日記 (2020 年 1 月 3 日)

2 つの線型空間のテンソル積を考えることはよくあるが、 そこの元が 0 であるかチェックする方法を知らなかった (というか忘れていた) ので、 メモしておく。 以降、 係数体 󱀊 は固定し、 線型空間や線型写像やテンソル積は全て 󱀊 上で考える。

線型空間 V,W に対して、 そのテンソル積 VW の元は、 V の元と W の元のテンソル積の有限和として、 ξ=:n󰄚i=1(viwi) と書ける。 ここで、 この表示においてテンソル積の右側に出てくる (wi)1in が線型従属であったとする。 すなわち、 全てが 0 というわけではない係数の族 (ai)1in が存在して、 n󰄚i=1aiwi=0 が成り立つとする。 ai たちのうち少なくとも 1 つは 0 でないので、 適宜順番を入れ替えることで an0 であるとする。 すると、 上の式によって wn は、 wn=n1󰄚i=1 ai anwi と書ける。 これを最初の式に代入すれば、 ξ = (n1󰄚i=1(viwi)((vnn1󰄚i=1 ai anwi( = n1󰄚i=1(vi ai anvn(wi となり、 ξ をテンソル積の和としての表現したときの項の個数を 1 つ減らすことができる。 したがって、 テンソル積の和としての表現の右側に出てくる W の元が線型従属である限り、 上の操作を繰り返し行って項の個数を減らしていくことで、 最終的に和に出てくる W の元を線型独立にすることができる。 すなわち、 ξ を式 のように表すとき、 初めから (wi)1in が線型独立であるとして良い。

このように表示しておくと、 その元が 0 であるかどうかは非常に簡単にチェックできる。

命題 1.

線型空間 V,W のテンソル積 VW の元 ξ を、 ξ=:n󰄚i=1(viwi) と表し、 (wi)1in は線型独立であるとする。 このとき、 ξ=0 であるための必要十分条件は、 各 1in に対して vi=0 となることである。

証明.

十分性は明らかである。 必要性を示すため、 ξ=0 であるとする。

任意に線型写像 λ:V󱀊 をとると、 これは線型写像 Fλ: VW W vw λ(v)w を誘導する。 この写像における ξ の像を考えることで、 n󰄚i=1λ(vi)wi=0 を得るが、 仮定によって (wi)i は線型独立であるから、 任意の i に対して λ(vi)=0 が成り立つ。

i を固定する。 もし vi0 であれば、 vi を含むような V の基底がとれるので、 vi を 1 に移してそれ以外の基底を 0 に移すような線型写像 λ:V󱀊 が作れる。 しかし、 上の議論から、 この λ に対しても λ(vi)=0 が得られてしまうので、 これは矛盾である。 したがって、 vi=0 となり、 必要性が示された。

このテクニックの応用として、 次の命題が示せる。

命題 2.

線型空間 V,W,X,Y に対して、 線型写像 Φ: Hom(V,X)Hom(W,Y) Hom(VW,XY) fg VW XY vw f(v)g(w) は単射である。

証明.

KerΦ=0 を示せば良い。 任意に元 ξKerΦ をとり、 ξ=:n󰄚i=1(figi) と表し、 (gi)i は線型独立であるとする。 ここで、 Φ(ξ)=0 であることから、 任意の vV および wW に対し、 XY の元として、 n󰄚i=1(fi(v)gi(w))=0 が成り立つ。 任意に線型写像 λ:X󱀊 をとると、 Y の元として、 n󰄚i=1λ(fi(v))gi(w)=0 が成り立つ。 ここで wW は任意だったので、 Hom(W,Y) の元として、 n󰄚i=1λ(fi(v))gi=0 も成り立つ。 ここで、 (gi)i は線型独立であると仮定していたので、 任意の i に対して λ(fi(v))=0 である。 命題 1 の証明と同様の議論により、 このことから fi(v)=0 が得られる。 vV は任意だったので、 fi=0 が成り立つ。 すなわち、 ξ=0 である。