日記 (2021 年 5 月 12 日)
今回は、 Kan 拡張によって前層圏との間に定まる随伴について触れる。
これは 5 月 7 日の続きになっていて、 しばしば 5 月 7 日の命題を引用する。
後で使うので、 左随伴関手は左 Kan 拡張を保つという事実を示しておく。
定理 2.1.
左随伴関手は左 Kan 拡張を保つ。
証明.
関手 F:→,K:→ をとり、 L:=LanKF が存在するとする。
また、 関手 G:→,R:→ が随伴 G⊣H を成しているとする。
このとき、 G∘L=LanK(G∘F) であることを示せば良い。
命題 1.4 と随伴により、 任意の関手 L:→ に対し、
Hom[,](G∘L,L) ≅ Hom[,](L,H∘L) ≅ Hom[,](F,H∘L∘K) ≅ Hom[,](G∘F,L∘K)
が成り立ち、 これは L に関して自然である。
したがって、 再び命題 1.4 によって、 G∘L=LanK(G∘F) が成り立つ。
Yoneda 埋め込みとの左 Kan 拡張を考えることにより、 ある小圏とその前層圏との間に標準的な随伴が誘導される。
以下、 小圏 に対し、 Yoneda 埋め込みを y:→Set∘ と書く。
また、 前層圏 Set∘ を考えているときは、 暗黙のうちに は小圏であると仮定する。
命題 2.2.
関手 F:→ をとる。
このとき、 LanFy:→Set∘ が存在して各点であり、 各 の対象 D に対し、
(LanFy)D≅Hom(F-,D)∈Set∘
と表せる。
証明.
Set∘ は余完備だから、 定理 1.11 により LanFy は存在して各点である。
さらに、 命題 1.12 により、 の対象 D と Set∘ の対象 P に対し、
HomSet∘((LanFy)D,P)≅Hom[∘,Set](Hom(F-,D),Hom(y-,P))
が自然に成り立つ。
Yoneda の補題により Hom(y-,P)≅P であるから、 これより、
HomSet∘((LanFy)D,P)≅Hom[∘,Set](Hom(F-,D),P)
が自然に成り立つ。
再び Yoneda の補題より、
(LanFy)D≅Hom(F-,D)
を得る。
命題 2.3.
小圏 に対し、 Lanyy:Set∘→Set∘ が存在して各点であり、 Lanyy≅idSet∘ である。
証明.
命題 2.2 により Lanyy は存在して各点で、 Set∘ の対象 P に対し、
(Lanyy)P≅Hom(y-,P)
が成り立つ。
Yoneda の補題により Hom(y-,P)≅P だから、 (Lanyy)P≅P となって命題の主張が従う。
定理 2.4.
関手 F:→ をとる。
もし LanyF:Set∘→ が存在して各点であるならば、 随伴 LanyF⊣LanFy が成り立つ。
証明.
Set∘ の対象 P と の対象 D に対し、 命題 1.12 と命題 2.2 を使うと、
Hom((LanyF)P,D) ≅ Hom[∘,Set](Hom(y-,P),Hom(F-,D)) ≅ Hom[∘,Set](P,(LanFy)D)
が自然に成り立つことが分かる。
これはすなわち、 LanyF⊣LanFy が成り立つということである。
逆に、 前層圏との間の随伴はこの形しかないことも示せる。
定理 2.5.
関手 G:Set∘→,H:→Set∘ をとり、 は小であるとする。
随伴 G⊣H が成立するならば、 ある関手 F:→ が存在して、 G=LanyF および H=LanFy が成り立つ。
証明.
F:=G∘y とおくと定理の主張が成り立つことを示す。
G は左随伴関手だから、 定理 2.1 によって G は左 Kan 拡張を保存する。
したがって、 命題 2.3 によって、
G≅G∘Lanyy≅Lany(G∘y)=LanyF
が成り立つ。
Lanyy が各点だったから、 G=Lany(G∘y) も各点である。
これより定理 2.4 が使えて、 随伴 G⊣LanFy が成り立つ。
随伴の一意性により、 H≅LanFy である。
この形の随伴は、 代数幾何学の分野で出てくる単体的集合のナーブ関手と幾何学的実現関手が典型例であるため、 ナーブ実現随伴と呼ばれることもある。
参考文献
- E. Riehl (2016) 『Category Theory in Context』 Dover Publications