日記 (2020 年 8 月 3 日)
今日は、 局所表示可能圏が完備であることを見る。
まずは準備として、 稠密部分圏に関する性質を証明する。
定義 5.1.
圏 とその小部分圏 ⊆ をとる。
の任意の対象 C に対し、 関手
G: /C ⟶ ❲s:S→C❳ ⟼ S
の余錐 (s:Gs→C)s∈/C が余極限になるとき、 は稠密 (dense) であるという。
定義 5.2.
圏 とその小部分圏 ⊆ に対し、 関手
z: ⟶ Set∘ C ⟼ ❲ ∘ ⟶ Set S ⟼ Hom(S,C)❲
を制限 Yoneda 埋め込み (restricted — embedding)という。
と z には以下の関係がある。
補題 5.3.
圏 とその小部分圏 ⊆ に対し、 2 条件
- は稠密である。
- z は忠実充満である。
は同値である。
証明.
まず、 定義 5.1 中の関手 G:/C→ について、 G の余錐 (ds:Gs→D)s∈/C と自然変換 d:zC⇒zD は同じものであることが観察できる。
が稠密であるということは、 余錐 (s:Gs→C)s∈/C が余極限であることであった。
これはすなわち、 任意の余錐 (ds:Gs→D)s∈/C に対し、 射 h:C→D が一意に存在して、 各 /C の対象 s に対して sh=ds が成り立つということである。
上の観察により、 このことは、 任意の自然変換 d:zC⇒zD に対し、 射 h:C→D が一意に存在して、 zh=d が成り立つということである。
これは、 z が忠実充満であることを意味する。
さらに、 z の性質を 2 つ示す。
補題 5.4.
圏 とその小部分圏 ⊆ に対し、 関手 z:→Set∘ は単射を保存する。
証明.
任意に の単射 f:C→D をとる。
このとき、 Set∘ で zf:zC→zD が単射であることを示せば良いが、 そのためには各 の対象 S に対して Set で (zf)S:Hom(S,C)→Hom(S,D) が単射であることを示せば良い。
この (zf)S は f を後ろに合成するという写像であるが、 f は単射だったから、 (zf)S も明らかに単射である。
補題 5.5.
圏 とその小部分圏 ⊆ に対し、 が余完備ならば、 関手 z:→Set∘ は左随伴をもつ。
証明.
Set∘ の対象 P に対し、 元の圏からの忘却関手
F: El(P) ⟶ (S,s) ⟼ S
を考えると、 仮定から は余完備なので、 この余極限 (c(S,s):F(S,s)→C)(S,s)∈El(P) がとれる。
さらに、 各 の対象 S に対し、
ηS: PS ⟶ Hom(S,C) s ⟼ c(S,s)
とおくと、 これは S について自然であるから、 Set∘ の射 η:P→zC が得られる。
これが P からの普遍射であることを示せば良い。
任意に Set∘ の射 η:P→zC をとる。
このとき、 (ηSs:F(S,s)→C)(S,s)∈El(P) は F の余錐になる。
したがって、 余極限の普遍性によって、 射 h:C→C が一意に存在して、 任意の El(P) の対象 (S,s) に対し、 での図式
F(S,s)CCc(S,s)ηSsh
が可換になる。
これは、 Set∘ での図式
FzCzCηηzh
が可換であると言い換えることができ、 このことは η が普遍射であることを意味する。
では、 到達可能圏についての議論に戻ろう。
定義 4.6 では、 κ-到達可能圏 の κ-表示可能対象の同型類の代表元全体を Presκ() と定義したが、 これが稠密になっている。
定理 5.6.
正則基数 κ をとる。
κ-到達可能圏 に対し、 Presκ() は稠密である。
証明.
まず、 定理 4.7 により :=Presκ() は小である。
の任意の対象 C をとり、 関手
G: /C ⟶ ❲s:S→C❳ ⟼ S
を考える。
は κ-到達可能だから、 κ-表示可能対象の κ-有向図式 F:→ によって C=colimF と書ける。
この余極限余錐を (ci:Fi→C)i∈ とおく。
このとき、
H: ⟶ /C i ⟼ ci
は関手であり、 HG=F が成り立つ。
したがって、 H が終であることが示されれば、 colimG=colimF=C となって が稠密であることが示される。
定理 1.6 により、 任意に /C の対象 s:S→C をとって、 s↓H が連結であることを示せば良い。
まず、 s↓H が空でないことを示す。
S は の対象より κ-表示可能で C は κ-有向余極限だから、 ある の対象 i が存在して、
SCFisgci
と分解できる。
この g は、 /C の射 g:s→Hi と見なせ、 したがって s↓H の対象である。
これより、 s↓H は空でない。
次に、 任意に s↓H の対象 g:s→Hi,g:s→Hi をとり、 g と g が s↓H の射で結ばれることを示す。
/C の射として g:s→Hi, g:s→Hi であるから、 の射としては g:S→Fi, g:S→Fi であり、
s=gci=gci
が成り立つ。
すなわち、 s の 2 通りの分解が存在することになるので、 そのような分解が本質的に一意であることから、 ある の対象 i が存在して、 i≤i かつ i≤i であって、
gF❲i↪i❳=gF❲i↪i❳
が成り立つ。
この等しい射を g:S→Fi とおく。
すると、
gci=gF❲i↪i❳ci=gci=s
であるから、 /C の射 g:s→Hi と見なすことができ、 したがって g は s↓H の対象である。
さらに、 の射 u:i↪i, u:i↪i はそれぞれ s↓H の射 u:g→g, u:g→g と見なすことができる。
したがって、 g と g が s↓H の射で結ばれた。
以上により、 s↓H は連結である。
ここで、 次のよく知られた性質を思い出そう。
命題 5.7.
圏 の反射的部分圏 ⊆ をとる。
が完備ならば、 も完備である。
以上で示した性質を使うと、 全ての κ-局所表示可能圏が完備であることが示せる。
定理 5.8.
正則基数 κ をとる。
全ての κ-局所表示可能圏は完備である。
証明.
κ-局所表示可能圏 をとり、 :=Presκ() とおく。
さらに、 制限 Yoneda 埋め込み z:→Set∘ を考える。
定理 5.6 により は稠密だから、 補題 5.3 により z は忠実充満である。
さらに、 は余完備だから、 補題 5.5 により z は左随伴をもつ。
以上により、 は Set∘ の反射的部分圏と圏同値である。
Set∘ は完備だから、 最後に命題 5.7 を使えば も完備であることが従う。
ついでに、 全ての κ-到達可能圏が冪化可能であることも示せる。
こちらは余完備性を使わないので、 κ-局所表示可能とは限らなくても κ-到達可能であれば成り立つ。
定理 5.9.
正則基数 κ をとる。
全ての κ-到達可能圏は冪化可能である。
証明.
κ-到達可能圏 をとり、 :=Presκ() とおき、 制限 Yoneda 埋め込み z:→Set∘ を考える。
定理 5.6 と補題 5.3 によって z は忠実充満で、 補題 5.4 によって z は単射を保存する。
したがって、 任意の の対象 C に対し、
Ш: Sub(C) ⟶ SubSet∘(zC) m ⟼ zm
は全単射である。
Set∘ は冪化可能なので Sub(zC) は集合サイズだから、 これより Sub(C) も集合サイズである。
以上により、 は冪化可能である。
参考文献
- J. Adámek, J. Rosický (1994) 『Locally Presentable and Accessible Categories』 Cambridge University Press