.

同じリンゴを 3 日かけて食べ続けているというよりは、 リンゴを食べるという別々の行為を 3 日間繰り返しているという意味なので、 反復表現を用いている。

「3 日間」 の表現には、 「3 つの日」 と考えて基数表現を用いる。

13

sôdac a ces e sakil teku lôt avôl ile meris axaf.
彼女らはリンゴを 5 分間食べ続けている。
sôd-a-c食べる--. a ces彼女ら e sakilリンゴ teku~の間 lôt時間 a-vôl-~の間 i-le非動-~の数量分の meris1 分 a-xaf-5.

これは 5 分かけて 1 つのリンゴを食べ続けているという意味なので、 反復表現にはせず単に経過相を用いている。

「5 分」 を表現するには 「5 分の数量の時間」 と言う必要がある。 すなわち、 「時間」 を表す lôt に、 被修飾語の程度を数量で説明する役割をもつ ile 句を修飾させ、 ile 句の中に 「5 分」 を表す meris axaf を入れる。 この meris は単位名詞なので、 「5 つの分」 と考えて meris al’axaf とはできない。

14

sôdac ovák a ces e sakil.
彼は常にりんごを食べている。
sôd-a-c食べる--. o-vak-常に a ces彼女ら e sakilリンゴ.

15

qetat a sakil al’ayos.
リンゴが 3 つある。
qet-a-tある--. a sakilリンゴ al’個の a-yos-3.

単純に何らかのものがどこかに存在していることを表したければ、 「ある」 や 「存在する」 という意味の qet を継続相にして用いる。 「存在する」 に相当する単語には qet の他にも kocaq があるが、 kocaq の方は、 存在するのか存在していないのかに注目して存在することを表す単語である。

個数を表現するには、 名詞の後に al’ + 数詞の形を続ければ良い。 日本語のような助数詞はシャレイア語にはなく、 どんなものでも al’ を使う。

16

qetat a sakil avéf vo hif izi dèt.
リンゴたちがテーブルの上にある。
qet-a-tある--. a sakilリンゴ a-véf-たち vo~の場所で hif i-zi非動- dètテーブル.

前の文と同様、 存在を表す qet を用いている。

「上」 を意味する hif は、 何の上なのかを表現するのに zi の非動詞修飾形をとることになっている。 そのため、 「テーブルの上」 は hif izi dèt となる。 6 番目の文で使っているようなゼロ助接詞の非動詞修飾形を用いて、 hif i dèt とすることはできない。

17

sôdat a zis e sakil aquk.
誰かがあのリンゴを食べてしまった。
sôd-a-t食べる--. a zis誰か e sakilリンゴ a-quk-あの.

継続相は、 その動作が完了した後の状態が続いていることを表す。 したがって、 「食べる」 を継続相にすると、 食べて終わってしまってその食べたものがない状態が続いていることを表すようになる。

不特定の 「誰か」 には zis を使う。 zis を省略して sôdat e sakil aquk としても意味的には変わらないが、 このようにすると、 リンゴを食べた人ではなくリンゴそのものに焦点が当てられることになる。

18

fêzat sôdis a zis e sakil afik.
誰かがこのリンゴを食べそうだ。
fêz-a-tしそうに思わせる--. sôd-i-s食べる--. a zis誰か e sakilリンゴ a-fik-この.
revat a tel e’n sôdis a zis e sakil afik.
誰かがこのリンゴを食べそうだ。
rev-a-t思う--. a tel e sôd-i-s食べる--. a zis誰か e sakilリンゴ a-fik-この.

その場の状況からして誰かがリンゴを食べることが客観的に予期される場合は、 fêz を使うことができる。 自分がそう思っているだけである場合は、 「私は~と思う」 と言う。

20

qetat a sakil adak.
リンゴが 1 つもない。
qet-a-tある--. a sakilリンゴ a-dak-何も~ない.

被修飾語が存在しないことを表す dak を用いている。 構文は 15 番目の文と同じである。

21

vomac dusôdos a tel e sakil.
私はリンゴを食べない。
vom-a-c繰り返す--. du-sôd-o-s-食べる--. a tel e sakilリンゴ.

1 番目の文の場合と同じく、 主節の動詞を現在時制無相にすることはできないため、 「習慣的にリンゴを食べない」 と解釈して反復表現にしている。

単語の意味を否定したい場合は、 否定を表す活用接頭辞の du を付ければ良い。

22

duqifat sôdas a tel e sakil.
私はリンゴを食べられない。
du-qif-a-t-可能にする--. sôd-a-s食べる--. a tel e sakilリンゴ.

状況的に何らかの行為が可能であることを表すには qif を用いる。 一方で、 能力があるために何らかの行為が可能であることを表すには kil を用いる。 このように、 シャレイア語では状況による可能と能力による可能を区別して表現する。

23

delivez li tel a sakil ca delef.
私はリンゴを床に落とした。
deliv-e-z落ちる--. li tel a sakilリンゴ ca delef.

「落とす」 は、 「落ちる」 の意味の deliv を補助態にして表現する。 補助態とは 「その行為を行うのを他者に手助けされる」 という意味になる態で、 手助けしたものを li 句で表現する。 この文では、 「リンゴが床に落ちる」 という行為を 「私」 が手助けしているため、 「私」 が li 句に置かれている。

24

delives a sakil ca delef.
リンゴが床に落ちた。
deliv-e-s落ちる--. a sakilリンゴ ca delef.

上の文の deliv を通常態として用いた文である。